一昔前の「人気犬種ランキング」では10位にも入らなかったのに、今では常に5位以内をキープ。賢くて忠実で従順な柴犬は、ここ数年、海外でも大人気だといいます。
しかし、成犬は8~9キロにもなり、小型犬しか許されていないマンションでは飼えず、運動量も多いことから、自分で飼うことに二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょうか。
そんな眺めるだけの柴犬愛好家(=通称“見る柴”)でも楽しめるのが、『柴犬のここが好き #ここ柴部』。
もともとは著者が、昔、飼っていた愛犬ハナとソラの“ここが好き”な思い出を描くためにスタートしたもので、現在はInstagramのハッシュタグ「#ここ柴部」に投稿される柴犬の写真をもとにイラストが描かれています。
飼い主であれば当然、うちの子が世界で一番可愛い! みんな見て見て! と思うわけで、「#ここ柴部」への投稿数はなんと10万件以上。
その中から選ばれた、とっておきの“好き”エピソードが描かれているわけですから、可愛いくないわけがありません。
それにしても、自分の愛犬をこんなふうにイラストにしてもらえるなんて羨まし過ぎる!!
でも、わざわざイラストにしなくても、投稿写真を見たり、動画を見ればいいのでは? と思いますよね。
ところが、この本にはイラストならではの良さがあるのです。
「ああ、これ、あるある」と思わず笑ったのは、こちら。
犬種は違いますが、私が以前飼っていた犬も「ミッション:インポッシブル」みたいにピーンと手足を突っ張っていました。今でも、そのときの力み具合、胴体の太さや重さなどの感触が手に残っています。もう10年も前のことなのに。
そうなのです。この本の良さは、そこなのです。
犬種とは関係なく、自分が可愛がっていた、あるいは現在も可愛がっている犬を通じて共感できるところなのです。うちの子もこんな仕草をするなぁとか、こんな表情をするなぁとか。
これがもし写真だったら、○○ちゃんという実在する柴犬の行動として客観的に見てしまうので、「可愛い」と感じて終わりだったと思います。おそらく力んだときの手の感触にまではいたらなかったのではないかと。しかしイラストであることにより、想像したり空想したりする自由な空間が広がる気がするのです。
また、自分では写真として残していなかった(正しくは、撮ってくれる人がいなくて残せなかった)ので、すっかり忘れていたこともイラストのおかげで思い出しました。
実は私、犬の爪切りが大の苦手で、爪の切り口からうっすらと血がにじんでいたこともたびたびです。きっとあの子にとって爪切りは、まさに「この世の終わり」だったことでしょう(笑)。
「あのときは、ごめんごめん」と今は亡き愛犬に心の中で謝りながらも、なぜか可笑しくて。
そんな懐かしい気持ちを思い起こさせてくれるものもあれば、こういう姿は一度も見たことがないなぁという柴犬ならではの発見もありました。それがこちら。
室内犬は散歩のときしかリードを付けないので、こんなふうに寝ころんだ状態でじっとしているところを見たことがありません。でも、想像するだけで笑いがこみ上げてきます。
この本に描かれた107のイラストとそれに合わせた文章に、いちいち「ああ、これわかる」とニタニタしたり、「へぇ、柴犬ってこんななんだぁ」と驚いたりする時間のなんと平和なことか。
この本を見てからというもの、お散歩中の柴犬を見つける度に「これ柴犬ですか?」と思わず声をかけそうになります。どう見ても、ピンと立った三角形の耳、クルクルと丸まった尻尾、利発そうな顔立ちからして間違いなく柴犬なのに。
柴犬を飼っている方はもちろん、飼いたいけれど飼えない方も、のんびりと寝っころがりながら眺めたくなる本だと思います。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp