少し前に、東名高速で追い越し車線に止まった車にトラックが追突し夫婦が亡くなってしまった事件が大きなニュースとなりました。
事故の原因を引き起こしたとして、トラブルになった男性が逮捕されましたが、この手の運転トラブルに巻き込まれることは決して他人事ではありません。この本では“ロード・レイジ”と呼ばれる、運転にまつわるトラブルの起きる心理についても書かれています。
──二〇一五年五月には、茨城県で原付バイクに抜かれたとして、四十六歳の男性が車をバイクにつっこませて、後に殺人未遂容疑で逮捕されています。──
──二〇一六年七月には、神奈川県の二〇歳の男性が、バイクが自分を追い抜いた際ににらみつけられたと思ったという理由で、そのバイクに車をぶつけ高校三年生の男子を殺してしまいました。──
筆者が指摘しているのは、自分が怒っていることにすら気付かずに乱暴な振る舞いをしてしまう人が多いのかもしれないということです。後から冷静になれば「なんであんなことをしてしまったんだろう……」と思うような行動も、カッとなっていると抑制できないことがあります。
“怒り”というのは誰もが持つ感情ですが、「私は怒りのコントロールが得意だ」「ほとんど怒らない」という人に出会う機会は少ないのではないでしょうか。
自分が何に怒りを感じ、どうしたら抑えられるのか? 他人を怒らせてしまったとき、どうやったら適切に相手の怒りを鎮められるのか?
それをはっきり理解しているのとしないと、トラブルに遭遇する、あるいは自分が引き起こしてしまう確率がぐっと上がってしまうかもしれないのです。
ここに、自分が他人を怒らせやすいかどうか分かるひとつの質問があります。
電車が遅れて待ち合わせに遅れてしまったとき、あなたはどちらの言い方をしていますか?
──「電車が遅れていました。申し訳ありません」──
──「遅れて申し訳ありません。電車が遅れていました」──
“電車が遅れたのは自分のせいではない、自分は間に合うように家を出たのに、電車が遅れたから悪いんだ”という気持ちがあると、どうしてもそのことが口から出てしまうかもしれませんね。
ですが、ここでふだん前者を選んでいるという方は要注意! というのは、言われた側がどう感じるかという視点がそこには抜け落ちてしまっているからです。
──前者は、受け取り方によっては電車の遅延のせいで遅れたという「弁解」に聞こえます。それに対して、後者は、まずは遅れたことを謝罪し(不適切な行為の認識)、そして電車の遅延という事情の説明(説明)をしています。つまい前者は悪い謝罪の要素(弁解)を一つ含んでおり、後者は良い謝罪の要素を二つ含んでいるのです──
大事なのは相手の感じ方。正しいか、正しくないかではなく相手の立場にたった視点と“良い謝罪の要素”を多く盛り込むことが相手を鎮めるためには有効だそうです。謝罪が相手のためのものではなく“自分が攻撃されないためのもの”になってしまうと相手は不快感を残したままになってしまいます。
例えば、いつも遅刻をする彼氏に怒る彼女がいたとします。そのことに対しての彼女の不満と不安は「私のことを適当に考えてるから平気で遅刻するんじゃないか」「私のことを本当に好きで大事にしていたら遅刻しないのではないか」というものです。
そこで彼が
「昨日接待で遅くなっちゃってさ(弁解)。仕事だから仕方ないだろ(開き直り)」
という言い方をしてしまったらどうでしょうか? 恐らく彼女の怒りは収まらないはずです。いっぽう、彼女目線でのパーフェクトな回答をするならば、以下のようなものになるでしょう。
「ごめん(謝罪)、俺が寝坊したせいで貴重なデートの時間が短くなっちゃって反省してる(謝罪&愛情の確認)次からはアラームを三個かけてから寝るから(改善策の提案)」
彼女の怒りは、彼の遅刻そのものよりも「愛されていないのかもしれない」という不安な気持ちからくるものでした。結局のところ人は「自分が大事にされていない」「私をもっとちゃんと大事に扱って欲しい」と感じたときに相手に対して不満を感じることが多いのです。
日本には「土下座」という文化がありますが、実際には土下座という行為そのものでは何も解決していません。ただ“自分のためにそこまでしてくれるのか”と思った相手の心が動くことで、許しても良い気持ちにつながるのでしょう。
女性の気持ちを汲み取って「あなたは大事な存在である」ということを言葉や態度で示せる男性、不安を解消させられることができる男性は恋愛に限らず仕事で女性の部下を持っても上手く指導していけるはずです。
周囲から「イライラしてるね」「怒りっぽいよね」と言われたことのある人や、他人の気持ちがよく分からなくてコミュニケーションに困った経験のある人には必読の1冊かもしれません。
この本からは科学の知見に基づいた“怒りを速やかに抑える”ためのアドバイスを得ることもできます。
“家族の写真を視界に入るところに貼っておく” “上を向く” “何か食べる”などの簡単で具体的な怒りを鎮める方法もたくさん書かれているので、気になった方はぜひ読んでみてください。
レビュアー
20代のころは探偵業と飲食業に従事し、男女問題を見続けてきました。現在は女性向け媒体を中心に恋愛コラム、男性向け媒体では車のコラム、ワインの話などを書いています。ソムリエ資格持ちでお酒全般大好きなのですが、花粉症に備えて減酒&白砂糖抜き生活実践中。