それから15年後、再びルーヴルを訪れ、「ニケ」へと続く長い長〜い回廊をワクワクしながら歩いていたときのことです。
像に近づくにつれ、まず「ニケ」の足元が見え、徐々に腰まで見え、最後に全身が現れたとき、こんな演出がなされていたのか!!と感動しました。
まるで劇場の幕がゆっくり上がり、主役が登場したように見えたからです。
こうした歴史的な背景はもちろん、この本にはいかにして「世界で最も入館者の多い美術館」の称号を手にすることができたのかという観点で書いてあり、これがとても面白いのです。
時代遅れの無秩序展示
壁一面に絵画が二段、三段重ねで展示され、最大で七段掛けもあったとか。さらに天井画と金箔装飾が施され、絵に集中できない状態でした。
この本では、当時の貴重な絵や写真が見られるのですが、ゴテゴテした感じは悪趣味と紙一重。
また裕福な貴族からの寄贈品は、敬意を表すために展示室が作られ、同じ部屋に一括して飾られたため、統一性もありませんでした。
しかし、作品を国有化(ナショナリゼーション)し、国別や編年的に秩序だてたことで、ルーヴルが生まれ変わったのです。
翼のないニケ
確かに1880年代の「サモトラケ島のニケ」の写真は胴体だけで、これを見ても印象には残らなかったでしょう。
なにせルーヴルには、膨大な数の作品があるのですから。
確かに顔がないことで、風を受けながら力強く立ち向かう翼や肉体に目が釘付けになった気がします。
映えるスペクタクル!?
しかし、現在のルーヴルには約35,000点の作品が展示され、全てを鑑賞するには、とてつもない日数を要することがわかりました。
だからこそ、時間に余裕のない観光客のために、「傑作だけを小一時間で見学」し、「ニケ像のごとく『映える』スペクタルを提供することで、一般の観光客は十分満足」するようになっているというのです。
これ、私のことじゃないですか!! 「ニケ」にすっかり魅了され、再びルーヴルを訪れ大満足で帰った私は、まんまと術中に嵌ったわけです(笑)。
ほかにも面白い話がいっぱい載っています。
ルーヴルにはルノワールやゴッホなど印象派のイメージがなく、飾られていたかなぁ?と思ったら、いかにもルーヴルらしい逸話がありました。
「モナリザ」の米国、日本への貸し出しと政治的解釈も興味深かったです。
この本は250ページほどあるのに、絵や写真が豊富なので、すんなり読めます。ルーヴル美術館を訪れたことがあるなら、ルーヴルに魅了されたことがある人なら、さらに面白く読める本だと思いました。