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2017.10.08

レビュー

『正しい本の読み方』極意を知っておくと、人生は愉しく豊かになる!

「正しい」読み方=「楽しい」読み方 

「正しい」本の読み方とは「楽しい」本の読み方のことだった。

「楽しい」に加えて、実社会で「役に立つ」。まさに読書の醍醐味から説き起こす。読みたかったのはこんな読書法だった! 読後、そう思わずにはいられなかった。

「本が売れない……」と嘆かれる割には、世のなか、本の大洪水。「本の読み方」だって溢れている。読書カードを、読書ノートを、付箋や印をつけなさい。三色ボールペンを使うのがミソ。などなど。それっぽい“読書ツール”は、一見すると魅力的だが、習熟自体が目的になると、たいてい持続しないものだ。

しかし、本書はその種の“読書ツール”なんか後回しにして、本を読むモチベーション自体をアゲてくれる。読書の醍醐味を押さえた「正しい読み方」なのだ。

まずは、本を読むことの大前提から。こんな風に説き起こす。 

──さて、本は字で書いてあります。字は言葉を写し取ったものです。……
声は消えてしまいますが、字は残ります。繰り返して読めます。覚えなくても、字に書いてあれば、「ああ、そうか」とわかります。……
本を書いた人が死んでも、本は残ります。……
だから本は、ものを考えた昔の人の、死体です。
本を書いたのは、必ずだれか他人です。だから、本を読むとは、他人に関心を持つ、ということなんです。── (「はじめに」より)

「本」のことを語りながら「人間」「実社会」のことを語り、また「本」の話へ。本って? 文字って? 社会って? 社会で暮らし、本を読む自分って? 「本を読むことは価値のあることだ」と頭ごなしに言うのではなく、ひとつずつ丁寧に「本を読むこと」の大前提を読者と一緒に考えていく。

曰く、1冊の本には、ひとりの人間、ひとつの社会のロールモデルが詰まっている。人生において「予想しない事態が起こったとき」に、それを「参照する」ことで「心の底から納得できる選択」ができるのだ、と。


読み方“3つの極意” 

では、具体的な「読み方」の極意とはどんなものか。

大事なことは3つ。本の「①構造」「②意図」「③背景」を読むことだという。

まず「構造」、つぎに「意図」、最終ステップは「背景」を読み解くこと。段階的にレベルアップしていけば、最終的には「書き手がどんな風に苦しみ、どんな手立てを尽くして、この本を書いたのかを、楽しみながら読む」読書まで到達できるというのだ。

「構造」「意図」「背景」って、何だか難しそうじゃない?という読者も心配ご無用。著者は橋爪大三郎氏。社会学の大家であると同時に、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)や『世界がわかる 宗教社会学講義』(ちくま文庫)といったロングセラーを著した、「入門書」の名手である。用語もすべて平易に解説されている。

ざっくりまとめると、こうだ。

①「構造」は<著者は何をどういうふうに書いているか>のこと。本は、「前提だったり、結論だったり、例示だったり、反証だったり」、各パーツは論理によって組み立てられているわけだから、その「構造」をまずは、素直につかもう。
②「意図」は<なぜ著者はこの本を書いたのか>。他ならぬ自分が書かなければならなかった理由のことだ。「潜在的に対抗関係にある」他の著者(ライバル)に任せておけなかったわけだから、ライバルの言い分と読み比べて、著者の「意図」を想像しよう。
③「背景」は文字通り<著者はどんなバックグラウンドをもって書いたのか>。「著者にとっては当たり前で」「空気のようになっている」こと。そうした「背景」がわかると、その本がスパッとわかる。

実例として、著者・橋爪流の読解プロセスを具体的にレクチャーするくだりは、まさに入門書のキング・橋爪大三郎氏の真骨頂である。

「構造」(のベースとなる「前提」)も、「意図」も、「背景」も、著者自身が無自覚だから“書かれていないこと”が多いが、読み解くコツはあるという。たとえば「意図」は、著者が褒めていたり、批判していたりする他の著者、或いは同じ分野なのに言及していない著者に注目すれば見えてくる、という具合に。


“実況中継” ──著者はどう読んだか? 

そうしたコツをおさえながら、著者はマルクスの『資本論』を実際にどう読んだのか。その“実況中継”がとにかく刺激的だ。『資本論』の数学的「構造」を取り出し(①)、マルクスが潜在的にライバル視した著者・リカードの思想を対照しながら「意図」を想像し(②)。さらに、思想の「背景」にヘーゲルの弁証法(その本質にある「歴史法則」)があることを突きとめていく(③)。

レヴィ=ストロースやカントについても同様だ。解説が鮮やかなだけでなく、著者が実際にどうやって3つの糸口を見つけていったのか。そのプロセスがライブ感たっぷりに公開されているから、読者は「正しい読み方」の極意にじかに触れることができる。

"実況中継"で扱うのは、マルクス、レヴィ=ストロースなど数名の思想家に限られるが、本書収録の特別付録「必ず読むべき『大著者一〇〇人リスト』」には、古今東西のあらゆる分野からバランスよく厳選されている(一言コメントや難易度も示されていて、とても親切なつくりだ!)。本書を読み終えたら、さっそくこのリストをもとに「正しい本の読み方」をすぐに自分で実践していけるのがうれしい。

とはいえ実践の前に、ちょっとインターバルを置きたい、という読者には、このリストにはない1冊の古典、アドラーの『本を読む本』(講談社学術文庫)をおすすめしたい。『正しい本の読み方』を書くうえで、著者が恐らく念頭に置いた読書法の古典中の古典だ。

70年以上前に書かれた本なので、本を読むことについての前提は違うが、「構造」「意図」「背景」の段階的読書法について、詳細かつ体系的にレクチャーしているので発展的復習にもピッタリだ。併せ読むことで、橋爪氏がいまこの時代に「正しい本の読み方」を書かれなければならなかった、その理由の一端に触れることもできるはずだ。

レビュアー

河三平

出版社勤務ののち、現在フリー編集者。学生時代に古書店でアルバイトして以来、本屋めぐりがやめられない。夢は本屋のおやじさん。

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