「どこかに隙があるからダマされる」「うっかりしているからダマされる」というセリフを詐欺や悪徳商法の被害のニュースを聞いて口にする人は多いでしょう。そんな人にこそ読んでほしい1冊です。
この世には、「絶対」はないにもかかわらず、案外、自分は絶対にダマされないと思っている人は多い。たいがい、こうした人は「ダマされない」という思いの上に胡坐(あぐら)をかいてしまっているので、警戒心が薄くなっていることが多く、詐欺を行う側から見れば、たくさんの隙があるのだ。
詐欺を仕掛ける側は相手の隙を見つけるのが上手いだけではありません。相手(被害者)に隙を作らせるのです。どのようなところに隙を作っていくのでしょうか。もっとも多いのはやはり欲につけ込むとこです。そして「詐欺は世間が今、注目している話題に便乗して」やってくる。
たとえば東京オリンピックの開会式チケットを使った詐欺。それはこんな風に仕掛けられました。
1)(実在する大手の旅行会社名で)「東京オリンピックの開会式のチケット予約販売のハガキはとどいていませんか?」という電話がかかる。
2)(別の旅行会社から)東京オリンピック開会式チケット予約販売のハガキが届く。
3)(先の男から電話がかかる)「開会式のチケットを45万円で買い取るので、予約先に問い合わせてもらえませんか?」
4)(ハガキ元に問い合わせると)「チケットは12万5000円になります」といわれる。
最後の電話の相手がグルであるのはいうまでもありません。こうして12万5000円を詐取されることになります。チケットが送られてくることはありません。
この詐欺では大手の実在する会社名を名乗ることで信用させ、ハガキを使うことで別の会社も存在するように思わせたところが注意すべきところです。またオリンピックのように関心の高いチケットには必ずプレミアがつくという考えを利用したところにあります。転売で大きな利益を得られるという欲望につけ込んだ詐欺です。
最近も話題になった「催眠商法」という詐欺の手口も紹介されています。「無料」「激安価格」「半額サービス」「高配当」などといううたい文句で人を誘う手口です。なぜひっかかるのでしょうか。たとえば「無料の場合」はこのような心の動きをにつけ込むそうです。
無料商品をあげることで、相手に負い目を与えることだ。私たちの心には、他人から一方的にモノをもらうと、自然にお返ししたいという気持ちが働く。これを返報性の法則という。
この心の反応が相手の要求を断りづらい状況を作ってしまうのです。これは人間の欲というより、広い意味での相手の好意や善意を利用した手口です。善意ということでいえばオレオレ詐欺も家族への愛情、気づかいにつけ込んだものといえるでしょう。
詐欺は人間の得をしたいというような経済的な欲望につけ込むだけではありません。たとえば「開運・霊感商法」では私たちが感じている不安や不満につけ込んできます。
不安や不満というものは、詐欺や悪質商法をおこなうものにとって、格好の材料となる。ゆえに、彼らは、私たちからこの思いを聴き出そうとする。
とはいってもストレートに「不安や不満がありませんか?」と訊くことはありません。たとえば「あなたの生活の満足度は何店ですか?」という訊き方をします。すると……
1)たいがいの人は、60点とか、70点とか、無難な答えをするでしょう。【ここが狙いです】
2)相手はこう訊いてきます「足りない40点(30点)は何ですか?」と。
3)(自分の答えた内容に責任を感じて)不満な部分(仕事内容や人間関係など)を口にする。
ここまでくれば相手の術中に半歩入ってしまうことになります。ここにも答えた人の欲というよりもある種の「丁寧さ・誠実さを利用して隙を作らせて」います。金銭的な欲望だけが詐欺に引っかかるワケではありません。
この本にはこれら以外にもメールを利用した詐欺、SNS特有ともいえる「出会い系詐欺」「ギャンブル詐欺」等、著者が「体験取材」した多くの例がおさめられています。どれもが身近に起こりそうなことです。そしてまとめられたのが「最新詐欺・悪質商法の傾向」です。
1.ターゲットを絞ってくる:事前の周到なリサーチ。
2.前フリがある:架空の儲け話のDMやパンフを使う。
3.名簿を利用して相手に合わせた詐欺を仕掛ける:オーダーメイド型詐欺。
4.広く浅くではなく、狭く深く切り込む:トコトン詐取。
5.周りに相談できないようにする:トラブルが起きた等の脅しを仕掛ける。
6.警戒心の薄い点を突く。
7.自尊心・プライドにつけ込む:「あなたにしかできないこと」という誘い文句。
8.組織VS.個人の関係に持ち込む:役割を変えて複数の人間が仕掛ける。
9.最初は小さなお願いから始める:ダマされていることに気づかせない。
10.だましのスピード化(高速化):ネットからのアプローチ。事前に情報を得ておく。
11.情報の格差につけこむ。
12.買いたくなるように仕向ける:ダマされているという意識を持たせない。
13.メリットを前面に出して関心を誘い、断れない状況に追い込む。
この本では相手方の反応(会話等)もビビッドに綴られ、詐欺の手法が手に取るようにわかります。そして上記の手法を知れば詐欺にかからない心構えはできます。こう書いてみると「これなら大丈夫」と冷静に思えますが、さて実際に電話がかかってきたらどうでしょうか? ダマされないと思ったときに、もう油断は生じています。注意しましょう!
「世の中が不安に包まれれば包まれるほどに、詐欺・悪質商法は跳梁跋扈する」のですから。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。