「依存症」と聞くと、「自分とは縁遠い話」と思われるかもしれない。だが、「止めようと思ってもなかなか止められなかったもの」の話だと考えれば、誰にだって心当たりの一つや二つ、浮かんでくるのが普通だろう。それはたとえばお菓子やゲーム、タバコにネットにお酒、買い物やギャンブル……何だって当てはまる。いずれもほどほどであれば、「日常の楽しみ」で済むものばかりだ。
では、「依存症」になる人にはどんな特徴があるのか。本書の監修者であり、薬物依存研究の第一人者として知られる精神科医・松本俊彦氏のまえがきにはこう記されていた。
それは、つらい気持ちをかかえている人や苛酷な環境・状況にいる人、あるいは、「自分には価値がない」「どこにも居場所がない」と感じている人、そして、それにもかかわらず、だれかに助けを求めることなく、物質や娯楽といった「モノ」だけで心の痛みをコントロールしようとする人です。おそらく彼らはいずれ「モノ」のコントロールを失い、健康や家族、友人、仕事を失う危機に瀕するでしょう。
その意味で、依存症とは「ヒト」に依存できない病気ともいえます。
松本氏は「そもそも、人は何かに依存しないではいられない生きもの」であり、中でも「身近な人とのつながりに依存しながら」生き延びているとつづる。だから「依存する」こと自体は、誰にとっても当たり前のことであり、日常に欠かせない「支え」であるともいえるだろう。
しかし何かのきっかけでうまく頼ることができなくなったり、「モノ」だけを求めるようになったりすると、徐々に心身のバランスが崩れていく。結果として、医学的に「依存症」と診断される状態に陥ってしまい、自分の手には負えなくなるのだ。そう考えると、誰にでも起きる可能性の高い、日常と隣り合わせの病にも思えてくる。
一方で「依存症」には、どこか実態とは異なるイメージを抱きがちな場合もある。その見方をチェックするためにも、読んでみてほしいページがあった。「依存症についてのよくある刷り込み、思い込み」だ。
個人的に響いたのは、「4 やめられない、再発をくり返すのは本人の意志が弱いからだ」と「6 突き放すのが本人のため。家族でも恋人でも友人でも、早く関係を断つべき」の2項目だった。今の私には縁がない病かもしれない。でも、もしいつか自分がその状態になったとしたら。おそらく、誰よりも自分で自分を責めるだろう。そして自分の大切な人がこの状態になった時には、何かをしたいけれどどうしたらよいかがわからないまま、右往左往するだろう。そんな自分が想像できるから、切実に先を読みたいと思った。次ページではいずれの項目についても、端的な事実とその詳細な解説先が、穏やかな言葉とともに示されている。
このように本書では、「依存症」そのものの解説から、その対象となる物や行為、回復に必要となる治療や手段、そして周囲の人間ができる支援やかかわりについてなどが、全5章にわたり幅広く取り上げられている。専門的な内容に触れる部分では、そのつど具体的でわかりやすい図やイラストが、読み手の理解を助けてくれるだろう。
なにより全体を通して、依存症になった人やその周りにいる人を追い詰めるような言葉がまったく書かれていないことは、心強くも嬉しかった。だからタイトルや表紙、裏表紙の言葉に気になるものを見つけたならば、ぜひ手に取ってみてほしい。きっと安心して読み通すことができるだろう。そして、これまでとは別の道が、見つかるきっかけとなるかもしれない。願いを込めて、薦めたい1冊だった。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。