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2024.12.11

レビュー

時代遅れで劣悪だったルーヴル美術館は、いかにして「最強のブランド」となったか?

25年前、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」しか知らなかった私が初めてルーヴル美術館を訪れたとき、一番印象に残ったのは「サモトラケ島のニケ」でした。

それから15年後、再びルーヴルを訪れ、「ニケ」へと続く長い長〜い回廊をワクワクしながら歩いていたときのことです。
像に近づくにつれ、まず「ニケ」の足元が見え、徐々に腰まで見え、最後に全身が現れたとき、こんな演出がなされていたのか!!と感動しました。
まるで劇場の幕がゆっくり上がり、主役が登場したように見えたからです。
《サモトラケ島のニケ》
ルーヴル美術館といえば、フランス国王フランソワ1世がダ・ヴィンチをイタリアから招聘し、ナポレオン・ボナパルトがイタリアを征服した際に多くの美術品を持ち帰ったことで有名です。

こうした歴史的な背景はもちろん、この本にはいかにして「世界で最も入館者の多い美術館」の称号を手にすることができたのかという観点で書いてあり、これがとても面白いのです。

時代遅れの無秩序展示

現在の洗練された展示法と違い、1920年代のルーヴルは正直ビミョーです(笑)。
壁一面に絵画が二段、三段重ねで展示され、最大で七段掛けもあったとか。さらに天井画と金箔装飾が施され、絵に集中できない状態でした。

この本では、当時の貴重な絵や写真が見られるのですが、ゴテゴテした感じは悪趣味と紙一重。
1921年の「国家の間」
同上
1909年のサロン・カレ
そもそも歴代国王やナポレオンが手に入れたコレクションは、権力を誇示するためのものでした。
また裕福な貴族からの寄贈品は、敬意を表すために展示室が作られ、同じ部屋に一括して飾られたため、統一性もありませんでした。

しかし、作品を国有化(ナショナリゼーション)し、国別や編年的に秩序だてたことで、ルーヴルが生まれ変わったのです。

翼のないニケ

さらに、「モナリザ」「ミロのヴィーナス」「サモトラケ島のニケ」をルーヴルの顔としたことも、ブランディングの鍵だったといいます。

確かに1880年代の「サモトラケ島のニケ」の写真は胴体だけで、これを見ても印象には残らなかったでしょう。
なにせルーヴルには、膨大な数の作品があるのですから。
1880年頃のローマ彫刻展示室《サモトラケ島のニケ》展示
後に翼が復元されましたが、「ニケ」には頭部がありません。なぜだろうとずっと思っていたのですが、完璧にしなかったことも戦略の一つでした。
確かに顔がないことで、風を受けながら力強く立ち向かう翼や肉体に目が釘付けになった気がします。

映えるスペクタクル!?

実は今も、1日だけでなく翌日もルーヴルに行けばよかったと後悔しています。ぜんぜん見終わらなかったので。

しかし、現在のルーヴルには約35,000点の作品が展示され、全てを鑑賞するには、とてつもない日数を要することがわかりました。

だからこそ、時間に余裕のない観光客のために、「傑作だけを小一時間で見学」し、「ニケ像のごとく『映える』スペクタルを提供することで、一般の観光客は十分満足」するようになっているというのです。

これ、私のことじゃないですか!! 「ニケ」にすっかり魅了され、再びルーヴルを訪れ大満足で帰った私は、まんまと術中に嵌ったわけです(笑)。

ほかにも面白い話がいっぱい載っています。
ルーヴルにはルノワールやゴッホなど印象派のイメージがなく、飾られていたかなぁ?と思ったら、いかにもルーヴルらしい逸話がありました。
「モナリザ」の米国、日本への貸し出しと政治的解釈も興味深かったです。

この本は250ページほどあるのに、絵や写真が豊富なので、すんなり読めます。ルーヴル美術館を訪れたことがあるなら、ルーヴルに魅了されたことがある人なら、さらに面白く読める本だと思いました。
図版はすべて『ルーヴル美術館 ブランディングの百年』より

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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