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2017.12.24

レビュー

寿命は社会が決めている? 死亡率3倍!の「健康格差」を逆転するには

お金で寿命を買う時代に、私たちができること

「格差社会」という言葉を聞くようになってからどのくらいたつでしょうか。日本の財政状況の悪化とともに、気が滅入りそうなニュースをよく耳にするこの頃ですが、「貧困」というとどんな人たちを想像しますか? 私たちが子どもの頃に抱いていたボロボロの服を着ているようなイメージとは違い、物があふれる現代社会ではひと目見ただけでは貧富の差がわからないようになりました。そんな現代での豊かさの象徴は、「物」から「健康」に。豊かな人ほど健康で長生きをして、貧しい人ほど不健康で早く亡くなる……。清貧という言葉とは真逆の現実に、やりきれない気持ちになります。


36歳で糖尿病と診断された非正規雇用の女性

『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』は、2016年9月19日にNHK総合テレビで放送されたNHKスペシャル「私たちのこれから #健康格差 ~あなたに忍び寄る危機~」の番組内容と、さらに取材した内容を加えたもので、深刻化する健康問題の実態や取り組みについて紹介しています。

まず衝撃的なのが、若くして糖尿病と診断された女性の話。非正規で工場などで働いてきた彼女は、日勤と夜勤を繰り返す不規則な生活で疲れ切り、毎日コンビニ弁当ばかり。定期健診を受ける機会もないままでした。

そんな生活を送り36歳になったある時、ふと首が痛いと感じて訪れた病院でいきなり「糖尿病」と診断されたのです。しかし診断を受けてからもお金と時間の余裕のなさから治療を先送りに。そして数年後、取り返しのつかない状態にまでなってしまったのです……。

同世代であるこの女性のエピソードを読んで、とても他人事とは思えませんでした。自営業のため、私も出産するまで健康診断を受ける機会はほとんどなく、忙しい時期はこの女性とさほど変わらない生活をしていたからです。同じような生活を送る人は少なくないのではないでしょうか。私たちが今健康に過ごせているのは、運が良かっただけなのかもしれません。


健康管理が難しいひとり暮らし高齢者

高齢者の事例も紹介されています。生活保護を受給しながら暮らす71歳の男性のケース。不安定な収入の未婚ひとり暮らし、圧迫骨折して初めて骨粗しょう症になっていたことを知ったといいます。それ以来働くこともできず、骨の痛みを我慢しながら毎日をひとりで過ごす寂しい老後生活となってしまいました。

健康管理をしてくれる家族がいない独居老人は、地域とのつながりも薄く孤立しがち。このようなケースも、私たちの将来に無関係ではありません。子どもたちが独立するなどして、老後ひとり暮らしになる可能性は誰しも抱えているでしょう。


健康格差が国家予算を圧迫する

人が「健康弱者」に陥る主な要因は以下の2点です。
・乱れた食生活
・つながりの希薄さ

ファストフードやコンビニ弁当などの糖質過多な食生活でじわじわと健康が蝕まれ、気遣ってくれる家族や知り合いがいないと定期的な健診に行く機会もない。体に異変や病気が起きたとしても病院を受診せず、ひとりで抱えてしまいがちで、重症になるまで悪化させてしまうケースも珍しくないそうです。

そして、こうした問題は当事者だけのものではありません。介護を社会全体で支えようと始まった介護保険制度ですが、2000年のスタート当初3.6兆円だった費用は、高齢化に伴って今や10兆円にまで膨れ上がっています。平成28年度の国の予算では、医療や年金と合わせた社会保障費はおよそ32兆円と、全体の3分の1近くを占め、国の財政を圧迫しています。

このままでは自己負担率が上がり、最悪の場合保障制度自体が立ち行かなくなる恐れもあるのです。健康格差の問題は、社会全体で取り組む必要があるものなのです。


健康格差は解決できる社会課題だ! 成果を出している自治体の取り組み

止まらない少子高齢化や財政の悪化で八方ふさがり、健康格差は広がり続けるように思えます。これだけでは読んでいて気持ちが暗くなりますが、本書ではアイディア次第で解決に導くことができるという事例が多く紹介されています。

同じように健康格差の問題を抱えるイギリスでは、パンに使われる食塩の量を国民が気づかないようにゆっくりと減らしていったそうです。その結果、2003年からのわずか8年間で、低所得の人ほどかかりやすいとされている心疾患と脳卒中の死亡者数が4割も減少しました。それによりイギリス全体で約2300億円の医療費を節約したといわれています。

食生活の改善だけではありません。愛知県武豊町では高齢者が交流できる「憩いのサロン」を開設し、参加した人たちの要介護認定率が半減したという驚異的な結果をもらたしました。近隣とのつながりを作ることで成果をあげた事例ですね。

ほかにもスクワットすると地下鉄乗車券がもらえるスペインの施策など、世界中のユニークなアイディアに「その手があったか!」と感心してしまいました。


社会課題の解決において、成功するパターンとは?

もちろんこうした健康への取り組みは、全てがうまくいっているわけではありません。2000年代に政府が国をあげて取り組んだ「メタボ対策」は記憶に新しいですが、これは芳しい成果は上げられませんでした。

それはたまたまでしょうか? いえ、違います。対象となる人数や打ち出し方により、成果に差が出てくることがわかってきています。

ポイントのひとつは、現在予防医学の分野で最も高い支持を得ている「ポピュレーション・アプローチ」という考え方。健康状態がいい人を含む大勢(一般集団)を対象にしていく手法です。

また、人のつながりを社会的資源と考える「ソーシャル・キャピタル」の視点を併せ持った取り組みが、今成果を上げているようです。

事例を見ていくと、「無理なく」「楽しく」健康促進、病気予防ができるようなプランとなっています。確かに「病気予防のために食事に気をつけましょう!」とストレートに言われても、心にはあまり響きませんよね。対象者に寄り添い、ついつい参加したくなるような仕組みづくりが大切なのです。

それは具体的にどのようなものか? 気になる方は本書を開いてみてくださいね。行政だけではなく、小さな社会課題に取り組もうとしている個人や団体の方々にも参考になるはずです。

核家族やひとり暮らしが増加する昨今、人と人のつながりや助け合いが希薄になり、安易な「自己責任論」が飛び交っているように思います。それでも社会で生きている私たち自身の「健康」は、決して自分だけの責任でも問題でもありません。きちんと原因を探り、小さなことから社会全体で良くしていくことが大切なのだと感じました。

レビュアー

保手濱歌織 イメージ
保手濱歌織
mazecoze研究所所長。時短研究家、PTA研究家。日々のあれこれをいかに「時短」するかに命を賭けるワーキングマザー。新しいPTAのあり方についても日々リサーチ中。7歳男児&2歳女児&0歳男児を育成しています。

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