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2018.02.09

レビュー

〈2017下期新書1位〉『未来の年表』の数字を見て、将来の話をしています。

子どもの頃、学校で「地球の人間は増え続けている」と習った。

当時は1990年代、地球の人口は60億人にもうすぐ到達すると教科書に書いてあり、日本の人口は1億2000万人だったと記憶している。もう少し身近な数字でいうと、私の住んでいた北海道の小さな街の人口は20万人ほどだった。毎年届く自治体からの人口推移の便りを見ながら「人が増える」という漠然としたニュースになぜかワクワクした。人が増えればお店も増えるかもしれない。お店が増えたら遊びに行きたい場所ができる。そんなとても単純な発想だった。

そんな私も大人になり、アラフォーと呼ばれる年齢になった。もうすぐ40代が始まる。ここ最近、気になるニュースといえば「超高齢化社会」と「人口減少」。まず驚いているのは子どもの頃に習ったことが、ひっくり返って「人口が減る」という事実になっていること。そして、「高齢化社会」という言葉に、ついに「超」がついた。


■「高齢化」社会が実感に変わってきた

現在、私は東京に近い神奈川県に住んでいます。そんな私でも、なんとなく最近、暮らしの風景にお年寄りが増えたなぁと、主観ですが感じるようになりました。とくに平日の日中、都内や家の近くを走るバスに乗ると感じます。

ニュースで聞いたり見たりするのは大きな数字なので、どうしてもイメージが掴みにくいこともあります。ただ、主観的であったとしても、なんとなく感じるものは、物事の変化のはじまり部分なのだろうと思っています。「高齢化」部分がいよいよ本当に身近になってきたのかもしれないと、実感に変わってきました。

正直に言えば、自分の周りには同年代の友人や知り合いがどうしても多く、実家は遠い北海道のため、季節ごとの帰省と東京での暮らしは、まったく別ものととらえています。普段の暮らしの中では、どうしても「高齢化」という感覚が遠く感じます。私が若い頃でもすでに「高齢化が問題」と言われていて、そこから20年も経つのですから、本当はすでに問題の真ん中にいるはずだろうと、ぼんやり思っていました。

そんなとき、この数字をバラバラのニュースではなく、もう少しまとまった本で読みたいと出会ったのが河合雅司さんの著書『未来の年表』です。幾度かラジオCMで流れてきていた本でした。男性の低く、渋い声で読み上げられるこのセンセーショナルな言葉が耳に残り、本屋で表紙を見たときに「あ! これか!」と立ち止まってしまいました。

「2020年女性の半数が50歳超え。2024年全国民の3人に1人が65歳以上……」

■20◯◯年、自分と家族は何歳? そのとき社会はどうなっている?

この本の中身を的確に表現しているのは表紙です。
「2020年女性の半数が50歳超え」
「2042年全国民の3人に1人が65歳以上」
「2027年輸血用血液が不足」
「2033年3戸に1戸が空き家に」
「2039年火葬場が不足」
「2040年自治体の半数が消滅」
「2042年高齢者人口がピークを迎える」

もちろんすべてを鵜呑みにするわけではありませんが、この数字と年代をあわせて見ると、自分や家族がそのとき何歳なのかがわかります。簡単にイメージできるくらい、近距離にある未来なので、言いようのない不安がすーっとやって来ました。

誤解がないように言うと、この本は私たちの不安を煽(あお)るために書かれた本ではありません。これからやってくる未来が怖いと感じないように書かれています。表紙はパワーワードが並びますが、中身は淡々と進みます。1つの節も長くないので、少しずつ読み進めることもでき、数字とその出所、そこから紐解かれる現状が続きます。

大きく2つに分かれた構成の本で、第1章は現状と未来の人口減少の予測。第2章は著者によるその解決策案。解決策案は参考までにという感じですが、前半の人口減少予測と高齢化社会への変化はたいへんわかりやすいです。出典の数字も明記されているので、インターネットで検索すれば、周辺にある資料も確認しやすいです。

