数学クイズの先に広がる世界
数学と聞くと、難しそうだと身構える。さらに「受験が終わったら、必要なくなるのでは?」とさえ思っていた。
そんな私は、友達の誕生日パーティで平等にケーキを切れたためしがない。大きさはだいたい揃うが、デコレーションやフルーツに偏りができ、ちょっとバランスが悪くなる。
ドラマの中では、3つのケーキを4人で平等に分けようとしている大学生たちを見て、数学好きのカップルが「ちゃんと分けられるのにね」「教えてあげなよ」と、顔を寄せ合い笑っていた。もしかして、ケーキの切り方とは、数学で解決できることなのだろうか?
「5人いると必ず同じ血液型の人が2人いる」とも聞いたことがある。本当に?
推しのいるグループ全員の血液型を調べてみれば、確かにその通りだ。
ふだん何気なく目にするものの裏には、かならず「数学」があるという。一筆書きで書ける図形とそうでないものの見分け方は?
贈り物を包むための包装紙、必要な大きさの割り出し方は?
これらはすべて、数学で答えを導くことができ、その思考の軌跡には驚きが潜んでいる。『はまると深い! 数学クイズ 直感力・思考力を磨く』は、そんな日常の中に潜む数学的思考を、クイズ形式の問題で詳しく解説してくれる。古今東西様々な数学者の発見や工夫を、クイズを手掛かりに体感でき、「数学的センス」の源・直感力と思考力を磨いてくれる1冊だ。
ワリカンも、トーナメントの試合数も、瞬時に計算できる
飲み会でのワリカンやカロリー計算など、ちょっとした計算が必要なシーンに日常の中で出合うことは多い。スマホがあれば困らないけど、頭の中でさっと計算出来たらすごく楽だと思う。では、次のような3ケタの計算、あなたならどう計算するだろうか。
594+627=?
この計算にはどの桁でも繰り上がりが発生するので、私なら暗算はあきらめ、計算用紙を使うだろう。この問いについて、本書の著者であり「数学お兄さん」の異名を持つ横山明日希さんは目からうろこの解法を教えてくれる。
ここで594をおよそ600として捉えたり、627をおよそ630と捉えることで数がスッキリするという発想を利用してみましょう。もし600と630のたし算だったら
600+630=1230
となります。ただし、この答えは正解ではありません。もともとは594と627のたし算なのですから。
600=594+6、630=627+3 だ。元の数にプラスした数の和、この場合は6+3=9を1230から引き去れば、「1230-9=1291」となり、「594+627=1291」という答えを導くことができる。
このように繰り上げ、または繰り下げで数を簡単にしたり、割り算においては「10」で割れるようにするのは「考えるべきこと」をシンプルにする発想だ。発想の転換により、簡単な、しかし今までは電卓に頼っていた計算が、自分の頭だけでさっと解けるようになる。私は本を読んだだけで、数学が得意になったわけではない。なのに、苦手な暗算が一瞬で終わり、頭の中に解がパッとひらめく気持ちよさに感動してしまった。
では、24,000円のお会計を5人でワリカンするには?これもまた、「発想の転換」で答えを導くことができる。
「5で割る」を「2をかけて10で割る」と捉えることで、
24000×2÷10=48000÷10=4800
と計算することができます。
発想の転換は、少し複雑な問いにも効果を発する。
挿絵のようにトーナメント表を書けば、いずれ答えは得られる。でも、できれば瞬時に答えが知りたい。横山さんは、この問題における思考に、こんなヒントをくれる。
「優勝者を決める」を「1人を除く、ほかのすべての人が負けるために必要な試合数を考える」へと発想を変えられることを利用して、解くことができるのです。
「引き分けがない」となれば、考えるべきことはかなりシンプルだ。答えは後で述べるので、しばし一緒に考えてみてほしい。
「快適」を作る数学
「思考の遊び」だけでなく、数学的な思考は交通機関やカーナビなどにも用いられている。例えば、新幹線の座席もそうだ。
「2人席と3人席が通路を挟む形で分かれる」新幹線の座席の並びは、なぜそうなっているかを考えたことはあるだろうか。私は単にスペースの問題と思っていた。しかし、ここにも、この並びを採用する明確な理由がある。さっそく「解答編」を見てみよう。
新幹線の「2人席、通路、3人席」の配置によって、「乗客のグループが2人以上のどのような人数であっても、隣接した座席には知人のみが座る状態を作ることが可能になる」からです。
新幹線は、基本的に乗車時間が長い。知らない人の隣にはできるだけ座らずに済むと嬉しい。ここで、数の性質を利用して考えることで、1人の場合を除いてあらゆる人数のグループに対して、隣の席に知人のみが座る状況を作ることができる。
偶数に関しては3人席を使う必要はなく2人席だけを使えばよいことは自明なのと、また3以上の奇数であれば、3人席を1
つ利用し残りは2名席だけで構成すればすべての奇数を作ることができることもわかります。
思わず「なるほど!」と手をたたきたくなる。数学はこのように「快適」を実現するのにも一役買っているのだ。ほかにも「フェルミ推定」や「ピタゴラスの定理」のような「聞いたことはあるけどなんだっけ」「難しそう」と感じていた数学が、「日本にコンビニはいくつあるのか」「カーナビに正確なナビゲーションをさせるには」といった、日常の疑問や要望の解決に生かされているのを知ることができる。数学クイズの先に、世界が広がっているのを実感できるだろう。
思考力・直感力……「ひらめき」を磨いて
ここで、先ほどのトーナメント大会の試合数の答えを発表したい。優勝者を決める試合数=1人を除く、ほかのすべての人が負ける試合数だ。つまり、128-1=127が正解となる。驚くほどシンプルな考え方になった。
割り算で求める数を、掛け算によって求めてみる。数えることで求められる数を、引き算によって求めてみる――。
考え方の切り口の変化で、世界が変わったり、思いこみが覆される楽しみを、数学クイズを手掛かりに体感できる。簡単に見えて、身の回りの「なぜ?」を考え出したら止まらない……そんなクイズの先に見える「数学の神髄」に触れてみてほしい。
イラストレーション/浅妻健司
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
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