冒頭から一気に引き込まれてしまった。
日本経済はバブル崩壊以降30年、ほとんど成長していません。
「好景気」とは何であったか忘れるほど、あるいは「経済成長」も「オイルショック」も教科書でしか知らない世代が30代になるくらい、日本はずっとデフレの中にありました。「低所得・低物価・低金利・低成長」の「4低」は、もはや「ふつう」になりつつあります。)
超氷河期に就職した40代の私の実感も、まさに著者の言葉通り。穏やかな語り口ながらこうもはっきり断言されると、悲壮感を超えて心地よくすらなってくる。著者は経済統計やマクロ経済分析の専門家で、現在は第一生命経済研究所首席エコノミストを務めるかたわら、大学の非常勤講師や総務省の消費統計研究会委員といった職も兼務している。
本書は全7章ながら、173ページとコンパクトなつくり。私のように経済書を読みなれない者にとっては、手に取りやすい厚さだろう。第1章では「日本病」とは何かを大づかみし、続く第2章から第5章では日本で30年以上続く「4低」現象の現状と原因を、丁寧に解説していく。
目次を開くと、ニュースで見聞きしたことのある政策や言葉がずらっと並んでいる。それらは実際にどんな効果を狙い、どのような結果につながっていったのか。本書を読むと、あやふやな理解しかできず「点」でしかなかった出来事が、「線」としてはっきり繋がって見えてくる。たとえば「デフレを克服する方法」の節では、
そもそも、経済を安定させるために国ができる政策は、大きく分けて「金融政策」と「財政政策」の二つです。そして、金融政策は中央銀行が、財政政策は政府が担います。
ものすごく基本的な違いなのだろうが、私はそれすらちゃんと分けられていなかった。続けて著者は2つの政策の違いとその効果について触れつつ、バブル崩壊後の不良債権処理からアベノミクスまでの流れと、具体的な結果を説いていく。おかげで私は、「あの時起きていたことはこういうことだったのか!」と、初めて受け止めることができた。
第6章では、現在世界中で起きているという「スクリューフレーション」の実態と脅威についてが、第7章ではこれからの経済政策と見通しが語られていく。ちなみに「スクリューフレーション」とは、
「締め付け」(Screwing)と「物価上昇」(Inflation)を合わせた、10年ほど前にアメリカで作られた造語です。直訳すると「締め付ける物価上昇」ですが、特に「中低所得者層を締め付けるインフレ」のことを指します。
とあった。この後の節では、最近よく聞く「スタグフレーション」との違いも解説されている。個人的には、最近のドル/円相場の急激な動きや消費税増税のタイミングに関する話も含めて、ようやく腑(ふ)に落ちた。
その上で、著者が結びの一節でつづった言葉が強く心に残る。
日本が長期デフレに陥った諸悪の根源は、日本人の努力不足などではなく、過去の政府や日銀の経済政策の失敗です。
社会人生活をその「失敗」の中でしか送ってこなかった身としては、初めて「あなたのせいじゃないよ」と言われた気がした。もちろん、個人でできる努力もある。だが時代の大きな流れの中で、社会を導く人たちの間違った選択に翻弄され続けてきたのだとしたら──私は、私たちは、かなり頑張って生きてきたのではないだろうか。自分たちが歩んできたここまでの道のりを、思わずねぎらいたくなってしまった。
全体としては専門的な内容ながら、初心者にもやさしい1冊。経済に関心を持ち始めた人にはうってつけの、新書らしい新書と言えよう。特に学生の方や、社会人になりたての方には、経済への入門書として、ぜひ手に取ってみてほしい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。