大切なのは誰かの解決策に頼るのではなく、第1章を読み、一人ひとりがまず問題を知り、周りの人と議論し、自分たちの将来を周りの人たちと話していくことなのかなと気づきます。大変わかりやすい未来年表になって記事が続くので、今から未来へ問題提起が進みます(本が2017年発売なのですでに1年分は過去になっています)。


■数字が大きすぎてイメージできないときの、シンプルな考え方

数字というものは、想像を助けてくれる大きな力を持ちます。ただ、数字が大きすぎて想像しにくいとき、私は、学生時代の教室のサイズにスケールを一度小さくして捉えるようにしています。たとえば、3人に1人が65歳以上の超・高齢化大国になっているとされる2024年をイメージするとき、教室にいた40名の同じ制服を着た友人たちを基準にします。

40名のイメージの中で3人に1人は違う色の服を着せます。13人が、たとえば黄色いTシャツを着ていたら。それはかなり教室が明るい黄色になるように感じます。13人がTシャツの教室は、Tシャツの人が珍しいという感じではなく結構いるなぁと感じてきます。

こんな感じで大きな数字を脳内の教室に置き換えていくことで、問題がわかりやすくなり、教室であればなんとなく「こんな感じと友だちいたなぁ」とひとりずつの雰囲気を掴みやすくなるので個人的には気に入っている考え方です。

この黄色いTシャツを着た人のいる教室の風景が「2042年全国民の3人に1人が65歳以上」だと仮定すると想像しやすいという感じです(端数が表現できないため、人数はおおよそにしています)。


■おひとり様の増加は「家族の概念」を変える

本の中に出てくるどの数字も興味深いのですが、自分の身近にある問題でとくに気になったのは「2022年ひとり暮らし社会が本格化する」の節でした。高齢者であれば既婚率は高くても夫が先立つ方が多く、女性のひとり暮らしが増える。そのひとり暮らしの女性は子ども世代と同居をしない人が昔より増えた。若い世代は結婚をしない、もしくは離婚をする人が増えひとり暮らしとなる。「子どもと同居しない高齢者の増大」「未婚者の増大」「離婚の増加」この3つの要因により、この国は現在「おひとり様」をどんどん増やしているという。「おひとり様」が増え続けるということは、大きく言うと「家族の消滅の危機」であると本の見出しになっていました。

ふと子どものときの記憶に戻ります。学校では当たり前のように「大人になったら結婚をして子どもを育てます」のように習いました。なんの疑いもなく「そんなもんなんだ」とその価値観を受け入れていました。2018年に生きる私からすると、たった20年ほどでずいぶん価値観は変わったなぁとも思いますし、子どもの頃に習った漠然とした「家族」という価値観が大人になるにつれて、少し窮屈になっていたのも本音です。

私は20代で結婚と離婚を経験しました。この国の結婚制度を経験してみて感じたのは、ほとんどのルールが「個人」ではなく「家族」をベースに作られていることでした。数年前、新しい人生のパートナーに出会えたとき、お互いに自立している同士だったので「結婚」という関係をどう捉えたらよいか検討してみました。共に暮らしていくのにあたり、非婚でいると公的書類や契約などに不便が多く、結論としては、この国でうまくパートナーとして暮らしていこうとすると、国が定める「結婚」という制度を取り入れる方が楽だと納得して再婚しました。

この経験があるため「家族の消滅の危機」を読んでいると、結婚しているかどうかよりも、個人として生きやすい社会に変化させていかないと、高齢化や人口減少問題の前に「人間らしく生きることの息苦しさ」が多いように思いました。ある一定のルールに沿ったあり方のみが「家族」と認められ、それ以外のあり方は家族ではないと区切られるのではなく、いろいろな生き方で良いとなれば、新しい家族のカタチも増え、「家族消滅」とはならないかもしれません。家族というものの価値観を社会全体で大きく広げ、「人と人のつながり」としてもよいのではと感じました。ひとりが悪いのではなく、ひとり同士で支え合えない仕組みが時代に合わなくなったのかなと思います。

■既存のルールでは収まりきらないことが増えた

世界は、固定したカタチでは整えることができないところまできていて、誰かが作った「これでいい」のルールでは収まらない部分があまりにも増えたのではと感じています。高齢化や人口減少が叫ばれる中、実はその問題のもう少し手前に、目には見えにくいこの息苦しさや応用しにくいルールが関係しているようにも思います。この節は、2035年「未婚大国が誕生する」へ続きます。合わせて読むと「他人とつながりを持ちたいが、どうしていいかわからない」と、ルールが当てはまらなくなった人たちが困っているのではないか、と感じました。

別の節だと自分の両親と自分年齢から想像しやすい話として、2024年3人に1人が65歳以上の「超・高齢化大国」へ。があります。2024年といえば、今日の2018年からみると、オリンピックが終わった少し先にある未来です。「十年一昔」という言葉があるくらいですから、ひとつの歴史の中に収まってしまう範囲の未来です。

2024年には戦後のベビーブームの団塊の世代が全員75歳以上になり、3677万人が高齢者
になるらしい。3人に1人が高齢者の国になる。少子高齢化は全国で平均的に進むのではなく、地方都市で早く進み、最終的に東京の首都圏も進み始める。

この節で語られているのは、高齢者が増えることで起きる「新しい高齢者の社会問題」と「介護の問題」です。少し私の話が続きますが、今、母が祖母を介護しています。母と電話で実家での介護の様子を聞き、ときどき帰省して祖母のお見舞いに行くのが私の現状です。母が祖母のためにする入院や通院の用意、日々の細々した用事、どう病気と向き合っていくかなど、介護経験皆無な私にとってはひとつひとつの会話が学びとなっており、これから私が人生のどこかのタイミングで始まることなのだと想像と覚悟をするきっかけになっています。

病院ではどんなことができるのか、どんな行政の制度やサービスがあるのか、どんな保険が使えるのか。母から聞く具体的な話や、自分の足で訪れる施設や病院で知ることは、ひとつずつ私の中で知識として記録されてきています。

制度や必要な知識もそうですが、こうして「こういう未来が待っているんだ」と心を作っていくというのも大切な作業なのだなと理解し始めました。自分の両親と夫の両親。4人の親を働きながら支える方法。親たちがこの先どう生きていきたいか尊重するために、今からしっかりコミュニケーションをとり、相手の話に耳を傾ける。そのために。まずは現実でこれから起きるであろう社会問題を知っておくことや自分なりに考えて予想することはとても大切なことなのだと、この本を読んでいて感じます。


■「向き合うこと」が、自分が安心できる未来をつくる

大きな問題は、身近なものと社会全体のものと両方で捉えていくと想像しやすくなります。身近な暮らしの延長線上に社会があります。社会の一部分が、今の自分でもあります。その境界線は曖昧ではありますが、社会の問題を大きな括りで知っておくことで、自分の環境が変化するときに、驚いたり困ったりしにくくなります。「知らないこと」が、将来、生き方を模索するときのリスクになるのではと感じています。

数字を起点にした著者が導き出した約30年分の想定を、色眼鏡を外して一度まずは読んでみる。そこから気になることや興味があるもの、身近なテーマを掘り下げて調べてみる。詳しい友人に聞いてみる。家族でたまに話し合ってみる。この繰り返しで、大きな問題と身近な暮らしはつながっていき、想定しやすい未来が生まれます。未来は曖昧で答えがないものですが、やってくるということだけは事実なので、毎日知識を少しずつ増やして、小さく準備することが安心につながるのかもしれません。

この本を読んで、私は、夫と10年後や20年後の話を、より具体的にするようになりました。未来へのコミュニケーションのきっかけは、この本でした。

レビュアー

兎村彩野 イメージ
兎村彩野

AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。

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