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2023.07.03

レビュー

孤独死、自殺者……日本一多くの事故物件をお祓いする宮司の事件ファイル!

日本初! “はぐれ宮司”による事故物件の事件ファイル

住む場所は気分に大きく影響する。住む街や部屋が変わると、自分まで別人になったような気さえする。そんなわけで引っ越し大好き、間取り図チェックが大好きな私は、不動産物件サイトを定期的に巡回する。そして同じくらいこまめに見ているのが「事故物件」の公示サイトだ。

事故物件とは「自然死や不慮の事故死以外の死」、「特殊清掃が必要になる死」が発生した物件のこと。自殺や他殺が発生したり、自然死や事故死であっても特殊清掃が行われた物件は、事故物件として扱われる。公示サイトの地図上には、想像をはるかに超える件数の事故物件が散らばり、その詳細は「病死」から「火災による焼死」時には「殺人」までと様々なのだが、先の「事故物件の定義」を考えると、どれも安らかな最期ではなかったことは想像に難くない。

本書『はぐれ宮司の 事故物件 お祓い事件簿 1500件超の現場を浄化!』は、不動産の神様を祀る“照天神社”の神職の代表者である宮司・金子雄貴さんがこれまで祓ってきた、いわゆる「事故物件」や、変わったお祓いの数々の記録だ。



日本では、毎年多くの人が孤独死や自殺で亡くなっている。しかし、悲惨な有様の現場に出向き、強烈な死臭に襲われる事故物件のお祓いには仏門も神職も近づきたがらない。中にはあえて「孤独死や自殺者のお祓いはお断り」と掲げている神社もあるほどだという。

死者を悼み、生きている人に寄り添う、それが神職のあるべき姿だと思います。いずれの宮司や僧侶、神父などが断るのなら、わたしがやるしかないと強く思いました。こうしてわたしは、照天神社のホームページの他に「自殺孤独死物件のお祓い」のホームページを立ち上げました。

事故物件のお祓いを専門とする宮司は、日本ではおそらく金子さんただ一人。孤立しながらも奮闘する“はぐれ宮司”のもとには、各地からお祓いの依頼が舞い込み、普通では得られない現場に立ち会うこととなる。本書では、そんな日本一多くの事故物件を清める宮司・金子さんの事件ファイルを、読みやすい文章に沙さ綺ゆがみさんのマンガを交えて紹介する。

壮絶な現場の数々

事故物件のお祓いは敬遠されがちだというが、それもそのはず。事件性がない現場でも、いや、事件性がないからこそ、その現場は凄惨なのだ。



事故物件となった部屋は、生前の部屋の主を思わせる様子はそのままに、死臭が立ちこめ、虫が湧く。ご遺体がミイラ化したり、液状になっているのは、一人の人間が誰にも気づかれずにこの世を去った証拠だ。多くの事故物件を祓った金子さんでさえ、ご遺体の状態によっては強い死臭に腰が抜けそうになることもあるという。その多くは葬儀をあげてもらえることもない彼らを、金子さんは心を込めて祓う。

お祓いをおこなうことで、まだその場にとどまっている、亡くなった方の「気」、そして「御霊」に対して「生前は大変だったね」「お疲れさまでした」「しかるべきところへ移ってください」と申し伝えたうえで、すべての気を祓い去ります。

また、この本には孤独死などの「典型的な事故物件」の他に、殺人現場のお清めエピソードも数多く収録されているが、自然死を迎えた人の事故物件とはまた違う壮絶さを垣間見ることができる。

殺人現場の壁にあいた無数の刃物の穴から読み取れてしまう、加害者と被害者の「その時」の様子は、思わず本を閉じてしまいたくなるような衝撃があった。



座間9人殺害事件のアパート、整然と輪切りにされた庭木のある家など、世間を騒がせた事件も金子さんのお祓いエピソードとして読むことができる。現場に焼き付いた「人の怨みの恐ろしさ」がページから立ち上ってくるようだ。エピソード自体の強烈さに加え、「起きたことをそのまま書いている」といった感じの淡々とした金子さんの文章も怖さを盛り上げる。

そんな事故物件に明確な「恐怖の理由」がある一方で、「火葬場の女」「猫人間が現れる家」のように「なぜそれが現れたのか、不思議」としか言いようがない話もこの本には収録されている。個人的にはこの「不思議」のほうがよほど背筋を寒くしたが、どのエピソードも根底にあるのは「亡くなった方の魂を安らかに」という金子さんの思いだ。ただ恐ろしく後味が悪いだけでは終わらない。本書はお祓い済みでもあるので、安心して読むことができるはずだ。

とはいえ、冒頭で触れた事故物件の多さといい「祓うべきもの」「人ならざるもの」は私たちのすぐ隣にいて、ふっと日常に入ってくることもあるのだろう……。私にとっては、そんなことを考えさせられる読書体験だった。

ここで、本書には未収録のオマケ漫画を特別公開! 作中の漫画・各話の扉絵も担当している沙さ綺ゆがみ先生の描きおろしだ。
SNSを中心に、その不気味な作風で人気を博す沙さ綺先生。ワンカットで背中にひゅっと冷たい風が吹くような独特の持ち味をここでも楽しむことができる。ラフなタッチで金子宮司と、そのお祓いの雰囲気がうまく表現されている。ぜひ本書と合わせて楽しんでもらいたい。




(C)沙さ綺ゆがみ/講談社

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019

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