なぜ主流派経済学者の予測は外れるのか
中野剛志
二〇一九年、私は『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』(KKベストセラーズ刊)という本を出しました。その本について、私はこう書きました。「こんな高度な内容を、これ以上わかりやすく書くのはもう無理です」。
しかし、それから一年後、もっとわかりやすく書く方法を教えてもらいました。それは、マンガで描くということです。そこで、漫画家の山田一喜氏のご協力を得て、『マンガでわかる 日本経済入門』を世に出すこととしました。
どうして、マンガを使ってまで、わかりやすい経済の本を書きたかったのか。それは、日本経済をどう運営するかによって、私たちの日々の暮らしが大きく左右されるからです。
例えば、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対し、日本政府は、国民全員に一人当たり十万円の給付金を出しました。これによって、多くの国民の生活が多少は救われたと思います。この給付金の例ひとつとっても、経済政策というものは、私たちの生活に大きな影響を与えるということがわかるでしょう。日本経済や経済政策について知っておくことは、自分たちの暮らしを守る上でも、必要なのです。
ところが、経済というものは、専門家ではない一般国民にとっては、難しくてとっつきにくいところがあります。実際、世間に出回っている経済学の教科書や経済の解説本は、専門用語が多くて非常に分かりにくいものが多い。しかも、まったく面白くない。
さらに、もっと深刻な問題は、テレビや新聞に出てくる専門家の解説、政府の見解、書店に置いてある経済の解説書、さらには、大学で教えている経済学までもが、間違いだらけだということなのです。しかも、かなり重大な間違いを犯しています。
というのも、経済学界の主流派をなしている経済学者たちは、実は、「貨幣とは何か」を正しく理解していないのです! 驚かれるかもしれませんが、これは本当の話です。
貨幣とは何かを知らない経済学者などというものは、ウイルスとは何かを知らない感染症学者のようなものです。そんな経済学者に、正しい経済の処方箋が書けるわけがありません。その証拠に、日本政府は、主流派の経済学者が書いた処方箋に従って経済を運営してきましたが、その結果、日本経済は、三十年近くもの間、停滞し、ほとんど成長しなくなってしまいました。
実は、主流派に属さない経済学者たちは、何十年も前から、主流派経済学が貨幣の理解を間違えていることを指摘し、批判してきました。しかし、主流派経済学者たちは、その批判を無視し続け、いっこうに改めようとはしないまま、今日に至っています。
例えば、昨今、「MMT(現代貨幣理論)」と呼ばれる理論が話題となっていますが、MMTは、まさに貨幣を正しく理解した経済理論なのです。ところが、主流派の経済学者たちは、MMTをよく知ろうともせずに、「トンデモ理論」のレッテルを貼り、排除しようとしています。
その一方で、主流派経済学者たちは、もうかれこれ十数年も前から、「日本は、財政破綻する」と予測してきました。しかし、日本政府の債務は増え続けているというのに、財政破綻などいっこうに起きる気配もありません。それでもなお、主流派経済学者たちは、「いや、日本は、いずれ財政破綻する」と言い張り続けています。
なぜ、主流派経済学者たちの予測は、外れるのか。その根本的な理由は、先ほど述べたとおり、彼らが、貨幣について間違った理解をしているからなのです。貨幣の理解を間違えている経済学……。「トンデモ理論」は、実は、主流派経済学の方なのではないでしょうか。
『マンガでわかる 日本経済入門』は、主流派経済学者も知らない「貨幣」の正体について、わかりやすく解説しています。そして、貨幣の正しい理解に基づいて、どういう経済政策が日本経済を成長させるのかを明らかにしていきます。
自分で言うのも何ですが、本書は、ある意味、〝恐ろしい〟本だと思います。なぜならば、これを読んだ人は、主流派経済学の大学教授、あるいは主流派経済学を鵜呑みにしている政治家や官僚、経済アナリストよりも、経済について正しく理解できるようになってしまうからです。
もし、多くの人が経済を正しく理解したら、世論は変わり、正しい経済政策を主張する政治家が選挙で選ばれ、日本経済は再生するに違いない。
そういう希望を託して、『マンガでわかる 日本経済入門』を世に送ります。
(なかの・たけし 評論家)
読書人の雑誌「本」11月号より