「芸能人は歯が命」と東幹久くんがかつてCMで言っていたのは懐かしいが、今でも芸能人はみんな輝くような白い歯、美しい歯並びだ。
芸人さんでも最近、公言して歯を直し、見違えるように綺麗に変化する人が多い。たぶんわれわれも、その歯から放たれる清潔感から安心してテレビ画面を見ていられるのだと思う。
だがしかし、歯が命なのは芸能人だけという時代は終わった。一般人だって歯は命。本書によると欧米ではビジネスマンも歯の見た目で判断されるらしい。日本はその面で遅れすぎ。
日本の政治家や有名なビジネスマンでも、全く歯に気を遣ってないんだな……と見受けられる人はかなりいる。個人的にはそれを「もう少し見た目を気にすれば好感度上がりそうなのに」程度に見ていたが、歯科先進国では仕事のパートナーとして適さない人と判断されると著者は言う。
『あなたの人生を変える歯の新常識』では、エグゼクティブも通う予防歯科の最前線に立つ医師が、予防歯科そして歯の健康や見た目がいかに全身の健康や仕事にとって大切かを説き、歯周病からインプラントまで最先端の口の中のメンテナンス方法を懇切丁寧に伝授している。日本社会の「デンタルIQ」が上がるよう、使命を持って訴えかけている。
歯が大事なのは誰でも漠然とはわかっていることだが、具体的なデータや事実として提示されるとかなり衝撃だ。
──歯・口腔内が健康で虫歯や歯周病がない人は、医療費にして3200万円も得をしているという試算があります。(中略)これが世代を超えてつながっていけば、家族全員で何億円という価値を生むことになっていきます。──
歯を金額換算したことはなかった……! 確かに1本100万円の価値と言われてみると納得の金額。では具体的に、どのような歯と健康に関するデータが研究から導かれているかというと、
──日本でも厚労省研究班が65歳以上の健常者を4年間にわたって追跡したところ、歯を失って噛めなくなった人は、最大1.9倍も認知症のリスクが高まるということです。──
──歯の喪失とがん死亡との関連については、日本での調査があり(中略)がん死亡では、20本以上歯のある人に比べて、まったく歯のない人は4.1倍もがんによって死亡しているということです。──
──2006年の日本の調査(対象80歳以上118人)では、20本歯のある人と比べ、その本数以下の男性の死亡率は、2.7倍でした。──
──奈良県の介護福祉施設では、口腔ケアで口腔内の汚れを取り除いた結果、普通に歯磨きだけをしていた人たちと比べて、インフルエンザ発症率が10分の1に激減したといいます。──
糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、関節リウマチ、早産、骨粗鬆症、肺炎、インフルエンザに至るまで、口腔内の菌と発症には相関があることが解明されている。そして本書にはその仕組みが非常に詳しく説明されている。全身の健康を「消化器の入り口」である歯が握っているのだ。
ではどうしたらいいのか。本書では日常的な口腔内の清掃から専門家によるクリーニングの方法、子どもへの正しい治療法、赤ちゃんからの口腔ケア方法といった、適切な予防方法が丁寧に書かれている。
一にもニにも予防! 早期発見・早期治療ではなく予防歯科! といった内容ではあるが、大人の虫歯や歯周病に関しては治療を否定しているものではない。インプラントの積極的な活用も勧めており、スリープインプラント、骨再生、レーザー治療といった最新技術の具体的内容も教えてくれる。
そして著者はこう締める。
──歯・口腔の健康は心身の健康に密接な関係があり、仕事や生き方に直接影響します。歯・口腔はわれわれの社会の反映であり、口の中を見ればその社会の姿や医療水準がわかりますし、その人の健康状態や環境、教育、社会的地位が推測できます。つまり、歯・口腔は社会的存在なのです。──
おお……第一線の医師は、口の世界がここまで重要だと言い切った! 日本の現状では100%そうだとは言い切れないとは思うが、非常に共感できる。自分の周りの社会的地位・教養のある人を頭に思い浮かべると、歯の状態を気にして実践している人は多い。
そしてこんなことを思った。これから婚活する人で、相手に教養や健康や将来の可能性やステータスを求める人は、まず相手の歯を見ればいい。「歯のメンテナンスについてどうお考えですか」ときいてみるといい。
そんなの残念ながらもう手遅れだわという奥様は、成績が振るわず嘆く営業マンの夫の歯に投資してあげよう。口腔ケアで口臭を取り除き、曲がった前歯を直してあげよう。
将来世界に羽ばたいてほしい我が子には、英語教室に通わせるだけではなく、定期的に歯のクリーニングをし歯並びを矯正しよう。
ほら、歯を中心に思いの外いろんなことがクリアになっていく。たかが歯、ではない。歯への意識改革は健康・仕事・生活、さまざまなことの大改革に繋がりそうな予感すらしてわくわくする。
歯への意識が既に高い人も、もちろん予習復習として楽しんで読めるが、これまで歯に対してあまり関心がなく、しかし漠然と健康・仕事・子どもの教育・お金などに不安を持っている人にもおすすめしたい。関係ないと思っていた歯の世界から、思わぬ突破口が見つかるかもしれない。
同じく予防歯科の大切さを説き、唾液の効果から導いた家庭での正しい歯磨き方法が詳しく書かれた『歯は磨いてはいけない』(2016年)もぜひ併せて読んでいただきたい。
レビュアー
一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。