今すぐデザインナイフを買いに文房具店へ!
手先の器用さには自信がある。紙とハサミとのりがあれば、一人でずっと遊んでいられる子供だったし、夏休みの工作で、『モチモチの木』や『花さき山』の絵本で知られる滝平二郎先生の切り絵を模写(模切り絵?)したこともある。腕に覚えあり! 本書が切り絵の本で、買ってすぐに始められると聞き「まかせろや!」と思った。しかし、その図案を見て、すぐにその自信は消し飛んだ。
マジですか、この細いのを切るんですか……。
本書は切り絵下絵と、切り絵に貼り込む色紙(カラーコピーして使用する)が綴じ込んであり、本から切りはなせばスグに作業を始められる。もし、あなたが「趣味のひとつも持ちたいわ」と思っているなら、これほど簡単に始められるものはない。そして約束しよう! ハマれば、この一冊で3~4ヵ月は十分に楽しめる。徐々に滑らかになる刃先の動きに充実感を覚えながら。そして、作者・大橋忍先生(そのスゴさを知った今、「先生」づけでしか呼べない)の圧倒的な技術にひれ伏しながら……。
大橋忍先生は、中学3年で切り絵に出会い、大学時代に作家デビュー。繊細で温かみのある線、ファンタジックな世界観。とても可愛らしいのだが、その可愛さに溺れる一歩手前の凜とした美しさ。漫画ファンであれば『不滅のあなたへ』(大今良時・作/少年マガジン連載中)のタイトルも先生の手によるものだ。
本書は、連続模様をテーマとした図案で編まれている。
『ラパチーニの娘』(ナサニエル・ホーソーン)より
『ヒナギク』(アンデルセン童話)より
どうです? 正直、これを切るの、レベルめちゃ高ですよ。
しかしね、できます。意外とできるんです。もちろん100%のデキじゃないです。失敗したところも「まぁ、それも味があっていいじゃん」くらいに思えます。それでもって、切り終わるとめっちゃくちゃ嬉しいんです!
その感動のために必要なものを教えましょう。
・100円ショップで売っているカッティングマット
・デザインナイフと替え刃
ちょっとでもうまく切りたいならデザインナイフの一択。カッターナイフでは曲線が出ないんだ、曲線が!
大橋忍先生に近づくための一歩
まずは初級からと思い、難易度の低そうな図案から挑戦。そうやって切り始めたところ、妻と中二の娘が「私もやってみたい」と言い出した。以下はその仕上がりである(上段が全体、中段が一部拡大、下段は大橋忍先生の見本)。
・妻=2時間ほど取り組んだのち、家事を始めて中断。結局「やる、やる、今度やる」といいつつ放り出した。曰く「いや、私のやりたいのはもっと難しいやつだから」。性格的に向かないのかもしれない。
・娘=コツコツ時間を見つけては取り組んで完成させた。現在、さらに繊細な作品に挑戦中。曰く「こういうチマチマした作業、好き」。是非、勉強もチマチマやっていただきたいものだ。
・私=合間を見つけて総作業時間4時間で完成。デザインナイフをどう扱えば良いか、作業中はそれを一心に考えていたたが、そのうち「無」の境地に近づく。どんな煩わしいことを抱えていても、作業をしていると次第に頭が整理されて、スッキリした気分になった。
実際に切り絵に挑戦して掴んだ、納得のいく仕上がりに近づくためのコツを紹介しよう。
(1)刃先はできる限り明るくする
刃先の動きを正確にコントロールするためには、刃先が明るくないといけない。窓から差し込む光で作業するのが一番だが、夜間の室内では照明に一工夫する。左はスマホのライトを使って。右は使い勝手が良かったIKEAのライト(かなり昔のモデルだと思う)。
(2)カッティングマットは明るい色のものを選ぶ
カッティングマットは、大体が青や緑。小さな穴(上の写真で言うとウサギの目など)だと、ちゃんと貫通しているか分かりにくい。そこでカッティングマットは、グレーやベージュなど白っぽい色、明るい色のものを選ぼう。
(3)切るのではなく、刺す
美は細部に潜む。大きく切り取る部分も大切だが、美しく仕上げたいなら、小さな切り取り部分をいかに正確に切るかが肝要。そのためには刃を動かして切るのではなく、刃の先端で突き刺すようにして切ること。
(4)曲線を切るときは作品の方を動かす
曲線をきれいに切るのは難しい。指先の力で刃先の動きをコントロールしようとすると、いらぬところまで刃先が動くことに。手とデザインナイフの角度は常に一定を保ち、作品の紙の方を回して切ろう。
(5)色の選定は自分らしさを追求する
本書には切り絵に貼り込む色紙も綴じ込まれている。グラデーションが美しく本書の切り絵にピッタリだが、必ずしもこの色紙素材にこだわる必要はない。子供のいる家庭であれば、多種多様な折り紙がストックされているだろうし、セロファンや包装紙などを使って、自分のオリジナリティを追求するとさらに楽しくなるだろう。
(6)デザインナイフの刃先はこまめに交換
デザインナイフの替え刃を用意しておき、常に最高の切れ味を保とう。切り絵は刃が命! そうすることで、細かいところの仕上がりが満足いくものになる。
切り絵は単純な作業の繰り返しのようだが、実際にやってみると少しずつ自分の技術が向上していくのがわかる。そして仕上がった切り絵は、そこにかけた時間の結晶だ。カッティングマットとデザインナイフという単純な道具で時間を刻み、ひとつの形になる。懸命に作った切り絵ほど、その時間は愛おしく、また美しく仕上がるもの。その得難い経験を、是非体験してもらいたい。
じっくりやれば、↓これくらい↓までは絶対にいけます。
作品名:日和 制作期間:10日 サイズ145mm×120cm ※色紙貼りの前まで
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。