友人から里芋が届いた。聞けば幼稚園の行事でお子さんと芋掘りに行ったら、今年は大豊作で食べきれないほど採れたという。嬉しいおすそわけにほくほくしているうち、ふと思い出した。そういえば幼い頃は自分も、家の内外でいろいろな季節の行事に恵まれていたことを。
たとえば年明けはお正月に始まり、節分、ひな祭り、イースター、こどもの日……と続いていく。その日のために家族や友達、先生、ご近所のみんなで、飾りと食べ物の準備をした。餅をつき、鬼に投げるための豆を用意し、卵には絵を描いて。だからその日はごはんも、いつもとは違う特別メニュー。食事の時間は待ちきれないほど楽しみで──。
すっかり遠くなっていたそんな記憶が、本書を開いたとたん次々と戻ってきた。どのページのごはんも目に楽しくて、かわいくて、なにより美味しそう……! 写真を眺めているだけなのに、季節感もしっかり伝わってくる。
本書はレシピ集であるのと同時に、写真集、もしくは作品集ともいえる仕上がりになっている。それはもともと著者が、Instagram(インスタグラム)上でつながったフォロワーに向けて、自身の料理を紹介していたことに由来するだろう。多くの人が、ネット上で発表される著者のごはんを日々楽しみにしてきた。その方々にとっては「より抜き保存版」ともいえる1冊になっている。
ところで本書では、一般のレシピ集によく見られる、料理ごとのカロリー計算や所要時間の表記が見当たらない。また、レシピごとの目安人数が異なる点も珍しい。さらにふるっているのは、作り方の工程が省略されている料理があったこと! 具体例では「ご機嫌すぎる鬼のナポリタン弁当」。
著者による
とても豆をぶつける気になれないこの笑顔。栄養満点のナポリタンはわが家の定番。2月はこんな盛り方に(笑)!
という前置きのあと、「材料(1人分)と作り方(調味料は省略)」というレシピが続く。この段階で「『調味料は省略』……!?」と目を丸くしたが、その調理法に至ってはなんと、たったの1行。
いつものナポリタンを作る。
あまりの潔さに、思わず笑ってしまった。確かにこのレシピの主眼は、その調理や調味以上に「パスタの見かけが『鬼』に見えるための盛り付け方の伝授」である。だから味や作り方はそれぞれ作った人の好みに任せて、伝えたいポイントこそを丁寧に解説する。レシピ集としては大胆で思い切った書き方だけれど、間違っていない……!
こんなレシピたちが誕生したきっかけは、次女の偏食だったという。次女の興味を引くため、毎食少しだけ工夫して作り始めた。手間暇を惜しまず、彩りや栄養も大切に。でも時には自由に、可能な限り。そんな姿勢は、「はじめに」でつづられた言葉からも感じ取れた。
子育てはとにかく忙しい。悩みや心配も絶えず起こります。残り物や買ったごはんを食べさせるだけでも精一杯。
そんな日々の連続ですが、たまたま私はこんな作業が好きで、楽しく、苦になりませんでした。
家庭での食育には様々な形がありますが、決して無理をせず、作る側、教える側が楽しんで伝えていくことが一番大切だと思っています。
子どもはあっという間に年を取る。季節の変わり目を楽しみながら家族で食卓を囲む時間も、そう長くはない。だからこそ、旬の食べ物に触れながら美味しく食べたその記憶は、いつか自分で食事を作るようになった時、思い出とともにその子を支えてくれるだろう。
なお、月ごとに掲載されているカレンダーは年と曜日を手書きで入れられる形式で、いつ使い始めても大丈夫。巻末には、行事の由来や意味だけでなく、「冬至」や「立春」といった二十四節気と旬の食材一覧表、そして年齢早見表から結婚記念日まで収録されていて心強い。
季節ごとの味だけでなく、覚えておきたい情報もまとめて確認できるのは、本になったことの大きな利点だと思う。この本をきっかけに、あなたの食卓にも楽しい旬がたくさん訪れますように!
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。