「これ、何の意味があるんだろう?」学生の時も、社会人になってからも、内心でそう考えた場面は数えきれないほどある。だが実際、口に出せたことはそれほど多くない。上下関係のある場面では、下位の者はどうしても、上の顔色や場の空気をうかがってしまう。結果として心は縮こまり、疑問を持つこと自体が封じられていく。この風潮は本邦において、まだまだ根強く残っているように思う。
だが著者はそんな状況を吹き飛ばすかのように、こんな視点を提示する。いわく「社会全体が、『方法論』ばかりに目を奪われてしまって」いることが、現在の日本に漂う閉塞感の一因になっているのでないか、と。
もちろん、ノウハウやテクニックを学ぶことが悪いと言っているわけではありません。ただ、このように「方法論」を駆使して何よりも成果を追い求めることばかりにフォーカスしてしまうと、
「なぜそれをやるのか?」
「なぜその目標を目指すのか」
という「目的論」のほうがなおざりになってしまうことがあるのも事実です。
そうして「目的を持つこと」の重要性を説いた上で、世界のトップアスリートたちの取り組みと姿勢を例に出し、問いを重ねることの意味についても語っていく。
明確な目的に到達するには、
「なぜ?」
「どうして?」
を繰り返して掘り下げていくプロセスが不可欠です。もし、理解できないようなつらい思いを押し付けられたとしたら、遠慮なく、「それって意味ありますか?」
と、胸を張って聞いてみること。
本書では全五章を通じて、さまざまな形で「目的を持つこと」「そのために問いを繰り返すこと」の重要性が説かれていく。つづられた言葉は、これまでうまく声を上げられなかった人々、特にこれからの若者に向けたエールとして、力強く心に響く。
著者は、スポーツ用品「アンダーアーマー」の日本総代理店「株式会社ドーム」の代表取締役である。高校生の時にアメリカンフットボールと出会い、法政大学時代には主将として部内の大改革を実行。後の常勝チームへと生まれ変わる基礎を築いたという。
そんな著者だからこそ、スポーツを通して「目的」を持った組織の強さを語る言葉には熱がこもる。
「強豪」と言われるチームは、トレーニングひとつ、ミーティングひとつとっても、これはなんのためにやっているのかという「目的」がチーム全体で共有されていることが、唯一の共通点といってもいいかと思うほどです。「なぜそれをやるのか」という「目的」が、チームを強く成長させている、ということだと思います。
結果としてそれらは、社会の変革にも繋がっていく。
常識を疑い、頭の中を混沌とさせる。「どういうことだろうなぁ」とみなで一緒に考える。本当にどういう意味があるのか、真剣に考える。意味があれば信じて実行し、なければ改善したり撤廃したりする。そんなほんのちょっとした「懐の深さ」が無味乾燥な閉塞した社会に、爽やかな空気を送り込むのだと思います。
特におもしろかったのは、第三章。著者自身の体験談だ。前述の通り、大学のアメフト部を改革していった経緯が語られるものの、一年次の時点では、「アメフトをやめてしまうことも頭によぎるほど」追い詰められていたそうだ。そんな著者がどうやって自身を変え、チームを変えていったのか。それは本書で、ぜひ直に触れてほしい。
心に浮かんだ疑問や問いを発することは、まだまだ勇気がいることだろう。だがその効果や必要性を知った後であれば、少しずつでも、できることが見えてくる。著者渾身のエールを受け止めて、自在な生き方を目指したい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。