瞑想というと、正座やあぐらで、目を閉じて心静かに精神を統一するものということがすぐに思い浮かぶと思います。禅に代表されるものですが、この本で図解されたマインドフルネス瞑想は、それらとは大きく異なるものです。なにしろ“図解”できるものなのですから。
この本では7つの瞑想法が図解されています。
1.食べる瞑想・飲む瞑想:ものをゆっくりと口に運ぶ。
2.呼吸の瞑想:呼吸に注意を向ける最も基本の瞑想。
3.座る瞑想・立つ瞑想:ゆっくり動いて感覚をとぎすます。
4.歩く瞑想:スローモーションで歩く。
5.感じる瞑想:体を動かさず、感覚を感じたまま放っておく。
6.慈悲の瞑想:人を思いやり、幸せを願い、心の中でそれを繰り返す。
7.日常の瞑想:1から4等の瞑想を、イライラしたときや、ちょっとした合間に行う。
詳細は読んでいただきたいと思いますが、大きく違うのは日常生活の振る舞いの中に取り入れられていることだと思います。逆にいえば、私たちの生活が常にマインドフルネス瞑想が求められるようなものの中に置かれているということなのでしょう。興味深い指摘があります。
──人はなにも意識しなければ、基本的にはドゥイング・モードになっています。だから欲求に振り回され、悩みを深めて、生きることに苦しんでいるのです。そのモードを、ビーイング・モードへと切り替えることができます。──
この2つのモードをまとめてみます。
■ドゥイング・モード:いつなにかを考えて、行動に移そうとする。しかし悩みが深まりやすい。
■ビーイング・モード:よけいなことを考えない。目の前にあるものに集中する。思いわずらうことが少ない。
ドゥイング・モードでは心にさまざまな考えや想像が浮かび、不安や心配を招きがちになります。マインドフルネス瞑想とはビーイング・モードをもたらすことで、このドゥイング・モードの流れを止めようというものです。これは悩みを忘れるとか、悩みをなくすとかということではありません。「いまこの瞬間に起こっていることに集中すること」で、悩みをもたらす考えというものを「観察する」ということです。つまり目の前にあるものに集中し、「細やかな感覚に気づく(認識する)」ということを重視しているのです。
──考えは自動的に生まれるがそれが「ただの考え」だと気づくことで、いちいち反応しなくなる。目の前で起きている現実がみえてくる。(略)自分は「いま」「ここで」生きていることに気づき、目の前の現実に集中できる。それをビーイング・モードという。このモードでいれば、悩みが深まらない。──
思い悩む悪循環を断ちきるということです。
実践するうえで重要なのは「うまくやろう」と思わないことです。せっかくのビーイング・モードも、そう思ってしまうとドゥイング・モードに戻ってしまいます。瞑想の効果を考えること自体がドゥイング・モードです。ですから「うまくいった」というようなことも考えてはならないことになります。
──成功や失敗を実感することがあっても一喜一憂しない。その気持ちに気づくだけでよい。実践を続けるうちに心の働きが整い、本来の力が発揮されるようになる。──
この本来の力がみなぎっている状態が「マインドフルネス」です。心の重要な働きである「気づくこと」が生かされている状態です。
「思考」「悩み」を相対化できればストレスから解放されることができるようでしょうし、「感情」に振りまわされることもなくなります。これらは人間関係を円滑化することに役立つのではないでしょうか。自分の課題も冷静に見つめることができ、焦りを生むこともなくなります。
この本にはできないときの対処法も掲載されています。
東洋思想と西洋思想(心理学)と結びついて生まれたマインドフルネス瞑想、日常の振る舞いの中に組み込んでみたくなる実践書です。図解も効果的です。ただし「うまくいかそう」と思うのはドゥイング・モードだということをお忘れなく。
ところで瞑想時には次のことに要注意。
──瞑想すると心身がリラックスし、落ち着くことはできるものの、そのままウトウトとして、眠ってしまうという人もいます。よい休息にはなっていますが、体の感覚や欲求に気づき、心の働きを整えることはできていません。気持ちが楽になったようでいて、悩みの解消につながっているかというと、そうでもありません。──
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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