デスクワークへ転職後、コロナ禍でリモートワークになった。その中でもっとも影響を受けたのは、日々の運動。とにかく歩かない。意識的に外出すればまだしも、そうでなければスマホの歩数計が二桁、三桁という日も多く、体組成計に乗るのがどんどんと怖くなる。一念発起して、ゲームで筋トレを始めたのが1年半前のこと。どうにか続けて習慣になったものの、最近では少し飽きてきてしまった私の前に現れたのが、本書だった。
第1章の冒頭で、タバタトレーニングは「海外では超有名!」とうたわれていた。とはいえ、従来の筋トレや運動に縁遠かった私には未知の存在。「そんなに有名?」と半信半疑で検索してみると、国外だけでなく国内でも、たくさんの動画とサイトが表示され、一気に興味が湧いた。これほど世界に知られる運動トレーニングとは、いったいどんなものなのだろう。
タバタトレーニングは、10秒の休息を挟みながら20秒の高強度・短時間運動を繰り返す「高強度・短時間・間欠的トレーニング」です。原則として疲労困憊(こんぱい)に至る高強度の運動を行い、休息を入れても合計4分間という短時間でできる、という特徴があります。そのため、スポーツ競技者が限られたトレーニング時間内に効率よく行うのに適しているのはもちろん、運動が苦手な人や運動が長続きしない人も含めた多くの一般の人が、日常的に取り入れて健康増進に役立てるのにも適していると思います。
プロ向きでもあるが、私のようなズボラ向きでもある短時間の運動。そんな夢のようなトレーニング法は、いつ、どのように生まれたのか。
偶然の出会いとタバタトレーニングの誕生
著者は1980年に東京大学教育学部を卒業後、同大学院へと進み、1983年にノルウェーのオスロへ留学した。その地で、同じく留学中だった入澤孝一氏と出会う。入澤氏は日本体育協会の海外派遣コーチであり、スピードスケートの指導者として名だたる選手を育てていた。その時の縁がきっかけとなり、著者は留学終了後、入澤氏から全日本スピードスケートチームのフィットネスコーチに指名される。
当時は夏季に使用できるスケート場がなかったため、合宿の内容は最新のトレーニング科学を中心とする座学と、陸上トレーニングのみだった。著者は後者を担当する中で、入澤氏がトップ選手たちの強化に導入していた2つのトレーニングに着目する。運動生理学の側面からそれらを研究・分析した著者は、2つのトレーニングのうち、より効果が高く科学的な裏付けも取れたトレーニングについて論文をまとめ、1996年と1997年に海外の学術誌にて発表した。その結果、海外のメディアで多く取り上げられ、「タバタトレーニング」の名が広く知られるようになったという。
タバタトレーニングをやってみる!
さて第1章では、タバタトレーニングの運動効果と仕組み、自体重を用いたトレーニングが紹介されている。本書に掲載されたQRコードからは、動画で実際の動きも確認できる。自分の動作が合っているのか自信が持てなかった私にとって、動くお手本が見られるのは心強かった。
試してみたのは、「はじめてのタバタトレーニング」として紹介されていた、「スクワット&ジャンプ」「ジャンピングジャック&シザーズ」「その場かけ足」の3つ。その内、「ジャンピングジャック」と「シザーズ」はそれぞれを一つの運動として分け、計4パターン×2回の4分間で挑戦する。アプリで見つけた「Tabata Timer」で時間を計り、いざ挑戦!
イラスト/こばやしひろし
ひと言でいえば、とてもきつい運動だった。それぞれたったの20秒なのに、最後は腕が上がらず、足も思うように動かない。途中で何度もタイマーを見ては、残り時間を長く感じる。終わった後には息が切れ、汗がどっと噴き出してきた。翌日には軽い筋肉痛もあり、「短時間の単純な運動」と甘く見ていたのが、完全に裏切られた結果だった。タバタトレーニングの高強度、恐るべし……!
一方で、負荷が高い分、終わった後の爽快感や満足度もかなり高い。私はヨガマットを敷いて室内で行ったが、それでも十分に動くことができた。室内であれば、天気や人目を気にせず済むのも大きな利点だろう。運動の前後に行う、ウォーミングアップやクーリングダウンを含めても、わずかな時間で済むのは継続のしやすさにも繋がっている。
第2章ではトレーニングや身体活動についての科学的な分析が、第3章以降ではトレーニングの組み立て方やその効果が、より詳しく解説されている。ハードな運動法であるからこそ、その科学的な裏付けを知ることは、さらなるやる気へとつながるだろう。単に身体を動かすだけではなく、モチベーションを上げながら自覚的なトレーニングをするために。本書を通し、著者の助言を余すところなく受け取ってみてほしい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。