読めば読むほど、著者と証言者たちの今後が気になった。「ここまで書いてしまって大丈夫なんだろうか」「証言した人たちは、内部で不利な状況に追い込まれるのでは」──そうした思いに駆られるほど、本書に書かれた内容は唖然とする事例に満ちている。身の危険をおかしてまで、よくぞ告発し、発表したものだと唸ってしった。
ちなみに「農協」とは、「農業者が農業協同組合法(農協法)に基づいて設立した協同組合」のこと。その上で「農協」にも種類があることや、「JA」との違いはご存じだろうか。
そもそも農協という組織は、大別すると「総合農協」と「専門農協」に分かれる。総合農協とは、組合員に農業や生活に必要な物品を販売したり、逆に組合員から農畜産物や加工品を購入したりする「経済事業」のほかに、貯金を集めたり資金の貸し付けをする「信用事業」と、共済商品の開発や販売をする「共済事業」を兼営している。
一方、専門農協は、酪農や果樹、園芸など作物別に農業者が設立した農協である。こちらは総合農協と違って信用事業は手がけておらず、経済事業が主体だ。
1040万人の組合員数を誇る「総合農協」に比べ、「専門農協」は団体を含めても13万人。規模がまったく異なる。そのため日本で「農協」といえば、主に「総合農協」のことを指すそうだ。そして総合農協は、1992年から自らを「Japan Agricultural Cooperatives」、略して「JA」と呼ぶようになったという。
著者は大学卒業後、JAグループの機関紙「日本農業新聞」の記者となり、8年間勤務したのち、フリーランスの農業ジャーナリストとして独立。農業の今とこれからを見つめ続けてきた。
さて、著者は本書において、大組織「JA」が抱えるさまざまな問題──過剰なノルマ、不正販売、不正請求、価格カルテル、権力闘争──を、具体的な団体名や地名を出し、全四章にわたって提起していく。豊富な証言と物的証拠を元に構成された内容は、社会派ドラマも真っ青だ。
たとえば、第一章「不正販売と自爆営業」では、JA共済をめぐるJA職員への過大なノルマが紹介されている。著者は、それゆえに引き起こされる顧客への不正販売を取り上げながら、こうも記す。
じつはJAの職員は、加害者であるとともに被害者でもあるのだ。というのも多くのJAは、ノルマが達成できない職員に対し、「自爆」と呼ばれる経済的な自己犠牲を伴う営業を強いているからだ。
この自爆とは、ノルマを達成するために、必要のない共済に職員自ら入る、あるいは他人に懇願して入ってもらい、その掛け金を肩代わりすることを指す。職員は自爆を減らすために、顧客に不利益な商品でも勧めてしまうのである。
「自爆」という言葉の強さに驚かされるが、その実態はさらにすごい。あるJAでは、一部にまったく自腹を切らずに済む人がいるものの、立場によっては年に50万、80万、200万といった金額を支払う人もいるという。それだけの金額が給与から消えるとなれば、辞める人が続出するのも頷ける。職員の証言も生々しい。
「よくあるのは、結婚したり子どもが生まれたりしたときに辞めるパターン。奥さんから転職してくれとせがまれるんです。子どもができるのに、自爆する金額が大きすぎて学費をためられない。住宅ローンにも踏ん切りがつかない。このままだと将来がないでしょっ、というわけです」
JAの経営陣ではこうした実情を、アンケートなどで職員から聞き取っているものの、その切実な声が現実に反映されることはないという。そういった職員らの叫びを耳にし続けてきた著者は、こうつづる。
私は、過大なノルマの実態と自爆することの苦しみ、それを看過している組織への疑念や不信を吐露しながら、それでもJAの事業を利用する地域の人々のために働きたいという気持ちをひしひしと感じた。
だからこそ、著者の筆はひるむことなく、最後まで「JAの今」を伝え続けるのだろう。リスクを負ってでも「より良い組織にしてほしい」と声を上げる職員たちの切なる願い。それを叶えることが、ひいては顧客の利益にも繋がっていく。本書で取り上げられた問題が広く知られることで、勇気ある職員たちが不利益を被ることなく、経営陣や上層部に少しずつでも変化が起きることを祈りたい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。