史実は壮大なネタバレなのだろうか?
日本史にうとい私は、2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が始まったばかりのころ、今回は肩身が狭くないぞと内心ホッとしていた。私のまわりには、主人公である北条義時に詳しい人があまりいなかったのだ。お姉さんの北条政子のことはみんなよく知っているのに、義時の生涯や功績をスラスラ言える人はとても少ない。
だからいろんな人と「どうなっちゃうんだろうね?」と真っさらな状態で話せた。ところが、だ。そんな楽しみ方だけでは次第に物足りなくなってしまった。
史実をベースにしたドラマや映画は、実際の歴史がどうであったかを一切知らなくても楽しめる。では事前情報があったらどうなるだろう? 史実とは、歴史ドラマのどんでん返しであり、なんなら結末だったりする。つまり特大級のネタバレになっちゃう? いや、解釈や考察、そしてフィクションとしての味付けを見いだすのも楽しい。そうやって多層的な面白さを噛みしめることは、歴史ドラマの醍醐味じゃないだろうか。
ほら、やがて平清盛が「ぐぬぬ!」って死んでしまうことを知っていても、ドラマは面白いでしょ? ネタバレ上等。むしろ「来るぞ、来るぞ」と大きなうねりを感じたほうが楽しい。だから義時のうねりも私は知りたいんだよ……。
義時は、武家政権を樹立した源頼朝を支えた人物。鎌倉幕府の2代執権として武家政権を完成させ、基礎を作った人物。じゃあ基礎って何? どんなことでも基礎を作るって大変なはず。
……そんなことを考えながら『講談社 学習まんが 北条義時 歴史を変えた人物伝』を手に取った。まるまる1冊が北条義時!
小学生から大人まで真剣に読める。上のコマは大人になった義時だ。もちろん、義時の少年時代はどんな世の中だったか?も丁寧に紹介されています。
試験対策に読むもよし、ミーハーな私が求めたようにドラマをさらに楽しむためのスパイスとしても活躍してくれるだろう。「高校生の時に日本史の授業を選択しておけばよかったなあ」なんて私はテレビの前でいじけがちだけど、そんな時間があったら読んじゃえばいいのだ。
手加減なしのマメ知識
まずは学習まんがの凄みを紹介したい。たとえば、流人として関東で暮らしていた源頼朝が挙兵をしたきっかけを描いたページはこんな感じ。
この場面ドラマで観た観た! そしてページの一番下にある「マメ知識」に注目してほしい。まんがの展開を補足するべく以仁王の挙兵についてふれている。このマメ知識をふむふむと読むのが楽しいのだが、なんと全てのページにマメ知識がある。びっくりした。
「壇の浦の戦い」だってこの通り。
そういえば小学生や中学生の頃って教科書のすみっこに載っているコラムを授業中にぼんやり読むのが好きだったな……マメ知識の質と圧倒的な量が頼もしいよ。
セリフから言葉を身につける
もうひとつ、私が本作で大好きなのは「注釈」だ。まんがの文章のところどころに「※」が記され、ページの横にその言葉の解説が添えられている。たとえば、先ほど引用した23ページの頼朝が挙兵を思案するページの注釈では、「坂東」は「関東地方」を指すとあり、「恩顧」は「面倒をみること」とある。これ、大人になって読むとなんてことないと感じるかもしれませんが、ものすごく大切なんです。
小学生が読む作品でも言葉は大人の世界のそれと同じ。最初は意味がわからなくても、ひとつひとつに解説がついていると、やがて生きた言葉として心になじんで、身につきます(小学生の頃に講談社の少年少女世界文学館シリーズで同じ体験をしました。もう、本当にお世話になったし今でも宝物です)。
頼朝の子供は頼家で、頼家の乳母夫は比企能員。そして当時の乳母夫が意味することと、義時の「頼朝さまと頼家さまをお支えする!」という主人公らしい忠義心。さらにマメ知識には比企能員の娘の話。鎌倉殿をとりまく権力闘争と人間関係のドロドロさを予感できるページだ。セリフの「後塵を拝する」もピリッと効いている。ああ、学習まんがの分厚い情報量がうれしい。
そうやって学習まんがの手厚さにホクホクしながら読んだ義時の人生はとてもハードでした。信念と苦悩と波乱。これはドラマになるわ。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。