子どもを感心させたり、驚かすのって簡単なようでなかなか難しいんですよね。
でもふしぎな現象をチラッとさりげなく見せてみると、興味なかったそぶりをしていても急に目の色を変えて興味を示してくるようになって「もう1回やって!」なんてな具合に食いついてくるものです。そりゃそうですよね、大人だって冷凍庫に入れていた飲み物をとりだして開けてみたら過冷却で一気に凍った、なんて現象に遭遇したらびっくりもするし、凍った飲み物を前になんとなく楽しくなっちゃうじゃないですか。
「科学教育に最も大切なことは、子供に感動をあたえることだと思います」そんな言葉を残された後藤道夫先生による『子供にウケる科学手品77』『もっと子供にウケる科学手品77』は、そんな日常のちょっとした不思議を体験できる手品をあつめた傑作シリーズです。本書は中でもとくにインパクトのある現象を収録したベスト版です。
日常の暮らしの中でさらっと披露できる小ネタから、準備して不思議がらせることができる手品まで、気軽に試せる科学の現象が揃(そろ)っています。
著者の後藤道夫先生は、各地の親子科学教室の指導に尽力され、NHK科学実験グループの指導員でもあるまさに科学教育の立役者とも言うべき存在です。本書は惜しくも2017年に亡くなられてしまった氏が遺した、子供を科学の世界に誘う招待状と言っても過言ではありません。
実際に収録されている手品を娘に披露しようと見せてみると、最初は「お父さんなんか変なことしてるな」と遠巻きに訝(いぶか)しんでいますが、これらの手品を実際に目にすると、「えー、なんでー?」と目を輝かせて近づいてきます。そして「自分もやるー」と夢中になって試すようになりました。そして「なんでこうなるの?」と質問責めにしてきます。
この流れはまさに、本書の巻頭にて編集部の言葉で語られている流れとまったく一緒で、後藤先生の狙いにピッタリ合致していて苦笑してしまいそうになるほどでした。
そんな実体験もあり、STEM教育だなんだと騒がれている今、科学に対する興味の入り口としてこれ以上手軽でインパクトのあるものはないんじゃないでしょうか。だって実際に身近なもので体験できるわけですから。
さて、本書で紹介されている手品たちは、どのご家庭にもあるものでできるものがほとんどです。ですから、うまくタイミングを見計らえば、子どもにあたえるインパクトをより大きくできるんです。どうせなら「お父さん(お母さん)すごい!」って言われたいじゃないですか。準備しているところを見せずに、パッと見せて、「なにそれ!」って驚かせたいじゃないですか。
そのためにも、手品の手順はしっかり覚えておくことが重要です。不意に見せられる不思議は、仰々しくやるよりも反応がいいんですよ。
例えば夕食を食べている時。ワインの栓を抜いて、おもむろにコルクにフォークを刺して「宙に浮くコルクとフォーク」を実演してみれば、「貸して!」ってなりますよね。
あるいは保育園や学校でもらってきたプリントを受け取って、そのプリントを手に持って息を吹きかけたら紙がくっつくさまを見せたら、「自分もやる!」ってなりますよね。私の娘はなりました。
そう思うと、身の回りはたくさんの不思議で満ちていて、手品を披露するチャンスはたくさんあるのです。
いろいろ娘相手に手品を試してみましたが、我が家の場合は「メビウスの輪」がいちばんウケました。作ってそのままで不思議、2回切ったら鎖になる、また切ったら鎖が増えると、何度も楽しめますからね。
ただこれについては「なんで?」と聞かれても答えられないのが辛いところですが。
他にもお風呂や、外に遊びに出かけた際に試せるものがたくさんあって、大人からしても飽きません。どれも複雑な手順が必要なものではないので、頭に入れておけば、きっと子どもたちの驚き、感動する輝く瞳が見られることでしょう。
あとは……「何で?」の質問に対して、わかりやすく答えられるように原理を理解することですかね。「お父さん何でも知ってるね!」って言ってもらうために!
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。