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2018.07.20

レビュー

時代に合わなくなってきた!?結婚という制度を見つめ直す。『夫婦という他人』

よく書店のランキングで『極上の孤独』や『家族という病』というタイトルの本をみます。同じ著者の新刊が出たのかなと眺めていたら、やっぱりそうでした。タイトルを見てとても読みたくなり、本を手に取りました。「夫婦という他人」。なんと今の世に合っている言葉だろうと思いました。短い言葉の中に時代を感じます。

■自由に生きるために、経済的・精神的に自立した結婚

本書は、下重さんの思う夫婦のあり方とご自身の夫婦観を、歯に衣着せぬ言葉で語ります。下重さんの結婚観は一貫しています。「男女共、自由に生きるために、経済的・精神的に自立する」。これは私もたいへん共感ができました。

戦後を生き、まだまだ世の中が女性に対して厳しかった時代、アナウンサーとして男性と同じくらい働きたいと願ってもなかなか叶(かな)わなかった。それでも諦めずに努力し続けることで、世の中が変わっていった。諦めないためには、強くなるしかなかったのだろうと感じます。彼女の強さは、自立するとかひとりで生きるとかに結びついていったのでしょう。

経済的・精神的自立をした人間が、家の中にふたりいる。彼女が人生をかけて証明しているのは、そんなメッセージなのかなと受け取りました。彼女の選んだ人生だからこそ持てた「下重的結婚観」。こんな生き方も良いよねという多様性の提案のひとつなのだと思います。この本はその提案を小さなお話に分けて伝えようとしているのかもしれません。

たとえば、「捨てたい夫」の章では、

自立心こそ強かったが、他人を思いやる余裕がなかった。結婚に夢など描いたことはないが、共に暮らす相手ができて良かったと思うのは、寛容になったことである。最初から違う人だと認識することで、思いがけない出来事に遭(あ)ってもあまり驚かない。違う人、違う個なのだからと考えることで、自分のやり方とは違っても認める気になる。

とある。

下重さんほど強く賢い人でも、苦手なことやできないことはあり、そのひとつに「他人を思いやる余裕がなかった」と。結婚とは自分以外の他人と共同生活することであり、自分以外の「個」を受け入れ認めることを楽しむものなのかもしれない。本のタイトルにもある「夫婦という他人」とはまさに、価値観の違う人生を生きてきた「個」と「個」が出会い、同化させ過ぎず、他人というほどほどの距離感を保ちながら、お互いを尊重し合い、違いを楽しんで暮らしていくことではと話す。

■他人同士、知らないことを発見する楽しみ

実際に何十年も、下重さんは自立しながら夫と共同生活をしている。彼女なりの愛は、好奇心という形だったのかも知れない。お互いの知らないことを発見し合っていく好奇心が下重さんの結婚であり、役割に縛られない広義での結婚もあるのではと提案しているように見える。

もう一つ共に暮らすことで気がついた。
自由に自己表現をして生きることが私のモットーだが、それは、一人より二人で試される と知った。
一人なら自立するのは当然だしやむを得ない。
二人の場合、相手にいかに頼らず、自立できるかが試される。

他人同士の共同生活だからこそ、楽をせずに常に自分を律することが大切だと、さらに下重さんは続ける。これはかなり深いところへ踏み込んだ考えだなと感じる。人は楽をしたくなる生き物。ふたりだからこそ、より自分らしく自分を保つ努力をしよう、と。「自立を守る」という表現に、成熟した関係として、こんな生き方もあるのかもしれないと思わせてくれます。それが正しいのかどうかではなく、そういう選択肢も生き方にあってもいい、きっとそういう彼女なりのメッセージなのだと受け取れました。

■共感するパーツを取り入れながら、人生と向き合う

時代や世界は大きく変わってきた。情報社会になり、インターネットやSNSの広がりで、選択肢は少しずつ増えている。今までの価値観が、新しい多様性と出会い、たくさんの種類の生き方を生み出す。他人に迷惑をかけたり、傷つけたりしないのであれば、きっとどれも正しい。そして、どれも悪くない。

下重さんの生き方もひとつの選択肢の答えであり、彼女の持つ結婚観を表現する自由な言葉の中から「ここは好きだな」と思うところは学びになります。

結婚という制度は時代に合わなくなってきた部分もあれば、それによって守られているものもある。立場の違う色々な人たちがお互いに尊重し合いながら、どう変化していけばいいかをもっともっと話し合ったほうがよいものなのでしょう。そういう意味で、時代に流されず自立して生きてきた女性の言葉として、下重さんの意見はとても興味深いものでした。

私もいつか「夫婦という他人」のような人生を表すキャッチコピーを見つけたいなぁと思いました。その日まで、夫との他人共同生活を楽しみたい。そんな他人と共に生きる人生を感じる本でした。

レビュアー

兎村彩野 イメージ
兎村彩野

AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。

https://twitter.com/to2kaku

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