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2022.03.22

レビュー

日本人はなぜ銀メダルでも謝罪するのか。海外メディアが報じた日本の「謎」

店頭で目にして気に入った服や靴が、そのまま似合うとは限らない。実際に試着して鏡に映る自分を見た時、事前に思っていた姿からずれていることはよくある話だ。だがもし鏡を見なければ、その事実に気づくことは難しいし、「なりたかった自分」になれるチャンスをも逃してしまう。「鏡」という客観的な視点を得ることは、自分から見えない自分を知る上で、とても大事なポイントだろう。

そういう意味において、本書は「日本」という国の姿を「海外のメディア」という「鏡」で映し出した1冊といえる。編者である『クーリエ・ジャポン』は、世界中のメディアから厳選した記事を日本語に翻訳し、掲載する月額会員制ウェブメディアだ。もともとは2005年に隔週刊誌として創刊され、2016年にウェブへ移行した。その内容は英語圏だけでなく、フランス語やドイツ語、スペイン語といった多様な言語・メディアで発信された記事により構成されている。

まえがきではそのスタンスと姿勢が、明快に語られていた。

クーリエ・ジャポンは2005年に創刊したとき、「世界は"いまの日本"をどう見て、どう伝えているのか」を編集方針の一つに掲げ、海外メディアの日本に関する報道を掲載しつづけてきた。刊行形態がウェブメディアに変わったいまも、その姿勢は変わっていない。海外の人と関わりあう機会が増えた現代社会において、外国人がどういった情報に触れ、日本を理解しているかを把握することが重要だからだ。さらに言えば、"外国人記者の視点"を通すことで初めて、日本の特異性について気づかされることも少なくない。

本書では、2016年から2021年に『クーリエ・ジャポン』で掲載された日本に関する記事の中から、よりすぐりの25本が収録されている。記者たちがつづる疑問の数々は、現在のわが国が抱える独特の文化や習慣をさまざまな方向からあぶりだす。

個人的には「日本社会はどこへ行く」と題する第2章収録の、「日本ではなぜポピュリズムが台頭しないのか」が印象に残った。「え!? もう十分台頭しているのでは」と私は思っていたのだが、カタールのメディア「アルジャジーラ」の記事によれば、その認識は異なるらしい。

記事は1980年代後半の中曽根政権時代の国鉄分割に始まり、他国との比較、国民文化の分析などを通して、「日本の国政におけるポピュリズムは、他のG7諸国に比べて弱め」という見方を伝える。一方で、「日本型のローカル・ポピュリスト」として、地方の首長をこう指摘する。

しかし日本の政界のなかに、ポピュリストであるとよくみなされる政治家がいることも事実だ。大都市の知事や市長である。
上智大学のティナ・バレット准教授は、日本の地方に目を向けると「他のG7諸国の地方レベルよりも、ポピュリズムがはるかに顕著です」と指摘している。

その上で具体的な人物として、大阪府知事や大阪市長を務めた橋下徹氏や河村たかし名古屋市長、小池百合子東京都知事らの名を挙げ、「他国のポピュリストとはまったく異なる種類のもの」だという意見を伝える。

「彼らはかなり新自由主義的な傾向があり……改革推進派であり、ビジネス推進派であり、他のG7諸国で見られるようなポピュリストとは政策がかなり違っています」
この特徴は、「日本には新自由主義的な革命がなかったため」だとバレット准教授は考えている。興味深いことに、経済政策の方向性という点では、「日本のポピュリストは、他のG7諸国でポピュリストが戦っている体制側の人物にあたる」という結果になっている。

「へええ!」と、思わず声がもれてしまった。まさかの逆側。「ポピュリズム」という括りでは同じ立ち位置の人々を表すものと思っていただけに、その指摘は意外だった。

少し前のことを取り上げた記事では、「そういえばこんなことがあったな」という振り返りになり、直近の記事では「こんな考え方もあったのか」という発見にもつながった。総じて、自分の中にある「当たり前」が揺さぶられる記事ばかり。ウェブで読むだけでなく、本という形でまとめて触れることで、見えるものもあるだろう。世界の記者の目を借り、自分の立つ場所をもう一度見つめるきっかけとしてみては。

レビュアー

田中香織 イメージ
田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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