「痛み」や「しびれ」があるとヒヤっとする
数ヵ月前、足先のしびれに気がついた。ほんのわずかなしびれだったけれど、小心者かつそんな経験が今までなかった私にとってそれは一大事だった。背筋がスーッと冷たくなったのを今でも覚えている。なぜそんなに怖がっていたかというと、「危ない病気だったらどうしよう」と心配で仕方なかったからだ(その後、大きな病気ではないことがわかり、今もリハビリを続けています。少しずつ改善中)。
『首・肩・腕の痛みとしびれ 治療大全』を手に取る人のなかには、きっとこんなふうに「危ない病気だったらどうしよう」「いつ治るんだろう」「手術をしたほうがいいの?」「予防はできないの?」と先の見えないモヤがかかったような不安を抱えている人も多いのではないだろうか。
それらの疑問に、脊髄脊椎外科と末梢神経外科の専門医である井須豊彦先生が丁寧に答えてくれる1冊だ。五十肩(四十肩)デビューしちゃったから、もう一生腕が上がらないかもと嘆く人にも読んでもらいたい。
「尻もち」で脊髄障害?
第1章は「危ない症状の見分け方」。やっぱり最初に気になるのはこの点だろう。たとえば「Q7 転んで尻を打ったことと、腕のしびれは関係ありますか?」はドキッとする。
大きなケガや事故だけでなく、「転んだ」「階段を踏み外した」などというちょっとしたアクシデントが、じつは症状の出現・悪化に関係していることもあります。(中略)
もともと頸椎に問題があれば、ちょっとした衝撃が、脊髄や神経根の障害を悪化させる危険性は十分にあります。「つまづいた」「尻もちをついた」など、ケガというほどではないアクシデントは見過ごされがちですが、発症・悪化のきっかけになる例が少なくありません。脊髄障害を疑わせるサインがあれば、すぐに受診が必要です。
怖い。ちょっとした転倒も、ときに大けがにつながる。では、すぐに受診が必要かどうかの目安は? これも「Q9 受診が必要か、判断する目安を教えてください」で述べられている。
首や肩の痛みは、ありふれた症状というイメージがつきものです。(中略)「歩きづらい」「トイレが近い」などの症状は、首の痛みとは関係なさそうにみえるだけでなく、高齢者になるほど「歳のせい」と見過ごされがちです。しかし、じつはこれが受診を要する重要なサインなのです。(中略)
神経細胞は損傷し、壊死(えし)してしまうと再生しないという性質があります。そのため、圧迫などによる神経障害が起きている場合、障害の程度によっては、手術で圧迫の原因を取り除いても神経の働きが元のようには回復せず、麻痺や、しびれなどの感覚異常が残ってしまうこともあります。心配な症状があれば早めに原因を調べ、対応を考えていきましょう。
もし家族がどこか痛がっていたら絶対に見過ごさないようにしようと思った。ということで、症状や程度ごとに受診の緊急度を測るチャートはこちら。
わかりやすい。
「ストレートネック」だから悪いの?
第2章「痛み・しびれの原因と対応方針」も面白い。たとえば、巷でよく言われる「ストレートネックだから肩こりを起こしやすい」という説について。
結論から言えば、ストレートネック自体は病的なものではありません。(中略)
ストレートネックと指摘されたときに重要なのは、なぜ姿勢が悪くなっているのか、その点を確かめておくことです。
気にするべきは姿勢や生活習慣のほうなのだ。第5章「悪化を防ぐ日常生活の過ごし方」でも首に負担をかけない姿勢が紹介されているので参考にしてほしい。
そして「Q26 五十肩は病気ですか? どうすれば治りますか?」も多くの人に知ってもらいたい項だ。五十肩が起こる仕組みを解き、「痛みが治まったらできるだけ肩を動かす」ことを井須先生は推奨する。
回復の道筋がわかっていると安心する。それに痛みが治ったあとの体操もサボらずちゃんとやろうと思える。
生活指導と経過観察も治療の一環
第3章「手術せずに症状をやわらげる方法」と第4章「手術を検討すべきとき」を読むと、医療機関にかかったあとの話がよくわかる。焦らずゆっくり症状と向き合うことが、体にとって一番大切だと感じるはずだ。
私はつい安易に「病院にかかったらサクッと原因がわかり、症状が治る」と期待しがちだが、首や肩や腕の痛み・しびれは、手術をしない保存療法が基本的な方針となるのだという。
どのように治療を進めていくかは、病名より症状の現れ方を重視して判断します。
ヘルニアができたり、神経根を含めた組織の炎症が生じたりすると、痛みやしびれが急に強まりますが、多くの場合、1ヵ月程度で自然に痛みがやわらいできます。この間、基本的には安静を保ち、つらい症状は、薬物療法などの保存療法でやわらげます。(中略)
椎間板ヘルニアの場合、飛び出たヘルニアの塊は、やがては吸収され、小さくなっていくことが期待できます。(中略)その間、手術をしたり、薬物療法をおこなったりしないからといって、「医療機関にかかってもなにもしてもらえない」などと思わないでください。安静を含めた生活指導をおこないながら経過をみるのも、治療の一環です。もっとも安全な治療法といえるかもしれません。
人間の体を治すって、機械を修理するのとはわけがちがうのだよなあ。
そして、手術療法については、メリットやデメリットにとどまらず「手術が万能ではないこと」をとても丁寧に説明してくれる。おそらく、じっくり読めば読むほど、手術しようかなという安易な気持ちは薄れ、しっかり迷うようになるはずだ。でも、迷うことは悪いことではなく、自分の体と向き合ううえでとても大切な過程であることも教えてくれる。
患者さんもご家族も、手術をすれば、つらい症状はすべて解消されると考えがちです。しかし、手術をしたからといって、症状がすべてなくなるわけではありません。(中略)「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、改善の見込みや、起こりうる状態について、手術前から医師とよく相談しておくことが大切です。
誠実だ。もし、どうしても痛みやしびれがつらくて手術を受けたい場合はどんな医療機関を選べばよいかも、的確かつ誰でも調べられる方法でレクチャーされている。からだに痛みやしびれがあると不便かつ不気味で怖い。でも症状が起こる仕組みや対応方針がわかれば不安はやわらぐはずだ。病院にかかるまえ、そしてかかったあとも、ぜひ読んでもらいたい。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。