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2023.07.22

レビュー

ワクワクが止まらない! 図鑑「MOVE」といっしょに未知の世界を探検しよう!

ドキドキに満ちた世界へようこそ!

講談社の動く図鑑MOVE」の公式ホームページにはこう書いてある。

この図鑑を読んだ読者が、一生おぼえているような、印象的な誌面作りをMOVE編集部は目指しています。

そう、この図鑑シリーズはビジュアルが命。恐竜、動物、昆虫、鳥など、おなじみのテーマはもちろんだが、昨年刊行された『日本の歴史』のビジュアルも素晴らしかった。表紙が『信長の野望』の長野剛によるもので、子供より先にハートを射抜かれた親も多いのではないか(その誌面、内容共に超良書なので、是非手に取ってもらいたい)。

そして本書『世界の探検』である。
まずは第1章「アフリカ」の見開き扉を見てほしい。



もう、控え目に言って最高だ。写真や絵のひとつひとつのインパクト、デザイン、「チェワ」「メカン」「ムルシ」という聞いたこともない言葉。頭の中で情報が大渋滞を起こし、思わず30分も眺めてしまった。子どもによっては「コワい」と感じる子がいるかもしれない。しかし一度見てしまったら、次のページをめくらないではいられない。なぜなら世界へとつながる扉は常に危険と感動が表裏一体で、その扉の向こう側に足を踏み込む魅惑の行為こそが「探検」なのだから。

そしてもう一つ。子ども向けの図鑑ではあるが、私は本書を50代の方々に強く推したい。

1970年代に子ども時代を過ごした人であれば、夜の民放は30分ものドキュメンタリー番組の宝庫だったことを覚えているはずだ。『驚異の世界』に『知られざる世界』、『すばらしい世界旅行』(ちなみに『驚異の世界』は、講談社がスポンサー──覚えていなかった。ブックローンの「チャイクロと~いっしょに~」というCMソングは覚えているが……──で、テーマ曲は4人目のYMOと言われた松武秀樹の作曲である)。今の時代に照らし合わせて考えれば、物珍しさや奇妙さに焦点を当てた描き方が多かったと思う。しかし、それらの番組は「知られざる」文化や風俗を「驚異」かつ「すばらしい」ものとして敬意をもって編集されていた。そのセンス・オブ・ワンダーに触れて、70年代の子どもたちは世界に興味を広げた。芸能人がハッピを着て世界の祭りに参加したり、現地の食べ物を「意外とおいしい」なんて言ったりする番組とは、文化や風俗に対する接し方が根本からして違う。そんな70年代テレビドキュメンタリーと同じ興奮を、この本与えてくれるのだ。例えば、このページ。取り上げられているのは「秘密結社ニャウ」! なんだそれは!



マラウイやザンビアなどアフリカ中南部のチェワ族には、むち打ちの儀式を経た男性のみが一員として認められる「秘密結社ニャウ」があり、仮面やニャウ・ヨレンバというかぶりものをつけて踊るというのだ。この写真の躍動感、ファッション、楽器を叩く恍惚とした子どもたちの目……。理屈抜きでカッコいい! テレビやネットに溢れかえる情報に触れて、およそ世界を知った気になっている頭を見事に吹き飛ばしてくれる。

アップデートされる驚異の世界

本書はアフリカ、ヨーロッパ、オセアニア、アジア、南北アメリカ、極地の6章立てで、ところどころにピラミッドや世界の未踏峰、財宝伝説など興味を湧き立たせるコラムが散りばめられる。中でも「世界の通学路」というコラムが秀逸だ。すでに改善されて使われていない通学路もあるようだが、この誌面を見た日本の子どもたちはどう感じるのだろうか?



同時に本書は、変化していく暮らしや未来の可能性も紹介する。車やバイクに乗り洋服を来てオフィスワークをするマサイの人々。世界中の昆虫食と、環境負荷が少ない良質なタンパク質としてのコオロギの可能性。アメリカ大陸からヨーロッパやアフリカへもたらされたトウモロコシやジャガイモによって変化した食文化(探検が世界にもたらす最大の変革はコレかもしれない!)。

さらに「探検ヒストリー」として紹介される、歴史に名を残す探検家たち。ナイル川源流を突き止められなかったリヴィングストン。フィリピンのラプ=ラプ首長との戦闘で命を落とすマゼラン。伝説の大陸メガラニカを探し求めていたジェームズ・クック。知りたい、見つけたい、そして名誉を欲して夢破れていった、かつての探検家の姿……。日本からは、東アジアで精力的な調査を行った鳥居龍蔵(民俗学における牧野富太郎的存在)が紹介されているのだが、彼が残した写真がまた素晴らしい。

「民族」でも「古代文明」でもなく、「世界の探検」というテーマで図鑑が成立するのか? きっと喧々諤々(けんけんがくがく)の編集会議が行われたと思う。しかし今ここにある本書は、歴史と現在からの視点、現在分かり得た知識、見たことのない圧倒的なビジュアルを備えた、まごうことない「世界の探検」の図鑑だ。本書の監修をつとめる国立民俗学博物館の関雄二名誉教授はこう語っている。

この図鑑には、探検という言葉や考え方がまだなかった頃の人間が、どうやって未知の世界を切り拓いていったのか、という話がたくさん載っています。また、探検の気持ちをもちながらも、未知の文化を一所懸命に理解しようとしてきた現在の学者の成果も書かれています。知らないことは恥ずかしいことではありません。探検の気持ちを忘れないことが大事なのです。さあ未知の世界にでかけてみましょう。

知らないことは恥ずかしいことではない。でも探検の気持ちを忘れて、ネット情報の上澄みをすすって知ったつもりでいることは恥ずかしい。本書は図鑑なのだから頭から読む必要はない。適当にページを開いて覗けばいいのだ。すぐに心が未知なる世界への興味がはじけ、内なる探検が始まるはずだ。

世界の探検

編 : 講談社
監 : 關 雄二

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レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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