「中国はすごい。日本はもう中国より貧しい国になってしまった」
「支払いは全部スマホ決済化してて、未だにクレジットカードすら使えない店の多い日本は時代遅れ」
中国に出張や旅行に行って帰ってきた人の口から、こんな驚きを聞くことが増えてきました。
社会主義であり、GoogleやFacebookが使えず閉鎖的なイメージがある中国ですが、果たして「日本のほうが遅れている」は本当なのでしょうか。統計をもとに「今のリアルな中国」を読み解いていくのが本書です。
■中国を襲う少子高齢社会
13億9216万2603人。これは2018年5月26日時点の中国の推定人口です。一方で、2018年1月時点の日本の総人口は1億2659万人。約11倍もの差があります。
莫大な人口を誇る中国ですが、日本に遅れること約30年。高齢化社会の問題が押し寄せてきています。2018年に「人口減少時代」が始まりました。1982年から国策として進められていた「一人っ子施策」の影響で、現在30代から下の中国人は基本的に一人っ子世代となり、本来増えるはずだった4億もの人口が減ったとされています。そして少子高齢化が大幅に進み、2049年には還暦以上の老人が5億人にもなると予想されているのです。2050年には80歳以上の人口が1億2143万人にものぼると予想されています。
この政策は2015年に廃止され、「二人っ子政策」が導入されたのですが、決して順調に新生児の出生数の増加にはつながっていません。
その原因として
1.子育てコストの上昇。
2.公共サービスの欠如。
3.出産観念の変化。
が挙げられています。これは、今の日本ともかなり通じる部分があるのではないでしょうか。ただ、日本とは大きく異なるのが物価の上昇です。
中国というと物価が安いイメージがあるかもしれませんが、北京の場合ではマクドナルドや吉野家、スターバックスの価格は2015年前後にすでに日本より高くなっているそうです。
さらに家賃も上昇し続け、給料が生活費で消えていくような状況では、1人目の子供を産むことすら躊躇してもおかしくありません。
■ 日本より深刻な「婚活」事情
また、一人っ子施策の弊害は、出産の前に「結婚相手がそもそも見つからない」という深刻な問題も引き起こしました。
「一人っ子政策」が中国社会で定着するにつれて、「どうせ一人しか生めないなら、男の子を生もう」という夫婦が急増した。とくに、働き手や跡取りを求める農村部において、この傾向が顕著になっていった。
その結果、女性100人にたいして男性が118人という男女比の歪みが生じるようになってしまったのです。2020年には結婚適齢期とされる20歳から45歳までの人口のうち、男性の数が女性より3000万人も多くなってしまうので多くの男性が結婚にあぶれてしまうと予想されています。
さらに、中国では「マイホームを買える男性」がモテの条件。日本のように結婚した後で夫婦2人でローンを組んで家を買う……のではなく、結婚前にすでにマンションを買える資金を持っていることが女性から求められる社会なのです。
ところが、北京や上海の都心部ではマンションの1㎡あたりの価格が10万元(170万円)という物件も出てきているそうです。
参考までに東京の場合、2017年時点で山手線沿線から徒歩15分以内の1㎡あたりの相場が60万円~100万円前後。しかも中国の場合は共有部分も含めての面積表示なので、実際の居住面積は表示の7割程度の広さしかないのだとか。
ここで疑問がわいたのは、中国人の所得はそれほど高くなっているのか?ということです。それほどの価格帯のマンションを全員が気軽に買えるほど中国は裕福になっているのでしょうか。
一方、北京や上海で大卒の初任給は6000元程度。すなわち10万円にすぎない。つまり、給料を100パーセント、マンションの購入に当てたとしても、100年近くもかかるのである。これではマンションなど買えるはずもない。そのため結婚適齢期になっても、マンションが買えずに結婚できない男性が、続出しているのである。そこに女性に比べて3000人超過というハンディキャップが加わる。まさに、泣きっ面に蜂だ。そんな彼らは「剰男」(余った男)と呼ばれている。
著者は、本書のなかでこの男性余剰社会をこう予想します。
1.中国人と結婚できない男性は、中国よりももっと貧しい国の女性と結婚するケースが増える。
2.同性愛が増える。
3.「空巣青年」が増加する。
もともと他民族国家である中国には国境にたいしてのカベが低いという背景もあり、ベトナムやモンゴル人女性と結婚するケースはすでに出はじめているようです。
さらに、今後増えると予想されるのがアフリカ人女性との結婚。アフリカ大陸にすでに中国人が100万人も居住しており、1000人民元(約1万7000円)の財産があれば結婚資金として足りるので「マンションと車がないとダメ」という中国人女性に比べるとずいぶんハードルが低くなるのだとか。
そうなると、今後はアフリカ人男性があぶれるようになっていくという新たな問題が生じそうですが……。
また、著者は以前より同性愛カップルを見かける機会が格段に増えた経験から「同性愛大国になるのでは」と予想していますが、これは同性愛が増加するというよりも「堂々と同性愛を主張できる文化になってきた」ということかもしれません。日本も同じですね。
続いて「空巣青年」は、中国で流行語になっている言葉だそうです。親元を離れ、人と関わらず一人暮らしでスマホばかりいじっている青年のことを指すのだとか。
そして、「空巣青年」が「空巣老人」になったとき──。
30年後の中国では、インドに人口を追い抜かれているのか? アメリカを抜いて世界一裕福な国になっているのか? その答えはまだ誰にも分かりませんが、統計によって予想を手助けしてくれるヒントが詰まっていました。「中国の今、そしてこれから」が気になったら、必読の1冊です。
レビュアー
20代のころは探偵業と飲食業に従事し、男女問題を見続けてきました。現在は女性向け媒体を中心に恋愛コラム、男性向け媒体では車のコラム、ワインの話などを書いています。ソムリエ資格持ちでお酒全般大好きなのですが、花粉症に備えて減酒&白砂糖抜き生活実践中。