がんの再発を繰り返し、「首の付け根から骨盤まで全身あちこちに転移し」余命3ヵ月と宣告された患者・善本考香さんは、セカンドオピニオンを求めて医師・岡田直美さんと出会いました。そして岡田さんの治療指針のもと7ヵ月で善本さんは「がんの残存率ゼロ」なったのです。
この本はこの2人が善本さんの患者としての体験・心の葛藤、そして岡田さんがどのようにがんに立ち向かったかを治療過程を検証し合い、さらに現在のがん治療の実態と問題点を語り合ったものです。
患者と医師の共著、それもがんと闘った戦友との対話でできた本というは稀有(けう)ではないでしょうか。2人が語り合う姿には闘い終わった後の充実感といったものまで感じられます。
この本で取り上げられた患者さんは善本さんだけではありません。岡田さんが治療した多くのがん患者さんの治療過程も詳しく取り上げられています。
最初に注意しておかなければならないのは多くの患者が標準治療と先進医療との混合医療を受けているということでしょうか。
標準治療とは「すべての病期における『最良と治療法として推奨される』治療法」で、「3大治療」と呼ばれる手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療を指します。ですがこれにはいささか問題があるそうです。岡田さんはがん治療の現状をこう話しています。
──しっかりと作られている標準治療も、がんが再発・転移すると一転して患者に牙をむきます。
「もう治りません。化学療法だけです」
化学療法とは、全身抗がん剤治療のこと。これが、再発・転移後に推奨される標準治療です。
化学療法のみでがんが治ることはほとんどありません。ですから化学療法のみが推奨されている標準治療では再発・転移したがんを治すことはできないのです。──
標準治療を信じている医師だと次のような問題が起こることがあるそうです。
──標準治療を信じている医師は、誰もが標準治療に基づいた治療をしていると思っています。そのような医師からしたら、どこにセカンドオピニオンに出ても、同じことを言われるに決まっている、直るわけないのにって思うでしょうね。──(岡田さん)
主治医より「再発したら絶対に治らない。延命治療しかない」といわれたYさんの話が載っています。Yさんは主治医の言葉からセカンドオピニオンをためらってしまい、他の医師へ行ったときにはこういわれたそうです。
「もっと早く来ればなんとかなったのに。効いてもいない抗がん剤をこれだけ続けたらほかの治療ができないんだ」
その後Yさんは岡田さんのセカンドオピニオンを受け、転院。その後は「再々発の所見なし」となったそうです。
これは決してめずらしい例ではないようです。なぜこのようなことが起きるのか。がん治療の根底に「今のがん治療はあきらめが早すぎるように思います」(岡田さん)という医師の意思の問題があるのでしょうか。
もしも標準治療がこのような問題を引き起こすのなら、それは治療の本来のあり方から大きくはずれているというべきでしょう。
もちろん「標準治療で成果が出る病期ならば標準治療を強く薦めます」という岡田さんの言葉を忘れては不公平です。決して岡田さんは現行の標準治療が役に立たないということを主張しているわけではありません。
とはいっても先端医療にも問題はあります。先端医療と呼ばれるものは平成29年8月1日現在で105種類だそうですが、費用を含め、これからの課題が残っています。
──先進医療を受けた時の費用は、次のように取り扱われ、患者は一般の保険診療の場合と比べて、「先進医療に係る費用」を多く負担することになります。
「先進医療に係る費用」は、患者が全額自己負担することになります。「先進医療に係る費用」は、医療の種類や病院によって異なります。
「先進医療に係る費用」以外の、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われます。
つまり、一般保険診療と共通する部分は保険給付されるため、各健康保険制度における一部負担金を支払うこととなります。──(厚生労働省HPより)
肝心なのは「がん再発=完治不能」という固定観念を医者と患者の双方が持たないということです。さらに共にがんと闘うという意思が必要なのです。
がんと闘うための道具といえば医師は「さまざまな治療法」です。では患者の武器はというとそれは「心の技術」(善本さん)です。
これには3つあります。
1.知識力
2.判断力
3.コミュニケーション能力
これらの武器によって「がんは正体不明の見えない病気から見える病気へと」変わり、不安をおさえられることにつながります。また医師への信頼につながるものでもあります。
──がんを治すことができるのは、お医者さんだけです。主治医を味方につけること。これは、患者さんが真摯に向き合わなければいけないこと。──(善本さん)
この本ではがんのメカニズム、岡田さんの治療法も詳しく述べられています。そしてこの本の底に流れているのは「希望」というもののように思います。がん患者さんだけでなく、がんが気にかかるすべての人に読んで欲しいと思います。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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