かつて存在した『幻影城』という雑誌をご存じでしょうか。1975年に創刊され、'79年に休刊した『幻影城』は、その間に計4回の評論と短編の新人賞を募り、その後大活躍することになる著名な作家たちを次々とデビューさせた伝説的な探偵小説の専門誌です。
連城三紀彦さん(1948-2013)も、その『幻影城』の出身です。「変調二人羽織」で第3回幻影城新人賞を受賞してデビューすると、長年にわたり数々の傑作ミステリーを世に送り出してきました。
本書はその連城さんのアンソロジー、タイトルのとおり2014年に刊行された『連城三紀彦 レジェンド』の第2弾です。収録されている短編の選者も前回と同じで、綾辻行人さん、伊坂幸太郎さん、小野不由美さん、米澤穂信さんの4名。この押しも押されもせぬ4名の人気作家の共通項が、連城三紀彦さんだというのはたいへん面白いです。
皆さんそれぞれに、連城作品に多大な衝撃と影響を受けてきたらしいことは、本書の巻末に収録されている、綾辻さん、伊坂さん、米澤さんによる特別鼎談においても語られています。この豪華な顔合わせにミステリーファンとしては興奮を覚えずにはいられません。前回は綾辻さんと伊坂さん、おふたりの対談でした。そこに今回は米澤さんが加わったことで、綾辻さんと伊坂さんとはまた異なる視点から、連城さんと連城作品の魅力が語られています。この巻末鼎談だけでも一読の価値がある1冊です。
短編6作品を掲載順に紹介
アンソロジーのトップバッターをつとめる「ぼくを見つけて」は、誘拐物の佳品です。男の子の声で、警察に1本の電話。男の子は、自分は誘拐されていると主張するのですが、「たすけてください」と続ける声には、まったく緊張感がありません。男の子は本当に誘拐されているのでしょうか。この冒頭の謎で一気に引き込まれます。
明治42年の秋、陸軍の元将校が自害した事件の真相に迫る、花葬シリーズの2作目「菊の塵」は、スケールの大きな作品です。僕は連城さんのことを超絶技巧のマジシャンのような小説家だと思っているのですが、この短編を読めば、なぜそう思うのか理解できるはずです。手品には仕掛けがあります。でも、たいていの人はどこにどんな仕掛けがあるのか見抜けません。
自殺未遂の男の謎を描いた「ゴースト・トレイン」は、赤川次郎さんのデビュー短編「幽霊列車」と世界観を同じくする作品です。赤川さんと連城さんのおふたりが、お互いの作品から1作選んで、それとつながりのある短編を執筆するという企画のもとに生まれたのが、本作だからです。作中に出てくる乗客消失事件の真相は「幽霊列車」で明かされます。こちらも短編の名作ですので、「ゴースト・トレイン」と「幽霊列車」の両方を読むことをおすすめします。
「白蘭」は、終戦後の大阪が舞台です。最初から最後まで大阪弁で語られるこの短編で、連城さんは、ふたりの漫才師の繊細で破滅的な関係を描いています。物語が進むにつれ見え隠れする複雑な愛の形は、濃密で嗜虐的。そしてだからこそ演出される逆転劇には、これぞまさしく連城作品といった凄味があります。
「他人たち」。収録作品中、個人的に一番好きな作品が、この「他人たち」です。タイトルとは裏腹に、家族が主題の作品です。ある人物によって冷ややかに語られる家族の姿は、滑稽でありながらも、各人、隠しきれない哀愁と愛執を漂わせている。連城さんの語りの妙によって、そうした実相が徐々に浮かび上がってきます。
戦間期に描かれた1枚の絵と、被害者と加害者を特定できない殺人事件。そのふたつの謎を巡る「夜の自画像」は、花葬シリーズの最終作品です。連城さんの単著としては、これまで未収録だった短編でした。張り巡らされた伏線の数々が回収されていく手際は、相変わらず見事です。登場人物たちも、連城さんらしい哀切と迫力に満ちています。
このアンソロジーを入口に、気になった連城作品を手にとってみてはいかがでしょうか。巻末鼎談では本書収録作以外の連城作品にも言及されているので、ぜひ参考にしてみてください。
レビュアー
1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。