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2023.02.07

レビュー

瀬戸際の日本で何が起きる!? 人口減少が日本にトドメを刺す前に──「未来のトリセツ」

「異次元」という言葉の皮肉さ

実は、人口の未来は予測ではない。「過去」の出生状況の投影である。
この1年間に生まれた子供の数をカウントすれば、20年後の20歳、30年後の30歳の人数はほぼ確実に言い当てられる。

人口の未来は過去に既定されている。そう言われると、試験の答案用紙を返してもらう落ちこぼれ学生の気分になる。「もっと勉強すればよかった」と、後悔してもあとの祭り。赤点の答案用紙を満点にする方法はない。そういう意味で、2023年年頭の岸田首相の記者会見で飛び出した「異次元の少子化対策」という言葉は、皮肉だ。人口減少による社会への影響をチャラにするには、時間を巻き戻して対策を打つか(有効な対策があったのかは別として)、未来から100万人単位の20代30代を連れてくるしかない。必要なものはタイムマシン。それはたしかに「異次元」のレベルだ。

本書は、2017年のベストセラー『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』から始まる「未来の年表」シリーズの最新刊。本書の第1部では、製造業、金融、小売、物流など、さまざまな業界をピックアップし、「人口の減少が各業界にどんな影響を与えるのか?」をつまびらかにする。本の帯にある「運転手不足で10億トン分の荷物が運べない」「水道料金が月1400円上がる」といった影響は、今後「起こりえること」ではない。「起こること」なのだ。人口減少が与える影響は「えっ、そんな業界まで?」と思うほど広い。医療業界の「患者不足」、寺院の「檀家制度の崩壊」など、ありとあらゆる業界が萎(しぼ)んでいく。どれも気が重くなる話ばかりだが、自分が将来どういう生活を余儀なくされるのか、明確にイメージできる。なかでも深刻さを感じたのがココだ。

人口減少がビジネスに与える影響で即座に思いつくことといえば、マーケットの縮小や人手不足だ。日本は国内需要依存型の企業が多いだけに、とりわけマーケットの縮小は死活問題である。
しかも、マーケットの縮小とは単に総人口が減るだけの話ではない。若い頃のようには消費しなくなる高齢消費者の割合が年々大きくなっているのである。今後の日本は、実人数が減る以上に消費量が落ち込む「ダブルの縮小」に見舞われるということだ。 

いつまで続くかわからない老後に、財布の紐が固くなる高齢者。そんなケチな消費者とは、まさしく近い将来の自分の姿だ。

戦略的に縮むための意識改革

本書の第2部では、「人口が減少するなかで、どうやって経済や企業を成長させるか?」をテーマとして、「未来のトリセツ」が示される。その大きな柱は「戦略的に縮む」という選択をすることだ。

そのステップ1「量的拡大モデルと決別する」が、いきなり厳しい。多くの人は、これまでビジネスの成功とは「他社から国内マーケットのシェアを奪う“量的拡大”が基本だ」と思ってきた。しかし縮小する国内マーケットでシェアの奪い合いをしても、経済は成長しない。確かにそう言われると、いつまで経ってもジリ貧の今の日本経済にピタリとあてはまる気がする。そんな誤った轍を踏まないために、著者は今の事業を「残す事業」と「やめてしまう事業」に仕分け、残す事業に人材と資本を「集中」させ、事業を「特化」することが大切だという。

日本社会全体の縮小は避けられないが、その点、先んじて戦略的に縮み、太刀打ちできる体制を整えておけば一緒に沈まずに済む。日本の産業は幅広い。中には外国に任せざるを得ない分野が出てくるかもしれないが、人口減少社会を招いてしまった以上は仕方がないだろう。小粒ながらキラリと輝く国を目指すことだ。 

本書では、そのほかにも「薄利多売から厚利少売へ」や「若者を分散させない」といった具体的な戦略が提示される。そのどれもが、過去の成功体験にしがみつくことを“よし”としないし、「なんとかなるだろう」という、お気楽な現状維持も許してくれない。

また、労働力不足に対して「外国人労働者を活用すればいい」という意見があるが、そもそも外国人労働者にとって日本が魅力的な国でありつづける保証はない。韓国や中国との労働力獲得競争に勝てるか大いに怪しく、著者は期待できないという。それよりも、協調性や人間関係を築く能力が重要視されてきた結果、日本全体がそれぞれの分野で「スキル不足」に陥っているのだから、まず日本人の労働生産性を底上げしなくてはいけないと訴える。そのためにはDXの導入による縦割り組織の刷新、経営戦略と人事戦略の連動させること。すでに動き始めている企業も多いが、この動きはさらに加速させていくべきだろう。

さて政治のほうはどうか。岸田首相がいう「異次元の少子化対策」は意味があるのだろうか? 著者は「もはや少子化対策では、人口減少のスピードをほんのわずか遅らせることぐらいしかできない」という。やらないよりはやったほうがいいとか、手垢(てあか)のついた「児童手当など経済的支援の強化」じゃなんともならんとか、意見はあるとしても「時すでに遅し」だということだけははっきりしている。
今すぐ人口の減少を「少子化対策」と紐づけて考えることをやめ、官民合わせてビジネスの「勝ち」のモデルがどこにあるのか、今すぐ模索しなければいけない。残された時間は少ないけれど、「打つ手は残されている」という希望を本書は指し示してくれている。

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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