2023年7月、睡眠アプリ「Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)」がリリースされた。自分の睡眠を記録することで、睡眠時間や質、身体の動きなどを知ることができるという。睡眠スコアがよければ、さまざまなポケモンたちの「寝顔」を撮影できるといった楽しみもあり、ゲーム的な感覚で睡眠不足解消を目指せる画期的なアプリだ。発表直後から評判となり、多くの人がSNS上で利用状況を共有しているのを見かけた。睡眠は誰にとっても必要不可欠な時間だからこそ、関心が高くなるのも頷ける。
一方で、「眠りたいのに眠れない」時もある。年齢やライフスタイルによって、人間の睡眠は大きく影響される。中には危険な病気が原因となっていることもあるだろう。本書は睡眠のメカニズムや睡眠障害について基本的な知識をおさらいしながら、眠りに関する62の悩みや問題にQ&A方式で答えていく。
監修者は医学博士で、睡眠学の専門家だ。1982年に東京医科大学医学部を卒業後、1986年に鳥取大学大学院を修了した。その後、鳥取大学医学部神経精神医学助手や順天堂大学医学部精神医学講師を経て、2003年に代々木睡眠クリニック院長に就任。2008年からは東京医科大学睡眠学講座の教授を務めながら、睡眠総合ケアクリニック代々木にて、睡眠障害の専門的な診断と治療に当たっている。
さて本書の冒頭には、「睡眠のウワサ ウソ? ホント?」と題したイラスト入りのページがある。世の中に流れる睡眠についての噂に、監修者が二択で答える。このイラストがかわいい! 「ホントです」と腕をあげてマル印を作る嬉しそうな笑顔に、思わずこちらもほほ笑んでしまう。「ウソです」の場合は、八の字眉毛で悲しそうにバツ印を作っているのも味があり、それぞれのウワサから詳細を解説するページへ案内があるのもわかりやすい。
本文イラスト/小野寺美恵
ところがその中に、ハッとするやり取りがあった。「夜の10時から午前2時に睡眠をとるのがいいと聞きましたが、本当ですか?」という問いだ。いわゆる「睡眠のゴールデンタイム」と呼ばれる時間帯で、「成長ホルモンの分泌が高まる」と私も聞いたことがあった。ずいぶん昔からある話なので正しい知識だと思っていたが、監修者の答えはなんと「バツ」!
では、夜の10時から午前2時は本当に「睡眠のゴールデンタイム」なのでしょうか。
結論から言うと間違いです。睡眠中には成長ホルモンが分泌されますが、何時から何時が分泌の時間帯と決まっているわけではありません。
衝撃だった。先日も友人が「生活を改めて10時に寝るようにしたら、身体が楽になった」と話していたのを、「ゴールデンタイムの力はすごい!」などと受け止めていた。それが間違っていたなんて。では一体ゴールデンタイムとは、いつを指すのだろう。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、寝始めの約3時間には眠りの深いノンレム睡眠が現れます。成長ホルモンはこのとき集中的に分泌され、その量は日中の4~5倍になるといわれています。つまり時間帯ではなく、寝入ってからの最初の3時間がカギを握っています。何時に寝たとしても、寝入りの3時間にぐっすり眠れていれば成長ホルモンはしっかりと分泌されるのです。
なるほど! その3時間が重要だったのか。だとすれば、夜更かしをするたび「またゴールデンタイムを逃してしまった……」とくよくよするのは、まったく不要な悩みだった。実際は毎日の眠りの中で、成長ホルモンがしっかり分泌されていたのだ。正しい知識の裏付けによって、なんだか心が軽くなった。
私のように、本書を読むことで睡眠についての知識が更新されたり、不眠への新たな対処法を知ることができたりするだろう。眠りの問題は人それぞれ。悩みや不安を放置することなく、自分に合った方法を知って毎晩の心地よさへと繋げたい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。