50歳から若返る「わけ」
学生の頃、周囲の同級生はほぼ同い年くらいに見えていた。しかし30代半ばをすぎると、20代の頃と変わらないフレッシュさを保つ人も、かなりの貫禄を感じさせる人もいて、見た目から年齢を当てるのが難しくなってくる。そしてこの差は年を取るほど顕著になり、50代となると30代に見える人もいれば、すっかり「ご隠居」といった風情の人も現れはじめる。この差に生まれ持った顔立ちやスタイルはあまり関係ないようだし、いわゆる「若作り」が効果的とも思えない。髪型や服装だけ若い人のまねをしても、かえって年齢が目立ち、周囲に違和感を与えてしまう。
目指すは「若い見た目」ではなく、フレッシュな「若々しさ」なのではないだろうか? 人を若々しく見せるものは、何なのだろう。本書『50歳からわけあって若返りました』で、その要因は意外なところにあると知ることができる。
若々しく見える人とそうでない人の違いは何か。それを求めていくと、脳のある部位に行き着きます。私たちの思考や創造性、意欲、感情など高度な知的活動を司っている前頭葉(ぜんとうよう)がそれです。
この本の著者であり、医師の和田秀樹先生によると、脳の「前頭葉」のありようが外見に反映されるのだという。しかし、思考や意欲、創造力など感情を司るこの前頭葉が衰えるタイミングは意外に早い。計算や知能テストに使う頭頂葉の機能低下は60代以降、記憶力を司る海馬の委縮は70代からであるのに対し、前頭葉が縮み始めるのは40~50代という。本書では前頭葉の活性化を図り、若々しいシニアになる方法を様々な角度から解説する。日々の生活に取り入れられる習慣、考え方など、やった人から「若返るわけ」が47本収録されている。
前頭葉から若返る方法、老ける習慣
前頭葉の老化を放っておくと、体も脳も、見た目も加速度的に老化する。一方、いつまでも若々しく魅力あふれる人の「前頭葉」は年を重ねても活発に働いているという。それを端的に表すのが第1章のタイトル「人は感情から老化する」だ。ここでは、前頭葉を刺激する日々の考え方や、心の持ちようがまとめられている。
たとえば、「お金を使うこと」。和田先生によれば、お金を稼ぐことはルーティンワークの要素が強いという。一瞬意外に感じたが、働く大変さはあるものの、日々の仕事をきちんとこなしていけば、ある程度の収入は保証される。しかし、お金を使うとき、それも日用品や安さを基準に選ぶものではなく、ある程度まとまった金額を吟味して使うときには、こんな状態になるだろう。
「お金を使う」ということになると、何を買うか、どこで買うか、どの商品がいいかなど真剣に考えます。
ちょっと高い買い物をしたときなど、アドレナリンが放出されてガッと気分が上がり、「よし! 明日からも頑張ろう」と意欲が湧いてくるはず。
緊張する、気分が高鳴る……。こんな気持ちが前頭葉を強く刺激するのだ。女性がよくやる「自分へのご褒美」を、和田先生は50代の男性にもおススメする。大きな買い物でなくとも「いつもよりちょっといいお酒を買う」「好きなラーメンを食べに行く」など、できる範囲で、しかし自分を喜ばせるために使うお金は脳にもワクワク感という栄養を与えるのだ。
また「行きつけの店が一番いい」「答えは一つと思いこむ」「前例やマニュアルを踏襲したがる」……本書ではこのように失敗を恐れる姿勢を「老化のサイン」とし、なぜそれが老化を誘発するのかを説明してくれる。第2章で「老ける習慣」として挙げられている言動は、人によっては「大事なこだわり」かもしれない。しかし、そこから一歩踏み出してみることで、脳を刺激するだけでなく、心の栄養にもなる新たな刺激と発見に出会えるのではないかと感じた。
心を内側から刺激しよう
本書は精神面だけでなく、肉体的な見た目や気力も若返る方法にも触れている。女性のものと思われがちな更年期だが、男性にもホルモンの減少によって心身共に曲がり角を迎える時期がある。50代は男女共に「更年期」と呼ばれる性の転換期が訪れる時期だという。しかし、和田先生は言う。
「年だから」とあきらめたりするのではなく、男性ホルモンを増やす生活をしていくことが今は大切。自然に任せて枯れて行くのを待っている時代ではありません。
老化はホルモンだけの問題ではないけれど、食べ物や医療でホルモンバランスを整えることで見た目も、また気力も若返ることは確かだ。心身の若々しさを保つテクニックとして、ホルモン補充療法や美容医療などが挙げられてもいる。こういった治療を受けることは50代前後の男性には飛び道具のように思えるかもしれないが、決して危険なものではない。この本には医師の目から見た留意すべき点や、どこで受けられる療法なのかが解説されており、不安を払拭(ふっしょく)してくれる。若々しい見た目は、鏡を見るたびに心を浮き立たせてくれるだろう。シニア期以降のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げる一つの方法として、知っておいて損はないはずだ。
習慣といい、体のメンテナンスといい、本書のメソッドは50代前後の常識からすると意外とか、ハードルが高いと感じるものもあるかもしれない。しかし、この「え、そうなの?」こそが、前頭葉を刺激してくれるのではないだろうか。和田先生の心強い言葉で、このレビューを締めくくりたい。
40代で一度は老け込んだ経験があったとしても、50代半ばにして俳優の阿部寛さんや、福山雅治さんのような若々しさ(少なくとも細胞レベルでは)になっていることは、可能といえます。50代でこの本にあるような生活習慣を身につけておくと、5年後、10年後、20年後、あるいはもっと後、年をとるほどに大きな差がついてきます。人間は年齢と共に個人差が大きくなるということをお忘れなく。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
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