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2021.03.11

レビュー

巨大化する中国。迎え撃つ米国。覇権と覇権のはざまで日本の生き残り戦略は!?

先日、ミャンマーでクーデターが起きた日のこと。私は最近ネットで流行り始めた「Clubhouse」というアプリを使って、現地で暮らす日本人の方々の話を聞いていた。街の様子や軍の動き、今後起こりうる事態などが次々と挙げられていく。軍によって市民が使うインターネット回線が制限されていく中、それでも続く会話からは緊迫した雰囲気も伝わってきた。「歴史的な瞬間にいる」というのはこういうことかと思った。

一方で、そうして耳にした貴重な情報をどう受け止めたら良いのかわからない自分もいた。なぜならその真偽や過去の出来事との繋がり、未来への影響について、ほぼ見当がつかなかったためだ。ニュースではまだ報じられていない話も聞くことができているのに、ただ受け取るだけ。懸命に話す彼らと、同じ世界に、リアルタイムで生きているということが実感できた分、もったいなく感じてしまった。

そんな思いを残したまま、手にしたのが本書。著者は中国や朝鮮半島を中心に、東アジアで多くの取材を行ってきた。これまでに、31冊にも上る東アジア関連の著書があるという。本書では知識と経験豊富な著者の目を通して、アメリカと中国による21世紀の覇権争いの今とこれから、そして中国の近隣諸国との関係や現状分析が事実を基に語られていく。

中でも興味を惹かれたのは、第1章「米中、七つの戦争」で取り上げられた「デジタル人民元」の試行について。中国ではキャッシュレス決済への移行が著しいと知っていたものの、それをさらに進めることで、現在の基軸通貨であるドルを超えて、人民元の国際化を目指していることは初耳だった。また、他にはこんな狙いもあるという。

第二に、機先を制することです。後発国の中国は、これまで多くの分野で先進国に追いつき追い越す立場にありました。その際、「先進国が敷いたプラットフォームとルールの上で勝負する」ことが求められるので、そもそも不利です。そこでデジタル人民元をいち早く導入し、デジタル通貨のプラットフォームとルールを設定してしまおうというわけです。

確かに、たとえばルールを作る側とプレイヤーで同じゲームをするのであれば、ルールを自由に設定できる前者が圧倒的に有利だろう。またデジタル人民元を実現することで、日常の利便性をより向上させるだけでなく、金融面での不正防止や国民生活の管理など、政府にとっての利点も挙げられていた。その是非はさておき、国内外を視野に入れた大局観にあらためて驚かされた。翻って我が国は……と、つい考えてしまう。

第2章の「『コロナ対応』の東アジア比較」を中心とする、一連の記述も興味深かった。この1年、コロナのニュースが流れなかった日はない。しかし山のような情報を記憶に留め、俯瞰し続けることはとても難しい。時系列でまとめられた諸国の対応や行動原理、事実と事実をつなぐ分析を見ていくと、他国の優れた対応と自国に足りなかった部分がより鮮明に比較できた。特に過去の教訓を活かしてコロナを制した韓国と台湾については、その対応のみならず、政治や経済、外交、文化などの面において「日本の近未来の姿がある」と説いているのは印象に残った。

そして「著者の目を借りた」と感じたのは第4章。「日本は中国とどう付き合うか」と題されたこの最終章では、RCEP(地域的な包括的経済提携)やTPP11(CPTPP=環太平洋パートナーシップ協定)の交渉を通して見える本邦の立場のほか、日本に対する中国歴代政権の姿勢もじっくりと解説されている。あわせて、近現代史から現在にいたるまでの流れと地政学的な関係も確認できるのは、まるで教科書のよう。過去の歴史と同様に、「今の日本」が読み解かれていくおもしろさが味わえる。

国家間の関係に、私たち市民が直接関与できることはない。だが渦中に生きるひとりの人間として、情報とは常に向き合い続ける。だから知ることを、読み解くことを諦めたくはない。本書を読むことで歴史としての「今」をどう受け止めればよいのか、今後この国が、世界が、どんな風に現実を受け止めて行くのか、多くのヒントをもらった。忘れることなくこれからに活かしたい。

レビュアー

田中香織 イメージ
田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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