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2017.09.29

インタビュー

「ヒューマン3.0」人間は7万年ぶりに進化する──高城剛『不老超寿』第1回

人間の未来を知りたくて、内なる宇宙を旅している

「岩盤規制」と呼ばれる日本の医療業界を飛び出し、世界中の医療機関と研究機関をまわり、最先端の検査を数百万円をかけて受診。そして奇遇にも、本書取材中にすい臓がんが発見されたのだった──。高城剛『不老超寿』出版記念、全3回の特別インタビュー!(初出:クーリエ・ジャポン)

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PHOTO: TATSUYA HAMAMURA / KODANSHA

高城剛 Tsuyoshi Takashiro

1964年東京都生まれ。2008 年より欧州へ拠点を移し、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に創造産業全般で活躍。著書多数。新刊『不老超寿』好評発売中。最新刊に、『21世紀の「裏」ハローワーク:人には言えないもうひとつの職業図鑑』

高城未来研究所

「未来の健康」とは?

──世界中を飛び回っておられるようですが、最近は主にどんな活動をされているんですか。

あいわらずさまざまなプロジェクトを進行中ですが、あたらしくはじめたのは「サウンドメディテーション」ですね。

参加者には、大麻から抽出した合法的で医療効果が高いCBDオイルを事前に飲んでもらい、外の音も聞こえる特殊なヘッドフォンを着けてもらって楽曲と特定の周波数や環境音を流して、神経システムをリラックスというかリブートさせるような実験です。今年の7月末には、小淵沢の能楽堂で中規模なセッションをやりました。

ここ数年、欧米を中心に「マインドフルネス」が流行っているのはご存知かと思います。これは、うつ病の薬と同じくらいの治療効果が科学的にも証明されはじめている、宗教色がない瞑想のようなものです。

現代社会ではテロの被害者となる確率より、自殺率のほうがはるかに高い。いわば、最大の敵は自分自身なんです。そこで、セラピーや癒しの効能を試行錯誤する人々も世界中に増えています。

僕としては、音楽と特定の周波数が持つ可能性を追求したいと考え、この実験的プロジェクトをはじめました。

毎年夏になると、スペインのイビサ島でDJを性懲りもなくやっているのですが、オーディエンスを見ながら、音楽を使った瞑想のようなものができないかとずっと考えていたんです。

イビサ島は、2000年代前半からユーロバブルの影響でパーティーシーンが盛り上がった場所です。ところが、2008年のリーマンショックで欧州の景気がガタンと崩れて、ギリシャもスペインも大変になる。

この経済停滞は、人々のライフスタイルも変えはじめます。夜の酒場ではなく、朝カフェで集まるようなサードウェーブコーヒーブームが起きたんです。日本で言えばジョギングやヨガブームなどと言えば分かりやすいですかね。

マインドフルネスが注目を浴びはじめたのもちょうどその頃です。

欧州ではここ数年で、アルコール関連の広告も打てなくなりました。20年前のたばこと同じ状況です。不健康だからだめだと。そんな世界的な健康ブームのなかで、みんな「健康とはなんだろうか」と考えはじめたんです。

現在では、僕も含めて人々の意識はさらにその先に向かおうとしています。元気で長生きというより、いまを楽しむため、さらには人間のパフォーマンスを上げ「超人」になるためにはどうすればよいかという「未来の健康」のあり方を模索する人々が増えてきているんです。

──「超人」ですか?

人間が人体本来のパフォーマンスを超えていく可能性が出てきました。テクノロジーの恩恵によってです。身近なところでお話しすれば、スマートフォンおよび周辺ディバイスの普及が大きい。

たとえば、糖尿病患者は血糖値が落ちると、病院に出向いてインシュリンを打たなきゃいけませんでした。しかし、現在は体内にチップを埋め込み、そのチップが体内状況データをiPhoneに随時送ってくれるのです。それにより、自宅だろうがどこだろうが、自分で対処できるようになりました。AEDよりもスマートフォンが「命の道具」になったんです。

ハードウェアが体内にまで入り、あらゆるものがデータ化される。そんな世界は、最後の仕事にとりかかろうとしています。「人間」の数値化です。

その典型例が「ゲノム解析」でしょう。それを支えるテクノロジーが、「次世代シーケンサー」です。人間、体内の腸や土のなかに生息する微生物や植物まで、次世代シーケンサーはなんでもDNAを並べ替えて数値化してくれます。

数値化の利点は、正しい数値とそうでない数値を見分けられるということにあります。次世代シーケンサーは通常の数値とは異なる「バグ」があれば、それを教えてくれ、疾病の可能性や投薬による副作用を未然に防ぐことが可能なんです。

「生命科学のデジタル化」はようやくはじまったところですが、医療は今後、「人体のなかのバグを見つけてフィックスしていく」という発想で発展していく可能性が高いのではないでしょうか。

いずれ人体そのものをデジタルデータとして解析して、どんな病気になるか事前に知れるようになる。予防ではなく「予測医療」の本格的到来の時代に、我々は生きているのです。

表紙画像

世界中の医療機関と研究機関をまわり、最先端の検査を数百万円をかけて受診。そして奇遇にも、本書取材中にすい臓がんが発見された。本格的な「予測医療」の時代に向けて、受診可能な最先端検査ガイドとなる1冊。

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「ヒューマン3.0」?

