最初のページを開いた途端、目から鱗だった。というのも、日常の中で「契約」を意識する場面は多くなく、むしろ特別な感すらある。たとえば家を借りる時や保険への加入、入学時や入社時など、いわゆる「契約書」を作成する場合は「契約を交わした」という思いが湧いてくる。一方、スーパーでの買い物やカフェでのお茶、病院での受診が「契約」と言われると、あまり実感が湧かない。しかし著者は、これらの行為はすべて「契約」であり、私たちが生きていくことそのものだと指摘する。
それゆえ
本書で取り上げる「契約」は、特に現代に生きる私たちの生活・社会にとって、必要不可欠なものです。
という著者の言葉には、驚きと重みがあった。私たちが意識するかどうかはともかく、今の世の中で生きていく限りは、何らかの「契約」をし続けるしかない。だからこそ契約にまつわるルール(=法律)を知ることは、生活をする上で重要な備えとなるだろう。本書では全3章にわたり、「契約」の便利さと、隣り合わせにある危険性、そしてトラブルの事例を取り上げながら、それらに対処するため整備された法律知識が伝授される。
1971年生まれの著者は、中央大学大学院法学研究科博士前期課程を修了後、岩手大学人文科学部や獨協大学法学部の助教授、中央大学法学部准教授などを経て、現在は中央大学法学部の教授を務めている。専門は民法で、これまでにも多数の著書を執筆。専門的な内容を一般的な言葉で解きほぐし、法学の初心者にもわかりやすく伝えてきた。
さて本書では、事例ごとに2ページのマンガが掲載されている。トラブルの内容を端的にまとめたそれは、現代の「あるある」な場面ばかりかもしれない。問題に見舞われた登場人物たちに、はたして救いの手は差し伸べられるのか──。マンガの後に続く内容で、著者は解決のポイントと実際に役立つ法律や頼れる組織をわかりやすく解説する。
中でも目を引いたのは、関連する法律に添えられた「超訳」。法の言葉は時に難しく、言い回しにも不慣れな身には、その意味をつかむのにもハードルがある。だが著者の「超訳」は法律を噛みくだいて伝えてくれる。内容も言葉遣いも易しく、法律の知識が少なくとも十分に理解できるものとなっていた。また重要な部分は太字で示し、ピンク色の線も引かれているため印象に残る。まさに、タイトルの「超入門」に偽りなし……!
ちなみに本書の内容は、学生だけでなく社会人生活でも十分に生かされる。問題のある株式投資や投資信託、マルチ商法、労働基準法から外れた労働など、その状況に巻き込まれて初めて気づくトラブルも多くある。私自身、社会人になった時にこれらの知識があれば、もっとうまく、たくさんの問題に対処できただろうと思ってしまった。順調に暮らしている間は、法律に頼ることはそれほどないし、意識もせずに済む。だがいったん必要となると、知っているのとそうでないのとでは天と地ほどの差が出てしまう。そういう意味で、本書は「お守り」のような一冊といえる。
本書を通し、「契約」を知ることはより良く生きる上で確かな武器となると感じた。これからの時間を楽しむためにも、新生活が始まるこの時期にこそ、多くの方に読んでほしい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。