60代は片づけに着手する最後のタイミング
片づけというと「物を捨てて心も軽くする」という部分が強調されがちですが、長く生きれば捨てられないものが増えて当たり前。それに年をとればとるほど、片づけは億劫になるもの。そのうえ「最後の片づけ」と言われると……、いろいろ想像してしんどい。でもご安心を!
本書のタイトルは、「おひとりさま最後の片づけ」です。こう聞くと、「これは“生前整理”の本でしょう」と思われるかもしれません。もしくは、「“終活”のことだよね」と感じられたかもしれません。
けれども、これから行う片づけは、生前整理でも終活でもありません。(中略)
人生100年時代を生きる、「今とこれからを豊かに過ごすためのポジティブな片づけ」なのです。
著者は、専業主婦を経て運送会社に勤務し、さまざまな引越し現場で梱包・開封サービスを担当。その現場体験から、高齢者を含むさまざまな世代の住まいと暮らしの質を上げる「ホームステージング」の必要性を実感し、生活の当事者視点に立った情報を発信しています。あくまで “現実”に寄り添ったアドバイスは、気分が重くなるどころか、むしろ前向きな気持ちにしてくれます。
これから行う片づけは、ある程度未来の自分を想像しながらする必要があります。60代は片づけを行う体力も気力も残っている、最後のチャンスと言ってもいいでしょう。
年をとると気力が落ちる。何事にも興味を失う一方で、身の回りの小さいことばかり気になる。そして、自分が設定する生活のルールや整理整頓の防衛ラインが後退する。特に「おひとりさま」になると、防衛ラインを守ることすら放棄し、使いきれない買い置き物資やゴミに囲まれた生活になりやすいと言います。「子供が独立した」「配偶者がいなくなった」など、同居家族の人数が増減したときをターニングポイントに、気力が残っている60代で防衛ラインを引き直す。そして次の自分の生活スタイルを守る。この本は、そうした未来への生活防衛戦略として読むと、よりモチベーションが高まるでしょう。
本書が「いつも何かしなければと漠然とした不安を抱えたまま過ごす」のではなく、「準備は整った、もう大丈夫」と、残りの人生を安心して過ごすための、おひとりさま必携の書・バイブル的な存在になれば幸いです。
片づけの順番は、お金、家財(モノ)、情報
「さぁ、片づけを始めよう」といって、押入れの中身をひっくり返し、物を広げた時点で気持ちが折れること間違いなし。それが50代、60代の現実! 著者は、片づけの順番を、①お金に関する整理 ②家財(モノ)の片づけ ③情報の整理 で行うことを勧めます。
①お金に関する整理
銀行口座、クレジットカード、有価証券に保険、年金、不動産……。最近ならスマホのサブスクサービスなど、自動引き落とし契約もそう。お金の出入り口を絞り、現状資産をきっちり把握して、これからの生活に備える!
私はこの本を読むまで知らなかったのですが、認知症になると預貯金の出し入れ、定期預金の解約や契約変更ができなくなるとか(口座の凍結タイミングは銀行により異なるので、条件等は要確認)。イザという時に(子供を含めて)人に迷惑をかけずに済むよう、準備しておく必要性を強く感じました。
②家財(モノ)の片づけ
これが一番手間のかかる部分。本書では、片づけを行う場合のポイント6つを提示しています。
(1)片づけなくていい場所を把握する
(2)何よりも「安心・安全」が大切
(3)完璧を目指さない
(4)「いる」「いらない」をわかりやすく分ける
(5)最後は業者に任せればいい
(6)暮らしに潤いや楽しみを
これらのポイントで、なにより重要なのが転倒防止! 転倒→骨折→体を動かさなくなる→認知症というコースを徹底回避。具体的には、住まいのなかでよく使用する場所をまず片づける(1)。そして、その場所を結ぶ生活動線の障害物をなくす(2)。ここで、敷居や絨毯のわずかな段差や滑りやすい玄関や浴室のマット、足を引っ掛けやすいコタツのコードなど、住まいに潜む危険を発見することが重要です。
整理方法は、きれいかどうかより使いやすいかどうかで決めたほうが良い(3)とか、いる/いらないものの仕分け時に悩みやすい思い出の品も「いるもの」に分類していい。ただし、いつでも見られるように整理された形にする(4)など、ツボを抑えたアドバイスがうれしい。
③情報の整理
これはパソコンやスマホ、紙文書の整理。仕事やプライベートの情報で、子供や親族に見られたくないものは消しておく。逆に、写真や自分が死んだときにお知らせしたい知人の連絡先などはUSBメモリなどにまとめて保存。私など、ネットに残した自分の足跡を子供が辿ったら……と想像すると、心が休まりません。パスワードを管理できているうちに、なんとかしなきゃと思いました。
そうした片づけを「今すぐやらなきゃ!」と焦(あせ)る必要はありませんが、「早く取り掛かるに越したことはない」というのが、素直な感想です。そして、ひととおりのことが済めば、なにか新しいことを始めるきっかけになりそうな予感に満ちています。それこそが、著者の言う「ポジティブな片づけ」。また、財産の管理方法や家じまい、処分に困る物の廃棄方法まで詳細に紹介されているので、年老いた親がいる人にも役立つ1冊です。
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。