──人間そのものの未来にも強い関心を抱いておられる印象があります。高城さんの言う「ヒューマン3.0」というキーワードについて、もう少し教えていただけますか。

遺伝子操作とかAIが人間を超えてしまうとか、また流行(はや)りの言葉を借りれば「シンギュラリティ」とか、誰もが想像できる話をするのは、もはや面白みがありませんよね。

「この職業がなくなる!」といった煽(あお)り見出しをよく見ますが、あたらしい仕事も増えるわけですから、釣られないようにしたいところです。

僕は今後数百年のスパンで、人間そのものの可能性が大きく伸びるのではないかと信じています。

われわれの祖先であるホモ・サピエンスはおよそ10万年前、ネアンデルタール人などの自分たちより腕力のある他の人類を駆逐して生き残った。我々の勝因は、他の人類より少しだけ脳が発達していた点にありました。この星で食物連鎖の最上位になった時を、僕は「ヒューマン1.0」と呼んでいます。

その後、約7万年前にも絶滅の危機に瀕しましたが、脳をフル回転させ、安息の地と言われたアフリカから意を決して飛び出します。この時のホモ・サピエンスを、「ヒューマン2.0」とします。

そこから今日まで、ほとんど人間は進化していません。むしろ退化しているくらいです。おそらく、7万年前に祖先たちが経験したような圧倒的な危機がその後訪れなかったからでしょう。

これは私見に過ぎませんが、これから100~200年以内に人類はおそらくふたたび大きな危機に直面すると思います。それは天災とか気候変動、惑星衝突、もしくはテクノロジーの行き過ぎや人口増殖かもしれません。そうなると、人間は「次」に行くしかない。

次はどこか。そのひとつは、宇宙です。宇宙を開拓するとなると、人間はこれまでとは違った能力を使わなきゃいけなくなる。

7万年前にアフリカを出たように、いま、再び安息の地を出なくてはならなくなる。そして、大きな危機が訪れると、「火事場の馬鹿力」ではありませんが、人間は驚くほどの能力を発揮するでしょう。その能力を持つ人類の進化形を、僕は「ヒューマン3.0」と呼んでいます。

もうひとつの進化の方向性として「内的探査」、つまり「人間の内的宇宙の開拓」が深まるでしょう。僕の興味は、こちらにあります。

いまから25年ほど前にカリフォルニアに住んでいたことがありました。カリフォルニアはヨーロッパからの開拓者にとって「西の果て」です。そこに辿り着いた人々の子孫たちのなかで、「人間はどこから来て、どこに向かうのか」というような内的探査を追求する人たちが当時増えはじめていました。いわゆる「ニューエイジ」と呼ばれる人たちです。

そのニューエイジムーブメントとテクノロジーが一緒になって、コンピュータカルチャーが花開き、インターネットへとつながっていく。僕はそんな交差点の真っただなかの米国に住んでいて、「次のフロンティアはテクノロジーによる内的探査だな」と思ったんです。それから自己の内的探査をずっと続けています。

最新検査を用いた健康への興味や最近実験的に始めたサウンドメディテーションはその断片というか、一部に過ぎません。

「健康を維持するために長生きする」?

──人類の寿命が100歳以上の時代に生きるとしたら、高城さんはどんなことをやりたいですか?

やりたいことは、たくさんあります。むしろ時間が足りなくて困るくらい(笑)。生命科学をカジュアルに「健康」と言い換えていますが、人間のあらゆる可能性は、今後も追求していくでしょう。レトリックみたいだけど「健康を維持するために長生きする」みたいな。

──そこまでして人間の未来を見たいという心理は、どこからくるんでしょう?

ただの変人だからなんじゃないかな(笑)。

真面目な話をすれば、内的探査の世界って誰にもまったく見えていない領域だから、治外法権なんですよ。いわば、アウトサイダーたちのあたらしい旅路です。

僕は旅を散々してきて、いわゆる僻地(へきち)にだって「明日行くか」のノリで向かう生活を続けてきました。もはや地球上に行きたい場所はそれほどありません。

世界中が近くなった現在、あたらしい僻地って「人間の奥」にあるんです。旅とかテクノロジーって、結局は最後にそこに行き着くんですよ。これは、先人たちの教えです。

「ホールアースカタログ」ではありませんが、人間がどこに向かうのか、人間内部の宇宙で探しつづける。GPSも使えないその場所は、僕にとって物理的な宇宙空間を目指すより、よっぽど興味深いことです。最新のテクノロジーとディバイスを駆使してね。

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クーリエ・ジャポンより転載:メディア詳細・会員登録はこちら →https://courrier.jp/regist/

不老超寿

著 : 高城 剛

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Interviewed by Jonggi Ha

河鐘基

テクノロジー専門ウェブメディア「ロボティア」を運営。著書に『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』『ドローンの衝撃』など。

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