食べたいもの、おいしいと感じるもので体を作る
「あなたは自分が食べたものでできている」は本当にその通りで、だから「いい体を作りたい」と思うと、必ず食事に目が行く。かといって歯を食いしばって脂質や糖質をカットしまくって無理をしすぎると、なんだか自分を見失っているんじゃないか……?とも思います。そもそも続かないし。
『ダイエットに 免疫力アップに 疲労回復に! こう食べれば身体が変わる アミノ酸食事術』は、とても現実的な食事の指南書です。できることばかりだし、むしろ「これ、食べてもいいんだ?」と驚くことがたくさん。軽快な語り口で楽しい本です。
著者の加藤雅俊先生は、食事や運動、そして東洋医学などをトータルに活用してプロ野球選手やモデルたちの体をケアしてきた専門家。加藤先生の提唱する健康的な食事は、アミノ酸を中心に組み立てられています。
最初に登場するのはこんなメニュー。加藤先生はこれを「最強の朝食」と呼びます。
【和食の場合】
・納豆卵かけごはん
・具沢山の野菜入りみそ汁
※時間がないときは……
・納豆卵かけごはんだけでもOK。
・みそ汁は、みそを熱湯で溶いたものを飲むだけでもOK。
「みそ」をお湯で溶いただけでもいいんだ? でもたしかに海外にしばらくいると無性にみそ汁が飲みたくなるなあ……。あまりに耐えがたいので、最近はインスタントのみそ汁セットを必ず持って行きます。
【洋食の場合】
・ベーコン、卵、レタスのサンドウィッチ
・カフェオレ
※時間がないときは……
・ベーコンや卵を調理する時間がないときは、パンにハムとレタスを挟むだけでもOK.
・カフェオレの代わりに、市販の粉末スープを牛乳で溶いたカップスープでもOK。
あれ? ベーコンいいんだ? カフェオレもいいの? なんだどっちも大好物だよ。実はこれらのメニューは栄養がたくさん摂れるんです。
食事を摂る際に何よりも意識してほしいのは、糖質を減らすことでもなく、脂質を減らして野菜をたっぷり摂ることでもありません。
大事なのは、タンパク質、炭水化物(糖質)、ビタミンやミネラルといった栄養素をまんべんなく摂ること。そういう意味でこの朝食メニューは、手軽ながら非常にバランスが良いのです。
そして、なぜこの本で最初に出てくるのが朝食のシンプルなメニューなのかについても、明快な理由があります。
外で働いている人にとって、昼や夜はなかなか自分の思い通りの食事を摂ることは難しいと思われます。でも朝食なら、頑張って少しだけ早めに起きれば、自分の裁量で準備し食べることができるもの。
たしかに朝ごはんだけは100%自分のコントロール下に置ける。シンプルなごはんで、何よりおいしいので続けられそう。でも、もし寝坊してもう時間がない!ってなったら?
そういうときは、チョコレートを何粒かだけでも食べてください。これは究極の手段ですが、午前中の私たちに絶対必要なのは糖です。糖質を入れないことには脳が働きませんから、何も食べずに出勤することだけは絶対にやめてほしいと思います。
チョコレートが寝坊の味方になるとは。でも「ごはんをしっかり食べると後で眠くなる」と言う人もいますよね。そんなときの対策も、副交感神経の仕組みをもとに、きちんと紹介されています。
丼ものや麺類など、がっつりしたお昼ご飯を食べた後、2~3時間後に強い眠気がくるのは、ちょうど消火活動がピークになる時間帯だから。そんなときは、ちょっと体を動かして交感神経を活発にすればいいだけ。糖質を制限したり、食べる量を減らしたりする必要なんてないのです。
さあもう食べない理由がなくなった!……となったところで、本書の主役・アミノ酸が登場します。
体のいたるところで活躍するアミノ酸
第2章「あらゆる不調はアミノ酸が解決する」は、健康オタクが夢中になるような章です。すごく楽しい。
人間の体には20種類のアミノ酸が必要とされています。まずはそれらアミノ酸たちの働きについて。
アミノ酸は、私たちの体を作るだけでなく、それ以外の働きもあります。たとえば、以下のような働きです。
・脳内ホルモンや神経伝達物質の生成
・筋肉を作る
・免疫力アップ
・血流促進
・睡眠の質の改善
・美肌効果
つまりアミノ酸が足りていないと、美肌も健康も筋肉も理想通りにはいかないんです。本書では各アミノ酸ごとに働きっぷりを、こんなふうに紹介してくれます。
