植物ってどこにいる?
植物はおもしろい。恐竜と同じくらいダイナミックで、昆虫と同じくらい多彩な存在だ。でも、じっと動かないように感じるし、ピヨピヨ鳴いたりもしない。子どもに興味を持ってもらうにはどうしたらいいんだろう。
『講談社の動く図鑑 MOVE はじめてのずかん しょくぶつ』は、植物が子どもに「はじめまして」と自己紹介するような図鑑だ。日本でよく見かける植物を中心に、食べ物や遊びといった子どもの日常と馴染(なじ)むかたちで、植物のいろんな姿が平易な言葉で紹介される。カタカナも読み仮名つきだ。
対象年齢は、読み聞かせなら2歳から、そしてひとり読みは5歳から。そう、読み聞かせができる図鑑なのだ。子どもに楽しく読み聞かせできる工夫がめいっぱい施されている。
たとえば、鳥と木の実の関係を紹介するこちらのページ。
メジロは「ガマズミの み、おいしいな!」と赤い実をくわえているし、右下のムクドリなんて豪快にセンダンの実を飲み込んでいる。吹き出しも「センダンの みを まるのみだ」だ。楽しい。そしてガマズミの実を食べたメジロの動きをたどっていくと、「ちょっと しつれい…」と言ってぷりっとフンをしている。私が子どもだったら「ぷり」を1000回くらい言うと思う。
ページの最下部にある「ものしりメモ」も見逃せない。ムクノキやクワの実は甘くておいしいのか! そして“たねを かみくだいて たべられて しまうと、しょくぶつは こどもを のこせないので こまります。”も妙に頭に残る。植物は困っちゃうのか。
「じゃあなぜ困っちゃうの?」とお話ししたいときは、「いろいろな たね」を読むと楽しそうだ。
右下の「カキノキのたねのつくり」を見ると、表皮、胚芽、胚乳がそれぞれわかりやすい言葉で説明されている。たしかにこれが噛み砕かれて壊されちゃったら、種が芽吹くのはむずかしいね。
そして春のお楽しみの「タンポポの綿毛」や、秋に拾える宝物「まつぼっくり」の種の紹介を読むと、あの不思議な物たちは、実はみんな植物が大切に用意した種なのかと気がつく。
さらに種を食べているのは鳥だけにあらず。私たち人間だって毎日種をモリモリ食べている。マメと食べ物の関係を示したこちらも楽しい。
マメのツルのような迷路をたどると「とうふはダイズ」「みそもダイズ」「きなこもダイズ」とわかる。
お散歩をしながら見かける植物たちも、このとおり楽しく登場する。
「さくらんぼは、サクラの実なんだよ」「このサクラはソメイヨシノって名前で、ソメイヨシノのさくらんぼはあんまりおいしくないらしいよ」なんて言いながら桜並木を歩いたらおもしろいだろうな。
公園、ベランダ、庭先、そして食卓といった子どもの日常のすぐそばで植物たちが生きていることがわかるはずだ。
「ひっつきむし」の仕組みは動画で!
この図鑑は「動く図鑑 MOVE」シリーズの一員なので、躍動感あるレイアウトが楽しめる。そしてスペシャル映像を収めたDVDもついている。文字通り植物の「動き」を映像で学べるのだ。この映像は大人が見ても「おー!」となる。
私の長年の疑問だった「ひっつきむし」も、動画でその仕組みが紹介されていた。
こちらのページの右上に「とげの さきが フックに なって います」とある。このフックを高精細な映像で見ると、フックの引っかかりっぷりがよくわかるのだ。植物ってすごいなあ。そしてあの毛虫のようなフォルムのひっつき虫は、オオオナモミいう名前だったのか。覚えました。
植物を知ると四季が身近なものになる。春のページでは、おなじみの春の草たちがこんな風に並んでいる。
ナズナは、ちゃんと「ぺんぺんぐさ」という別名付き。私にとって、ぺんぺんぐさは春の草のスターだった。なぜなら小学校の帰り道に「ぺんぺん太鼓」で遊びまくったからだ。大人になった今もナズナを見かけると「むしりすぎちゃってごめんなさい。お世話になりました」と思う。
このぺんぺんぐさの太鼓は「くさばなで あそぼう」でも紹介されている。
オシロイバナのパラシュートは私もやってみたい。草花の色水も楽しそうだ。
そして日本の風習と植物との繋がりも、もちろん載っている。
毎日の暮らしや遊びと植物は深く結びついていることがわかるはずだ。
ちょうど2023年4月から放映されるNHKの朝の連続テレビ小説『らんまん』は、高知県出身の植物学者、牧野富太郎先生をモデルにした物語だそうで、今年はなにかと植物にスポットライトが当たるのでは……と、いち植物好きとして期待している。きっと、お茶の間で植物の話題が増えるはず。増えてほしい。だってとてもおもしろい存在なんだもの。ドラマのお供にもこちらの図鑑をオススメしたい。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori