今や人口の4人に1人が65歳以上という超高齢化社会。さらに高齢者の3人に1人が認知症とその予備軍という時代も目前。あなたの老後の日々の生活は幸せだと確信できますか?
くわえてすべての生活保護受給世帯のうち高齢者世帯は79万世帯以上になっています。
これは生活保護受給世帯の約半数です。生活保護を受けずにぎりぎりの生活で凌いでいる人もかなりいると思いますので、老後貧困世帯は数えきれないほどでしょう。
これが今の日本の実態です。この危機(!)に対して、年間1000件以上の相談案件を司法書士として引き受けてきた筆者が教える対策法をまとめたのがこの本です。
この現実に対して一億総活躍社会とか働き方改革などがどれほど有効なものなのでしょうか。超高齢化社会では働くことが不可能な認知症患者は急増するでしょう。なにより自助努力や働く意欲などという言葉が届かない人々が多いということから始めなければなりません。気をつけないと、一億総活躍社会とか働き方改革というものが、逆に言えば“(不可抗力で)働けない人”を経済活動ができない人として無視すること(存在しないもの=価値のないものとして)とみなしていることになりかねません。格差どころか排除になりかねません。
このような誤っている“経済活動至上主義”ともいえる考えをただすことは重要です。ですがそれだけでは目の前の危険から身を守ることはできません。なにしろ「認知症の高齢者は必ず狙われる」といっても過言ではない日本です。今すぐできることで、高齢者(予備軍も含めて)を守ってくれるのは何か、現在の制度の中で活用すべきものはどのようなものがあるのかを知るのはきわめて重要になっています。それらの制度をわかりやすく、詳細に教えてくれるのがこの本です。
ところで、認知症、高齢者に迫る危険にはどのようなものがあるでしょうか。
・高齢者向け商品の購買者リストがある:悪用の危険。強引なセールス。軽度の認知症から進行する過程の人を聞きつけてくる。
・振り込め詐欺:登場人物の多い劇場型になって正体がつかみにくくなっている。
・金融資産として価値があるとして危険な株を買わせる:虚偽の収支報告をされる。
・不動産投資:価値のない物件を勧めたり、相場よりかなり高い価格で買わせる業者がいる。
・結婚、養子縁組:財産目当て。「本人の意思」とされ犯罪に問われることはない。引っかかったら取られ損になる。
これらの危険への対処法が本書の中で一覧になっています。とても実用的なもので、これらを知るだけでもこの本を読む価値があると思います。
私たちの生活は法律によって守られています。高齢者もまた法律で守られているように思います。法律には売買や賃貸借など「お金や不動産にまつわる行為は財産管理に関する法律行為。入院や施設の入所契約、介護契約などは身上監護に関する法律行為」などがあります。
けれど、高齢化社会、認知症で忘れてはならないことは、「自分のことは自分で守れない」ということです。判断能力自体が衰えてくるので、いくら自分の力だけで周りに迷惑をかけないようにしようと思っていても、それらができなくなってしまいます、しかも本人の自覚がなく。
このような事態になったときに役立つ制度があります。成年後見制度です。
この制度は判断力の有無によっていくつかに分かれています。
・判断力がある:任意後見制度。
・判断力に衰えがみられる:法廷後見制度。これには判断力の衰えに準じて補助型、補佐型、後見型の3つにわかれています。
・補助型:判断力に少しおとろえ。補助人。
・補佐型:判断力にかなり衰えがある。間違った契約をする恐れがある。補佐人。
・後見型:判断力が著しく減退。契約の際には本人の代わりに判断する人が必要。本人が結んだ契約でも、原則いつでも取り消せるようにしておく必要がある。成年後見人。
では、「元気なうちに心がけておきたい」任意後見制度とはどのようなものがあるのでしょうか。「任意後見契約」を基本として結んだ上で4つのオプション契約があります。
1.見守り契約:定期的な安否や心身状態の確認。
2.任意代理契約:部分的な財産管理、介護サービスの手続きなど。希望内容ごとに契約。
3.遺言書作成
4.死後の事務の委任契約
以上のことを組み合わせて「老後の守り支度」を整えようというのが著者の高齢化社会・認知症予備軍への対処法です。
この本では軽い認知症の人のための「日常生活自立支援事業」や、判断力がさらに衰えてきた際の「成年後見制度」も詳細に説明されています。
これらの制度をどのように活用するのか、またどのくらいの費用がかかるのかなど数多くのQ&Aが取り上げられています。高齢化社会、自分を見失う認知症患者が増えるであろう私たちの未来を安全なものにするために読んで欲しい1冊です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。