基本的なのに個性的な和食
プロの作る和食はどうしてあんなにおいしいのだろう。ついついあと一口食べたくなって、何日か経って「ああまた食べたい!」と、ふと思い出して幸せな気持ちになる。エッジの効いたおいしさが心に残るのだ。忘れられない。
『ムズカシイことぬき! きほんの和食。』は、そんな「プロのおいしさ」を自分で再現するためのテクニックを教えてくれる料理本だ。和食ビギナーはもちろん、和食を作り慣れた人にもおすすめできる。
実際に作ってみると本当に「ああ、また食べたい!」と思うのだ。味が忘れられない。基本的なのに個性的でおいしくて、「また自分で作ろう!」と料理へのモチベーションが上がる。また食べたいものを自分で作れるって最高だ。
本書でプロの味の再現方法を教えてくれるのは、ミシュラン一つ星を7年連続で獲得した和食の名店『鈴なり』の店主・村田明彦料理長。『鈴なり』は東京の荒木町にある。荒木町は昔からおいしいお店が集まるエリア。フラフラっと歩くだけで楽しくなる(そしてお腹がすく)場所だ。この時点で私は「絶対おいしい」と確信が持てる。
しかも、短時間で本格的な味に仕上げるために、玉ねぎは冷凍して甘味を引き出すなど、役に立つアイデアが満載で、平日の夜にも気軽に作りやすい。
おいしさと情報がぎゅっと詰まったレイアウト
本書は、時短してもよい工程と、村田料理長ならではのプロのこだわりの両方がわかりやすく紹介されている。読んで実際に作ってみると、情報の濃さと奥行きを感じるのに、どのレシピも大抵1ページで表現されている。長くても見開き2ページで完結している。パッと確かめられるのでうれしい。
たとえば「里芋とベーコンの煮物」のページはこちら。
「おいしそう」と「わかりやすい」が1ページにきちんとおさまっている。まず、完成した煮物の写真がおいしそう。これは一番おおきくアピールしたいですよね。わかる。そして、工程の写真のチョイスが絶妙。私は里芋の下ごしらえで悩みがちなので写真が心強かった。気になる「調理時間」と「保存方法」も明示されている。なにより「店でも使う裏技です」という村田料理長のコメントにグッとくる。情報ぎっしりなのに窮屈じゃないの、不思議だなあ。
作ってみたのがこちら。
ベーコンの旨味がしみておいしい。「冷蔵保存3日」とのことですが、あっというまに食べ切ってしまった。私の大好物になりました。
ちなみに、本書には保存に適さない和食も登場する。そういうお料理には「保存方法」の項で「できたてを食べる」とはっきり明記されている。おいしさ重視でありがたい。豚汁は「風味が落ちるので飲み切る」のがよいそうです。
「これどうやって作ったかわかる?」と言いたくなる「ほうれんそうの胡麻和え」
次に作ってみたのは「ほうれんそうの胡麻和え」。誰でも知っている料理だけど、このレシピ通りに作るとご馳走度がアップした。
こちらも里芋のベーコンの煮物と同じくほうれんそうの下ごしらえが丁寧に紹介されている。ザクっと根っこを切り離すよりおいしいんですよね。そして、茹でるのではなくごま油で炒めるのも最高。「胡麻和えのほうれんそうをごま油で炒める」、考えただけでおいしそうだと思う。水っぽくならないのもいい。
実際に作ったのはこちら。
大人っぽい胡麻和えになりました。「なんか今日の胡麻和えおいしいでしょ、ごま油で炒めたんだよ。梅干しも一緒にあえてるの」とあえて自慢したくなる味。ああ、また食べたい。翌日に食べても水っぽくなくておいしかったです。
サバのみそ煮にバター!
そしてこちらのレシピも忘れられない。「サバのみそ煮」!
隠し味にバターを使います。実は、私はみそ煮を食べるのも作るのも苦手なんですが、このレシピは失敗なくおいしく作れました。感動。
みそラーメンにバターを入れることはよくある話なのだから、みそとバターってもともと相性のいい組み合わせ。あと、煮つける前にサバをこんがり焼くと味が引き締まるんですね。付け合わせのピーマンと豆腐もおいしい。翌日あたため直して食べたときにもバターの香りがふんわり広がって「これだー!」と胸が躍った。ああ幸せ。
おいしく作るためのテクニックがぎゅっと凝縮されている。かんたんなのに味がビシッと決まるので作りがいがある。読めば読むほど「和食、いいわあ」となり、作って食べるたびにうれしくなる。おすすめです。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。