「豊島区が消滅する……」。そんなバカな。またマスコミは大袈裟なことを言って世間を煽(あお)っているんでしょ、と誰もが思うことでしょう?
しかし、東京オリンピック後の2025年には、東京ですら人口が減少し、過疎化が進む地方に至っては、さらに拍車がかかると予想されています。未来の日本が直面するであろう問題。それは深刻な「人口減少」「高齢化」と、それに伴う「財政難」。
2016年9月に放送されたNHKスペシャル『縮小ニッポンの衝撃』の取材班によって書かれた本書は、この先もこの国で生きていかなければならない私たちが知っておくべき、差し迫った現実を教えてくれます。
豊島区の「20代単身者」の平均年収は241万円
少子化と人口減少が止まらず、将来存続が危ぶまれる自治体のことを「消滅可能性都市」と呼ぶそうです。民間の研究機関によると、全国の約半分の市町村が消滅する可能性があり、その中に豊島区も含まれているといいます。
豊島区には交通の要所で繁華街の池袋があり、若者を主とした転入が多い地域。それなのになぜ、消滅する可能性があるのか?
それは流動的な人口ではなく、「区内に住み続けている人」の死亡数と出生数を比べたとき、出生数の方が少ないからなのです。であれば、安心して子供を産み育てられる環境を整えればいいのではないかと考えてしまいますが、問題はもっと深いところにありました。
豊島区外から転入してきた「20代の単身者」の平均年収は241万円。物価の高い東京で暮らすにはギリギリで、結婚すらできない人が増えているというのです。
「単身高齢者」の増加による社会保障費の増大
ここで紹介されている日給7500円、日払い、寮付き、食事付きという新宿の警備会社の寮には、地方出身の若者が多く住んでいるそうです。しかし、住民の4割は50歳以上。中には病気で働けなくなったり、ここで亡くなる人もいて、五輪建設特需後は、若者たちもいずれ「単身高齢者」の予備軍になる可能性があるというのです。
高齢者が増えれば当然、社会保障費が増えるため、行政サービスもカットせざるを得ません。それが一体どんなものなのか、正直、ピンと来なかったのですが、夕張市の現状を知り、これは将来の日本の姿なのかもしれないと思いました。
財政破綻した夕張市にみる日本の将来
2006年、353億円の赤字を抱えて財政破綻した夕張市。現在は、全国で唯一の財政再生団体に指定され、予算編成をするにも事業を行うにも、いちいち国の同意を得なければならなくなりました。
破綻前は、399人いた市職員を100人に減らし、給与も4割カット。それでも夕張市の地方税収入8億円に対し、今後20年間にわたって毎年返済し続けなければない金額は26億円。現在は、国や道からの支出金によって、なんとか帳尻を合わせているそうですが、財政破綻がもたらすもの、それは「容赦ない住民サービスの切り捨て」でした。
夕張市の場合は、7校あった小学校、4校あった中学校が、それぞれ1つに統廃合。市民病院も診療所に縮小され、ベッド数も171から19床へ。下水道料金は東京の約2倍。集会所、公衆便所、公共施設は次々に閉鎖され、福祉サービス、各種補助金も次々と打ち切られたのです。
これでは人口の流出に歯止めがかからず、税収もますます悪化、その影響で行政サービスもさらに低下と、負のスパイラルから抜け出せない状態なのだとか。
そこで夕張市が取り入れた苦肉の策が、「政策空屋」でした。
2016年に正式決定した「政策空室」とは?
「政策空屋」とは、住民が退去しても新たな入居者の募集をかけることなく空室状態を維持し、その住宅が空になるように誘導していくこと。
炭坑の街として栄えた夕張には、老朽化した市営住宅が3400戸以上あり、その管理修繕費は年間2億円。下水道や道路維持費、除雪作業費などのインフラコストもかかるため、人が少ない地域の住民は移住させ、コストダウンを図ろうというのです。
確かにこれは、理にかなっていると思ったのですが、それは私自身が健康で動けるからで、体の不自由な方やお年寄りにとっては、簡単にいかない問題なのだと考えさせられました。
住民組織に委ねられた行政サービス
こうしたことは夕張市に限らず、日本全国どこにでも起きうることだといいます。
鳥取県に次いで人口が少ない島根県では、65歳以上の高齢者が7割以上、世帯数が10戸未満の消滅する可能性が高い「危険的集落」が、84ヵ所。その一部では、行政が担い切れないサービスを、住民組織に委譲する制度が既に始まっているというのです。
特に高齢化率が一番高いといわれている益田市の匹見下(ひきみしも)地区では、わずか年160万円で自治を委ねられたというのです。しかもメンバーは、ほとんどが70歳以上。このために作られた多目的集会所は、総工費1億1千万円。この矛盾に対し、どこに憤りを向けたらいいのやら……。
一方で、住民によるサービスが成功した地域もあり、住民が本当に望むきめ細かなサービスが届けられるというメリットも生まれています。いずれは、行政に頼らず、住民主体でサービスを運営する時代に進む可能性があることも、知っておくべきだと感じました。
75歳以上が5人に1人の世の中へ
死ぬときは、誰にも迷惑をかけずに死にたい。これは「単身高齢者」であれば誰でも願うことだと思います。
ここに出てくる横須賀市の「単身高齢者」は、親族がいて、お金もあって、地域に友人もいるのに、無縁仏として弔(とむら)ってもらうことすらできないということに愕然としました。
というのも、行政は相続権がないため、いくら通帳にお金があっても引き出すことができず、立て替えた火葬費は相続権のある親族から回収するしかないというのです。しかし、今ではその親族と連絡をとることすら、難しくなっているのだとか。
こうした亡くなられた「単身高齢者」にかかる費用も、5人に1人が75歳となる2025年以降は、財政を圧迫する可能性があるのだと知り、せめて自分のときはこうならないようにしたいと思ってしまいました。
正直、こうした暗い将来や老後に関する話は、不安をあおられるので見ないようにしていた部分があります。しかし、決して避けられない問題であるならば、現状から目をそらさず、今から対策を練っておくことは、非常に重要だと感じさせてくれる本でした。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp