生まれたての赤ちゃんの瞳は、見ていて飽きない。少し青みがかった白目と活発に動く黒目に独特の美しさがあって、うっとりと眺めてしまう。一方、乳児から見たこちら側は、はたしてどんな風に映っているのだろうか。
生まれてすぐの赤ちゃんの目はまだほとんど見えていませんが、生後一ヵ月半ごろから対象物をとらえることができるようになり、二ヵ月くらいには目でものを追いかけて見ることができるようになります。その後、三歳ごろまでは急速に視覚機能(見る働き)が発達する大切な時期になります。
人の視力は10歳くらいでほぼ完成するという。そんな重要な時期に、もしも気づかぬまま目の異常が進行してしまったら──。その後の視力や視覚機能への影響は、大きなものとなるだろう。本書では育児に当たる親御さんや周囲の方に向けて、目の病気や見え方に関する問題をいち早く見つけるためのポイントが、5つの章にわたって解説されている。
最初に紹介されるのは、日常生活で気になる12のこと。イラストとともに挙げられた質疑応答が、参照すべきページを案内してくれる。
幼少時の私は「Q4」の質問と同じく、右目の視力が極端に低かった。「右目0.1、左目1.2」という極端な結果を受け取った両親は、小学生になった私を定期的に眼科へと連れて行き、経過を観察。中学へ入る時にはメガネを、高校生の時にはコンタクトレンズを作ってくれた。それらは本書で紹介されていた対応法とほぼ同じで、成長に合わせた正しい選択をしてくれていたことがよくわかった。感謝しかない。
ちなみに本書で初めて知ったのだが、近年は近視の進行を食い止めるための治療法が研究されているそうだ。たとえば、寝ている間に特殊なコンタクトレンズを装着することで角膜の形を矯正し、近視を治す「オルソケラトロジー」や、低濃度のアトロピン点眼薬を1日1回、両目に点眼することで、近視の進行を抑制する効果が見込まれる治療など、さまざまな研究が進んでいるという。いずれも学童期(6~12歳)の子どもに対して有効とされる方法で、注目を集めている。
こういった方法は、私の頃には確立されておらず、試すことすらできなかった。うまくいけば将来的に裸眼で過ごすことも可能になるのだから、ある意味で「夢の技術」にも思える。今はまだ保険適用外の治療法でもあるため、広く活用されるまでには時間がかかるかもしれないが、今後の動向を気にしておきたい。
さて第4章では、先天白内障や小児緑内障、そして目にできる「がん」である網膜芽細胞腫などの病気についても触れられている。それらは、黒目の奥の白濁や、写真を撮った時の黒目の光り方で見極められるという。知識があれば、気づきも早い。「あの時知っておけば」と思わないためにも、目を通しておこう。
また最後の第5章では、「子どもの目に関するよくある質問」と題して、スマホやタブレットを使う際の注事項や、ブルーライトが人体に与える影響なども説明されている。子どものころ、「読書をする時は、本から目を30cm離して読むように!」と、先生や両親に口酸っぱく言われたことを思い出した。
使う道具が本からデジタル機器へと変わっても、人体のつくりが変わらない以上、気を付けるポイントは同じ。ほほえましいことのようだが、昔の大人たちの小言のおかげで今があると思えば、さらに感謝するほかない。かつての私がそうしてもらったように、未来の子どもの目を守るために大人が今できることを、本書を通して知ってほしい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。