揚げ物とお弁当作りを苦と思わず日常の一部としてできる人を、無条件に尊敬している。女の中の女、母の中の母だと思う。トップ・オブ・ザ・母。
手間、面倒くささよりも家族や自分の「おいしい」「幸せ」を優先できるそれらの女性。
人間が大好き、人間でいることが大好き、愛が強い人なんだと思う。
モデルの亜希さんはまさにそんな女性。
なるほどな、と思った。
元プロ野球選手の清原氏の事件時、正直、奥さんと子どもはつらいだろうなと思った。その当事者が亜希さんだった。
本書で離婚のことが書かれていたので、腫れ物に触るような扱いをするよりは、あえてここでも書いてみる。亜希さんのことをよく知らない、特に男性陣に説明するのに一番早いのがこの方法だからだ。
今まで亜希さんのことを漠然と「モデル」「清原選手の元奥さん」という肩書だけでしか知らなかった方々にこそ本書を読んでいただきたい。こんな素敵な女性のことちゃんと知らないの?と。
今まで、どれだけの心あることばに励まされ、勇気をもらい、また明日頑張ろうという気力をもらったんだろう……。年齢を重ねれば重ねるほど、ことばを慎重に選び、丁寧に相手に伝えたいと思います。ことばの深さ。ことばの重み。ことばのチカラ。ことばって人を動かす魔法なのかもしれない。そんな思いを、この本にギュッと詰め込みました。
笑えない日だってたくさんある。泣きたい日なんて数えきれない。けれどことばに救われることはある。(「はじめに」より)
亜希さんのことばは素朴な口調で書かれているが、大人の色気と強さと優しさが滲み出ている。
困難を乗り越えてきた母としてのことば。トップモデルの仕事人としてのことば。料理が大好き、生きるのが大好きな女性としてのことば。
どれも温かく、読む人を柔らかく包み込んでくれる。
さあ、「亜希のことば」の世界へようこそ!
■ファッションのはなし
ファッションは、ことばがなくても “今の自分”を表現できる最大の武器。「人が着ているから」「流行だから」にとらわれず、“今の自分”の気分にしっくりくるものを選ぶのが正解だと思います。
という亜希さんの最近の「週末の制服」が「女の要素ゼロアイテム」だという。
「女の要素ゼロアイテムが週末の制服。」
息子たちとの生活のおかげで、新しい世界が広がりました。カジュアルが楽しいし、メンズブランドにも興味津々。フェミニンであることを意識していた20代の頃とは、もうすっかり真逆のクローゼットが完成。
むしろ、パーカーを主役にできるなんて……! この着こなしは、「単なるパーカー」にならないように繊細な女性目線で素材やシルエットを考えて選んでいるからこそだと思う。一周回ってものすごく女性らしい!
でも、
「ワンピースには「好き」がいっぱい詰まっている。」
息子ができてから週末は基本、パーカー、スニーカー、キャップになった私でも、ワンピースは昔から大好き。そこだけはずっと変わらない。
本当にかわいい女性だと思う。
■子育てのはなし
2011年5月、第4回ベストマザー賞を受賞している亜希さん。
この、息子さん2人を抱く写真が大好きだ。いつもこんな風に愛しているんだな、そして息子さんたちもこの素敵な笑顔のお母さんが大好きなんだな、というのが伝わってくる。
「85点って、100点じゃない?」
頑張りをけなさないってすごく大切だと思うんです。親が全面的に味方で、すべてを受け止めているということを、これでもかっていうくらいに子どもたちには伝えたい。それには、ポジティブすぎるくらいでいいと思う。
「子どもに、人として尊敬される親でありたい。」
「お母さん」としてだけでなく「人として」かっこいい姿を見せていきたい。それは、自分にしか見せることのできない背中だから。
子どもの自己肯定感を育み、いつも味方でいてくれ、心の基地でいてくれる亜希お母さん。
それでいて仕事をするかっこいい姿も見せちゃう。
完璧じゃないですか。
さらに「子育てのはなし」の章の最後に載っていた以下のエピソードには思わず涙がこぼれた。
2年前の2月上旬、まだまだ寒さが厳しかった日の朝、長男は何事もなかったかのように、駅に向かって歩き出しました。
元夫の事件後初登校のその日……。私はいつも通り学校へ行く彼の背中を見送りました。
(略)
親の背中を見て子は育つ、とはよく聞きますが、子どもの背中にこんなにも教わることがあるなんて。13歳はまだまだ子どもだと思っていたけれど、年齢は関係ない。一度も振り返らずにまっすぐ進んでいく彼の姿にすべての答えがありました。その瞬間、私の大切なものがより明確になり、すべてを背負っていく覚悟ができました。
母は強し。
そしてそんな母の、子もまた強し。
子育ての何たるかが、ここに詰まっている気がする。
■台所のはなし
亜希さんは女性誌で料理の連載を持ったり、公式ブログやインスタでお弁当写真をアップしたりと、その料理の腕とセンスにファンも多い。
冒頭で書いた、揚げ物を作るのが大好きな女性。
「冷蔵庫の中が豊かだと、心も豊か。」
冷凍庫の中には、豚肉、えび、牡蠣……フライにしたい食材に衣までつけて、あとは「揚げるだけ」の状態にして作り置き。これがびっしり詰まっている状態を眺めるのが、なんとも幸せなんです(笑)。
……心から尊敬します!!
本書にはそんな「おいしい」もプロ級の亜希さんのレシピが36品も掲載されています。
こちらは得意の揚げ物メニュー。
そして食べ盛りの息子さんたちのお弁当が、これまたおいしそう&ボリューミーなこと!
作り置きだってなんのその! わざわざ買い足さなくても冷蔵庫にあるものでちゃちゃっと作ってしまう。
■晴れの日も、そうじゃない日も、食欲と笑いがありますように。
「体と心のはなし」、「私の幸福論」と章は続き、本書は山場を迎える。
ここに亜希さんの今までの人生が詰まっている。
「小さな幸せでいい。日々、食欲と笑いがありますように。」
今、心が満たされることといったら、何かを買ったり、お金をかけることではない。食欲があって、毎日ご飯が美味しく食べられる……。小さなことだけれど、私の場合、それが究極の幸せです。
もうひとつ、絶対に必要なのは笑い。私は昔から、ちょっとしたことにも笑いを見つけたいタイプ。とくに、くだらないことで腹を抱えて笑えるのが最高!(略)
笑いがあるだけで、下を向いていた顔がちょっとだけ上がる。笑いの力って、本当にすごい!
笑ったもん勝ち。
食べたもん勝ち(食べ過ぎ注意)。
晴れの日も、そうじゃない日も、食欲と笑いがありますように。
50歳目前という亜希さん。(見えない!)
幼少期にご両親の離婚、母子家庭での生活、15歳で福井から単身上京、ご両親の死、離婚……。あのくしゃくしゃっと笑う、少女のようなキュートな笑顔の奥に、どれだけの涙があっただろう。
つらすぎて食べられない日々、笑顔なんて程遠い日々もあったはずだ。だからこそ、食欲と笑いというささやかに見えるものが、かけがえのない幸せに感じられるのだろう。でなければこれらのありがたみはわからない。
数えきれないほどの荒波、つらいことを乗り越えて、絞り出されたことばの重み。ことばのチカラ。
すべての人たちに、亜希さんからのエールです。受け取ってください。
レビュアー
一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。