■メチオニン=髪の毛の健康維持やアレルギー改善に
髪の毛の健康を保つために重要なアミノ酸です。脂質代謝にも関与し、肝機能の維持・改善もサポート。アレルギーを起こすヒスタミンを抑制する作用もあります。肉類や魚類、牛乳、卵など、動物性タンパク質に多く含まれています。なかでも、かつお節がおすすめです。
ここを読んだらかつお節が食べたくなりませんか? ということで、先ほど紹介した「最強の朝食」の納豆卵かけごはんにかつお節をトッピングするのが最近のお気に入りです。
自分の体で気になることや目指していることをイメージしながらコツコツ読むととても楽しい章です。ラーメン屋さんで「スープはXX産の昆布を使用し、チャーシューはXX豚を低温調理で……」といったうんちくを読むのが好きな人は絶対ハマるはず。
そして、本書では繰り返し「アミノ酸をバランスよく摂取すること」が語られます。最強の朝食も栄養素をまんべんなく摂ることを主眼に置いていました。ここで引っかかるのが、「アミノ酸スコア」や「プロテインスコア」といった言葉。これどっちを参考にしたらいいんでしょう? 加藤先生はそれぞれのスコアについて解説をしたのち、こう締めくくります。
ですがやはり、栄養分というのは人体で使われてなんぼ、です。そのため私は、いまもアミノ酸スコアよりプロテインスコアを重視して食べるものを選ぶようにしています。「必須アミノ酸がどれくらい含まれているか」より「人間の肌や筋肉を作るときに必要なアミノ酸がどれくらい入っているか」という指標の方が明確だからです。
わかりやすい。ちなみにプロテインスコアの優等生は「卵」です。最強の朝食にもいましたね。2章と一緒に4章「不調別 アミノ酸メニュー」を読むと、「やる気が出ないイマイチな日だから、鶏胸肉の唐揚げを食べようかな」なんて思えるようになりますよ。
ラードには良い作用がある
最初から最後まで「なぜその栄養素が大切で、その栄養素を含む食べものは何なのか」を明確に示す本です。なので、今まで健康のために良かれと思ってやってきたことのイメージも変わります。
たとえばとんかつ屋さんでヒレ肉とロース肉がメニューに並んでいると、どちらを選びますか? 「今日はどうしてもロースが食べたい! でもヒレ肉の方がヘルシーだし……」と悩んだことのある人は、私だけじゃないはず。
ここで加藤先生は「脂身が好きなら、食べられる分は食べていいのです」と断言します。
もちろんヒレ肉が好きならいいのですが、ダイエットのために我慢して食べているのなら、残念ながらあまり意味のない努力かもしれません。
ロース肉の脂身はオレイン酸を多く含んでいますが、オレイン酸というのはオリーブオイルの主成分と同じです。つまり、余分な中性脂肪やLDLコレステロールを抑えてくれるなど、良い作用がいっぱいある脂ということ。
ロース肉を悪者にするなかれ。食べ過ぎなきゃいいんです。最強の朝食の一員だったベーコンだって、豚の脂身。そして豚の脂肪といえばラードがありますが……?
野菜炒めやチャーハンも、ラードで炒めると圧倒的に美味しくなります。それは私たちの本能が「体を整える良い脂」を必要としている証だと思うのです。
ラードが体に悪いと言われる理由の一つが、ラードは常温で固まるから体の中でも固まって脂肪になりやすい、というものです。が、私たちの体温はそんなに低くありません。
何よりラードが体に悪いなら、同じオレイン酸を主成分とするオリーブオイルも体に悪いということになってしまいます。
そうそう、ラードでソーミンチャンプルーやにんじんのしりしりを作ると、味がビシッと決まるから手放せない。ラードに光が当たってうれしいよ。
昔から「食事はバランス良く摂りましょう」と言われてきました。じゃあそのバランスってどういうものなのかを考えると、アミノ酸やビタミンやミネラルに行き着きます。そこを丁寧に教えてくれる本です。そして自分の好物が実は栄養学的な優等生だったりすることも(これがすごくうれしい)。ポジティブに体のことをいたわりながら食事を摂れるようになりますよ!
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori