幼い頃、雑誌の付録を作るのが苦手だった。せっかちでおおざっぱな性格ゆえ、気づいた時にはのりしろを切り落としてしまい、親に泣きついてもどうにもならないことが多かった。後から思えば説明書をちゃんと見て作ればよかったのだが、当時は反省をすることもなく、ただ諦めるだけ。そんな私でも手先を使った趣味には長年憧れがあり、出会ったのが本書!
著者は切り絵作家として、黒い画用紙と彩色した和紙を用いた切り絵作品を数多く発表してきた。また企業の広告や他作家とコラボした活動もあり、たとえば2021年にアニメ化された人気マンガ『不滅のあなたへ』(講談社)では、タイトルロゴなどの装飾を手掛けたという。作品のモチーフは主に植物と鳥、猫、犬といった動物たち。本書では副題にうたわれた「美しい日本の春夏秋冬」の通り、かわいらしい動植物が美しい色と表情で、さまざまな季節を映し出す。
本書のつくりは実にシンプルだ。全48種の完成見本が写真で紹介された後、使用する道具や基本の切り方、色紙の貼り方などが記されている。ちなみに通常、巻末に記載されるはずの奥付は16ページ目に載っており、一般の書籍を見慣れている目には斬新なつくり。奥付から後には、実際に使用する切り絵の図案と32種の色紙が収録されている。下絵を写す必要がなく、色紙の準備が不要なのも嬉しい。
さて今回の作成に当たり、まずは道具の買い出しへ。近場の100円ショップへ行ってみると、カッティングマットやデザインナイフ、替え刃、ペンタイプのり、マスキングテープなど、手元になかったものが一度に揃って驚いた。趣味としてはかなり手ごろで、始めやすいものだといえる。
次に作りたい図案を選んだ。これが地味に難しい。とにかくどれもかわいくて、決められない……! なお図案にはサイズの違いや色紙使用の有無はあっても、難易度や作りやすさの目安は記載されていない。そのため「自分がどれを作ってみたいか」という素直な気持ちが決め手となる。目移りしながら10分ほど見比べ、初回は猫の絵柄「燦々(さんさん)」を選んでみた。
(切り出したところ)
作業を始める前に、「基本の切り方」を熟読することも重要だ。デザインナイフを使うのは初めてなので、握り方から刃先の使い方まで細かく指示があるのはありがたい。そして「失敗したとき」という項目があったことも、不器用な私にとっては何より心強かった。細い線を切ってしまった時や、小さなパーツを切り落とした時の対処法が丁寧に紹介されている。その後、作業中に何度か失敗したものの、ここを読んでいたため冷静に対処できた。
そしていよいよ作業開始。1時間ごとに写真を撮ってみた。切っている間は果てしなく感じるものの、撮った写真を見比べると進捗がわかるため、かなり励まされる。作成時の撮影は忘れず行おう。私は適当に撮ってしまったのだが、後から見ると、同じ角度、同じ向きで撮った方が比べやすかったことに気づいた。教訓として活かしてほしい。
(1時間経過)
(2時間経過)
大きめに切り取れるパーツから進めたため、前半は進捗がわかりやすかった。だが実はこれも失敗の一つで、後半になると細かいパーツばかりが残り、作業の変化が見えにくくなった。集中力も落ちてくるので、何度も切り間違える。あらためて本書を読んでみると、「切り絵は必ず細かいパーツから切る」と明記されていた。熟読したつもりだったのに、やってしまった……!
このあたりで一度心が折れそうになったものの、完成図を何度も眺めることで自分を奮い立たせつつ、マスキングテープで失敗部分を補修していく。作業は4時間で切り出しは終了、白いテープで止めてある部分が失敗した箇所だ。
(3時間経過)
(4時間経過)
ちなみに切り方の説明では、「刃はこまめに取り換えるのがコツ」と書かれており、「『こまめに』ってどれくらいだろう……」と思っていたが、実際に使い始めると、刃先が微妙に削れてくることで、使いにくくなってくるのがわかる。なるほど、だからどんどん替えるべきなのか! 結局、4時間で4枚使用した。
(左が使用後、刃先が少し欠けている)
私はここまでの作業を2日に分けて行った。図案に向き合うとつい熱中してしまうが、長くじっくり続ける趣味として考えると、もう少しのんびり作る方がよいかもしれない。たとえば1日1時間くらいで少しずつ進めた方がいいと思う。
そしていよいよ色紙を付ける。見本ほどグラデーションがうまくいかず落ち込むものの、「誰に見せるでもない、自分が満足する色で!」と頭を切り替える。色紙を付ける作業は2時間ほどだった。
(完成!)
作業中は「完成図ほどうまくいかない……」と落ち込むこともあったが、できあがって時間が経ってみると、悪くない仕上がりであることに気づく。白い紙を後ろに当てて、光が当たるところで見てみると、それなりに映えた。さらに満足感が高まる。かつて、付録ののりしろを切って泣いていた自分が、ちょっと報われた気すらした。新たな春に新たな趣味を見つけたい方は、ぜひ。
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著者・大橋忍さんの記事はこちらにもあります⇒https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80313?media=frau
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。