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2022.03.17

レビュー

ピタゴラス、ニュートンからオイラーまで。数式の美しさ、すごさ、不思議さを解説。

昔から数学も算数も、さほど興味がもてなかった。「そもそもなんで点Pって動くの?」なんてことばかり考えていたし、リンゴもミカンも何個だろうが食べたい人が食べればいいよ!と思っていた。そんな私でも、大人になってからの勉強は楽しい。歳を重ねたから学習意欲が湧いたわけではない。知りたいことを、自分のタイミングで学ぶ自由が胸を躍らせるのだ。

https://twitter.com/asunokibou/status/1495163787854303232?s=20&t=amwirSOxYt8vXuWLDj5vmg
Twitterを見ていて、こういうのが目に入るともうダメ。気になってしまう。
「数学のお兄さん」として知られる横山明日希さんの新著、『数式図鑑』に手を伸ばしたくなった。

本書は、有名公式から美しい定理まで数式の美しさ、すごさ、不思議さをわかりやすく解説した数式集だ。
見開き形式で1つの数式にスポットをあて、わかりやすく解説してくれる。有名な「オイラーの等式」は「不動の『世界一美しい式』」、「フィボナッチ数列」は「自然界にも多く出現する魔法の数列」といった見出しがついており、興味がそそられる。間違いない。これ、絶対楽しいやつだ……!

数式は美しい

本書の第1章のタイトルは「数式は美しい」。それを体現するのがこの数式だ。

2つの連続する自然数を足すと次の自然数に、3つの連続する自然数を足すと、次に連続する2つの自然数の和に……というように、左辺の項数と右辺の項数の差が1になった自然数の式が連続して現れます。(中略)
よく見ると、いちばん左の項は1、4、9と、平方数(整数の2乗となっている数)になっていることがわかります。

確かに!! さらに、1番目の式には九九の1の段が、2番目の式には九九の2の段が、このように現れる。

このとき現れる九九の段が、各数式の一番左の項の平方根と同じ数字になっているのも楽しい。

ふと思いつき、改行を取り払ってみる。
1+2=3 4+5+6=7+8 9+10+11+12=13+14+15

順番に並んだ自然数の列に規則的に「+」「=」を入れていけば等式が成立するというシンプルさ、しかも、これをどこまでも続けることができる……というのがよりわかりやすくなり胸アツだ。なるほど確かに「数式は美しい」!

読むタイプの魔法

そしてこちらが「世界一美しい式」と言われる「オイラーの等式」だ。私は数学者ではないので、これを見ても美しいというよりは「シンプルだな」という感想が先に立つ。

この式の美しさについて、本書ではこう語られる。

「e 」「i」「π」そして「+」と「1」と「=」と「0」と合計7つの数字が登場しています。これら全ての記号が数学において非常に重要かつ基本的な概念であり、そのような記号のみで構成される数式だから美しい、というのが第一の理由だと思います。

数学的には「美しい」ってそういうものなのか……? あまりピンとこない。
円周率である「π」以降は、特に数学に馴染(なじ)みがない私でもよく知っている。「i」は、2乗すると「-1」になる「存在しない数(虚数)」だ。私たちの知る数字であるプラスとプラス、マイナスとマイナス、ゼロとゼロ、どれを2乗しても「-1」にはならない。虚数iは私たちの認識できないところにある値……と習った記憶がある。

「e」はオイラー数、あるいはネイピア数と呼ばれる、値にするとe=2.718……となる無理数。これは微分積分、指数関数などに強い関連を持ち、累乗の世界をつなげる重要な定数です。

そう言えば「鮒(ふな)一鉢(ひとはち)二鉢(ふたはち)一鉢(ひとはち)二鉢(ふたはち)至極(しごく)惜(おしい)」、そんな語呂合わせを習った気もするが、意味は全く記憶に残っていなかった。なので
「オイラー数を虚数単位乗し、さらに円周率乗したものに1を足すと0になる」のが「オイラーの等式」だと言われた時には頭の中が「???」でいっぱいになる。言い換えてみれば「eをiπ回かけたものに1を足すと0になる」だが、言い換えたところで理解には遠く及ばないのは変わらない。

この後本書では、小数点以下延々と数字が続く2つの無理数「オイラー数」「円周率」と、存在しない数「i」の演算が続く。かろうじて意味はわかるが、「美しい」どころか、さらに複雑にとっ散らかっていくように見える式にちょっと不安を覚えたりする。しかし、三角関数の級数展開が現れ、最後に1を足すとスッと「0」という数字にたどり着くプロセスは美しい魔法のようだ。瞬時に頭の中の霧が取り払われたようで、思わず声が出る。この「読むタイプの魔法」を、本書でぜひ体感してほしい。

数の神秘

本書は数式にまつわるエピソードも紹介してくれる。数式だけを見ても「そうなんだ……?」で終わりそうなところに、具体的なエピソードが添えられると、楽しい読み物に変わる。
なんだか無性に心惹かれるモチーフやデザインってあるでしょう? 私は、星のマークが好きだ。それも、角が5つの「五芒星(ごぼうせい)」が。五芒星は、このような比率で描かれる。

ちなみにこの1:1.618の比が「黄金比」と呼ばれる比率だ。

黄金比はその名前のとおり、植物や貝殻など自然界のさまざまなところで見られたり、古美術品や建築物のモチーフに用いられたりと、古くから美しい比であるとされてきました。

この図形に妙に魅力を感じるのは、黄金比のせいか、と何となく腑に落ちる。さらに、五芒星(ごぼうせい)にはこんなエピソードがある。

五芒星はピタゴラス教団のシンボルマークだったといわれています。ピタゴラスは「万物の根元は数である」と主張し、無理数(√2や√5など有理数の分数で表せない数)を発見した者を処刑までしたという伝説が作られるほど、有理数できれいに表せない無理数を憎んでいたと伝えられていますが、教団のシンボルマークである五芒星に無理数の1つであるφがこんなにたくさん見られるというのは、なんとも皮肉な話です。

また、インドの有名な数学者、シュリニヴァ―サ・ラマヌジャンが導き出したタクシー数の話も興味深い。もっとも有名なタクシー数は、1729=1^3+12^3=9^3+10^3 と、数式自体はシンプルなものだ。しかし、なぜこのような数字を思いついたのか、という点については、人間離れした、なにかの啓示のようなエピソードが語られる。
こういった読み物としての面白さに加え、本書を読み進めていくと、「黄金比」と「フィボナッチ数」のように別の項で紹介されている数式同士がリンクしていたりと、「数の神秘」のようなものを感じることができるのも、またとても楽しい。
社会人になると、数学には縁がないように感じている人もいると思う。しかし、本書を読むと身近なものに思わぬ法則があったり、数式の不思議を感じたりと、世界の見え方がパッと変わる瞬間がある。知識の幅が音を立てて広がるような小さな感動を、ぜひ味わってほしいと思う。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019

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