育児中の友人が周囲に増えたことで、自然と乳幼児の病気が話題に上るようになった。それはたとえば手足口病やヘルパンギーナ、溶連菌感染症にRSウイルス感染症といった耳慣れない病名ばかりだったが、その内の1つに川崎病の名前があった。当時、娘が川崎病にかかった友達は「子どもが診断されて、初めてそんな病気があると知った」と話していた。そんなことを思い出しながら、本書を手に取った。
川崎病が初めて発見されたのは、1961年のことだという。名前の由来は地名ではなく、発見者である医師・川崎富作氏の名前にちなんでいる。発見当時、川崎氏は症例をまとめて学会で発表したものの、すぐには受け入れられなかったという。だがその後、同様の症例がアメリカでも発見されたことをきっかけに、日本でも「川崎病」という呼び名が認められ、現在では世界中で知られるようになった。
ところで川崎病とは、そもそもどんな病気なのか。それは全身の血管に炎症が起きる病気で、血管が広がることでさまざまな症状が引き起こされるという。友達の子どもは、1歳前後の時に罹患していた記憶がある。実際、川崎病にかかりやすいのは4歳以下の乳幼児で、特に生後9ヵ月から11ヵ月までに発症する割合が高く、それ以降は成長とともに減っていくそうだ。症状はまず発熱から始まり、その後、目の充血や口唇の赤味や腫れといった特徴的な症状がいくつも現れる。重要なのはこの段階における治療であり、後遺症を防ぐためには、10日以内の解熱がポイントになってくる。
本書では全5章にわたり、川崎病に関する知識が網羅されている。症状が現れた時、迅速に判断をするための基礎知識は第1章に、発症後の診断や治療については第2章で、第3章以降では後遺症期の検診や治療、その後の生活や成長後の自己管理についても語られている。章立てからわかるとおり、後遺症に関するページが多く割かれているのは、かつてこの病気が「死の病」と呼ばれた理由にもあるだろう。症状の進行に伴い心臓の血管にコブができることで、重大な心臓病につながり、命が危険にさらされるケースがあった。治療法の確立した現在では、発症後に炎症をすばやく抑えることで血管のコブを防げるようになり、後遺症が発生する率や死亡率も低下したという。
ただ驚いたのは、治療法が確立された現在においても、原因や予防法については不明だということ。「何かをきっかけに免疫が暴走しているのでは」「環境や遺伝的な要因」といった理由が考えられているそうだが、誰かからうつるわけではなく、またうつすこともないという。そのため現状では、事前に有効な対策は立てられない。だからこそ、かかってからの保護者の対応が重要となってくるのだろう。現段階でできることは、発症後にこそあるのだ。
わが子に異変が起きれば、保護者は急な対応を迫られる。すべての病気について知ることは難しいからこそ、機会があった時に1つでも知識を増やしておくのが大切だろう。川崎病のように、事前の予防策がない病気は知ることが何よりの事後への備えとなる。本書はイラストや図解も多く、文章も読みやすい。身構えることなく、まずは手に取ってみてほしい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。