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2019.12.27

特集

職場の認識は「身近な5人」によって歪められる。分断を生むエジソンとは?

二つの「才能」が出会うとき

「子どもを持つとは、人生の使命を一つ増やすようなものだから」と彼女はいった。私は一瞬、その言葉の真意がわからなかった。すると彼女は、もう一度丁寧に教えてくれた。「子どもを持つってのは、自分の人生に“使命”をもう一つ増やすってことでしょ」「なるほど」「だけどさ、私たちにはもう使命があるじゃない?」。

彼女はそういって笑っていた。私はこの言葉を聞いたとき、これは彼女の考えがありのままに結晶化された言葉だ、と感じた。

人には「自分の言葉を持つ人」と、それを「持たない人」がいる。彼女のその一言は、彼女が長い年月、何のために生きて、何のために生まれてきたのか、誰のために死んでいくのかを考え続けてきたからこそ出たとっさの言葉だと感じた。そうでなければ、覚悟を帯びた言葉は出てこないからだ。そして彼女のバックグラウンドを知っていた私はよりそれを確信できた。実際に彼女は作家でもあった。

私は「“人生の使命(=ミッション)”とはなんだろうか?」と思うことがある。それは二つの意味でそう思う。まずは文字通り、自分がなすべきこと、という意味。もう一つは、使命は人を幸せにするのだろうか、という意味だ。わかりやすい例えを使うならば、アメリカの公民権運動の指導者として有名なキング牧師は明らかに使命を持っていたが、それは幸せな人生を導いたのだろうか、と(彼は暗殺されてしまった)。言い換えれば、使命を持つことは一体人になにをもたらすのか、という疑問だ。最新作のテーマでもある。

私自身にも、いま、人生のミッションだと思えるテーマがある。本を作ることもその一つに近い。そしてこの「やりたいことを持つこと」「それを仕事にすること」に多くの人はたしかに憧れる。だが、それはあくまでそのやりたいことが「好きなこと」や「稼げること」の領域を超える前までの話だ。好きなことをしていて、それがお金になり始め、その人しかできない社会的な意味を持ち始めると、人はより大きなものとぶつかり始める運命をたどる。たとえば、ただの野球好きだった少年がプロ野球選手になり、やがてメジャーに渡り、あたかも「日本の旗を背負っている」ように期待される。うまくやるのは当たり前で、失敗すれば当然叱責も受ける。そのとき、彼の好きだったことは明らかに誰かの期待とぶつかり、“使命”に近いものとすれ違っていく。しかも、この問題の難しいところは、その人物が真面目であればあるほど、誠実であればあるほど、才能があればあるほど、期待値はどんどんあがり、それら雑音の声を無視することが容易ではなくなってしまうことだ。

ただ、それでも彼ら、彼女らは立ち上がることを決める。なぜなら、彼らはそうやってしか生きていくことができないからだ。それは彼らにとっては、人生の生き方であり、宿命だからだ。

話は少し前後するが、私は今年 一月に二冊目の単著を出した。その本は幸運にも、発売すぐにベストセラーとなった。テーマは「才能」だった。私はその時から、最新作が完成するまでずっと考え続けてきたテーマがある。それは

才能あるものの同士は本当に人生で出会うことがあるのか? もし、それが重なったとしたらどうなるのか?

ということだ。わかりやすくいうと、使命を持った者と使命を持った者、その二者がもし“実存するフィールド”で出会うとどうなるのか、ということだ。その結果を知りたいと思った。たとえば、ビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーのように、彼らは実際に出会うとどうなるのだろうか? 皆さんはきっとその予測にポジティブなのではないだろうか。その気持ちはわかる。でも、私の答えはそれとは違う。間違いなくそれは「寂しい別れ」が結末なはずだからだ。

なぜなら、輝きすぎる二つの才能はずっと並走し続けることはできないということを理解しているからだ。使命は犠牲を伴う。そして使命は多くのものの協力が必要であるからこそ、全てをそれに捧げるものたちはあまりに近くに“ずっと”は居続けることはできない。ジョン・レノンとポール・マッカートニーが全く違う道を歩んだように。でも、それは本来、人生そのものだ。切なくて、最終的には何が残るかはわからない。むしろ何も残らないことの方が多い。それでも明日は来て、春は来る。希望は訪れるのだ。

切なくて、でも、生きるエネルギーが湧く、そんな一冊。それが『分断を生むエジソン』という最新作だ。お楽しみ頂ければ心から嬉しい!

北野唯我(きたの・ゆいが ワンキャリア執行役員)

(出典:読書人の雑誌「本」12月号)

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