1日に3万回以上も行っている人間の呼吸。この呼吸には大きく2つの役目があります。ひとつはもちろん「命を存続させる」もの、もうひとつは「循環させる役割」です。
──本来、体は呼吸に伴って、ふくらむ(吸う)→しぼむ(吐く)という動きをリズミカルに行っています。このリズムに合わせて、呼吸は全身を循環し、血流やリンパ、筋肉、関節、自律神経など、体の機能がきちんと働くように調節しています。言い換えれば、呼吸は生命の源であり、自然治癒力そのものと言えるのです。──
このように人間の生命活動になくてはならない呼吸が、私たちには正しくできていないのではないか、それがこの本の出発点です。
「深呼吸ができない」「呼吸が浅くなる」さらには「呼吸が止まってしまう」という人たちが増えているそうです。たとえば呼吸が浅くというのは「体に緊張や力み」が働いているからだそうです。ため息もまた浅い呼吸のあらわれなのですから、「呼吸が浅い」人が多いことに気づかされます。
呼吸が浅いということは体は緊張していることであり、それが循環機能を低下させます。これが内臓、血流、リンパ、さらに免疫機能、自律神経失調をもたらすことにつながるのです。
自然治癒力を高める呼吸法といっても、画一的な呼吸術(!)とでもいうものを身につけようというのではありません。それぞれの人(個人)にあった呼吸法を見つけ、身につけようというものです。ここにこの本の特長があります。
また私たちの勘違いを指摘する箇所も多く見られます。たとえば「よい姿勢」ということについてこのような記述があります。
──自分に合った自然な姿勢とは、体にやさしく楽な姿勢のこと。──
「よい姿勢」というと、つい「背中や肩を反らせて、背筋をピンと伸ばす」ことをしがちです。ですがこの姿勢は長く続けられません。なぜなら、この姿勢は「力でこらえるような姿勢」で「体に無理な負担をかけて緊張」させているからです。当然、呼吸は浅くなります。時には息が止まりやすくなります。
──力が抜け、背骨の自然な丸みがそのまま出ている状態が自然な姿勢です。──
無理のない自然な姿勢で自分の呼吸法を見つけるために役立つCDが付属されています。次の6段階のプログラムのやり方が収録されています。
・自然な座り方
・深呼吸
・腹式呼吸法
・体感覚を開くワーク
・うずくまり呼吸法
・肩を開くセルフケア
本を読みながらというよりも、聞きながらのほうがよりリラックスしてできるのではないでしょうか。
それぞれのやり方の詳細はこの本を読んでいただきたいのですが、ひとつ興味深い呼吸法のコツが紹介されています。
なにより肝心なのは「オバケにならない」ということだそうです。オバケとは「頭で考えすぎて、かえっておもうようにできない」という状態のことです。
──呼吸というのは、本来、鼻や胸、お腹だけでするものではありません。根性で乗り切るものではありません。(略)鼻や胸、お腹しか認識できていなければ、その呼吸は不自然なものになってしまっているでしょう。この状態を私は“オバケ”と呼んでいます。──
どこかマインドフルネスに通じるものが感じられます。
──息をすうときに、足の裏を感じていますか? 息を吐くときに、頭の位置を感じていますか?(略)大切なことは、体のポイントをやさしく認識するだけ。──
つまり呼吸の基本は、「ある部分だけの意識」を持つのではなく「気づく(認識する)」ということなのです。
また自分の呼吸法をつかむということは自分自身で自分をコントロールし、「体にやさしい生活を持続させ」、健康を維持するということです。
──人は、不安になればなるほど、つらければつらいほど、その事実や気になる点、問題点にだけ意識を集中させてしまい、そのほかの存在を認識できなくなります。そして、そこだけをどうにかしようとするのです。不安なとき、辛いときにも、全体をただ認識し、感じればいいのです。──
呼吸の乱れは心身の乱れに通じます。呼吸の改善が「どんな健康法よりも根本的な体質改善になる」という著者の考え方がよくわかる実践的な良書です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。