衛星写真が教える地球の素顔
現代では、地球の様子なんか、すぐに把握できてしまう。人間が足を踏み入れることができない厳しい環境の地であっても、衛星写真によってどんな様子か“知る”ことができてしまう。
知りたいところが海の底であれば、このテキストを読んでいる端末で、Googleマップを開いて、倍率を下げて衛星写真モードにすると画面いっぱいにデコボコとした青い領域が拡がる だろう。
そう、手元の端末ひとつで、ギアナ高地のような前人未踏の地を見られるし、陸地における山脈のような起伏が海にもあることを知れる。例えば我々が暮らす日本列島の周辺 を見れば、なるほどこれが大陸プレートかと理解できるくらい具体的に海の底の様子を見せてくれるのだ。
かつて太平洋に存在していたという伝説があるムー大陸。オカルト的な話が嫌いではない私からすれば、超古代文明とセットで語られるムー大陸は存在していて欲しいところなのだが、実際にGoogleマップを開き、倍率を下げた状態でつるりとした太平洋の様子を見てみると、悲しいかなそんな大陸が存在していたとみるのはなかなか厳しいものがあるのがわかるだろう。
でも、ムー大陸の一部とされているイースター島の近辺やハワイにはまるで山脈のように起伏があって、ハワイの西南西・マーシャル諸島のあたりを拡大すると、なんだか台地のような形跡もうっすらと見える。
そうして地図を見ていると、ムー大陸はもしかしたら本当にあったのかも? 何らかの天変地異によって大きな陸地が本当に海の底に沈み、大地が崩れ去ってしまったのかも? とも思えてしまう。
地殻に違いがある海底と陸地
そんなロマンと現実の間を漂う謎を地学的見地から解説してくれるのが、佐野貴司によるブルーバックス『海に沈んだ大陸の謎』だ。筆者である佐野貴司氏は、東京・上野の国立科学博物館にて主に海洋底に潜んでいる超巨大火山の研究に従事されている。さらに週末には来館者に対して展示の解説を兼ねた地学の話をしてらっしゃるという。
本書は佐野先生の研究成果や最新の文献をもとに、ムー大陸やアトランティス大陸のような、はるか昔に存在していたかも知れない伝説の陸地について地学(地質学)の見地からやさしく検証する課程で、地学の基礎から地球の大陸の成長の歴史をわかりやすく学ぶことができる。
我々が普段暮らしている母なる大地、陸地であるが、陸地の地殻と、海の地殻は性質が違うらしい。私は本書を読むまで知らなかった。
地球上の陸地と海の面積の比率からおさらいすると陸地が30%で、海が70%。地球の表面のうち、水に覆われた部分が70%を占めているということだ。これを水に覆われているか否かではなく、「大陸地殻」と「海洋地殻」で分類すると、大陸地殻が占める割合は40%となり、海洋地殻の割合が60%に変化する。
この10%の違いは大陸棚の部分だ。つまりそのように分類すると言うことは、陸地を形成する部分の地殻と、海洋を形成する部分の地殻は別物であるということになる。ちなみに大陸棚の部分と海洋地殻の部分の違いについてはGoogleマップで日本近海を見るとわかりやすい。陸地から浅い海の部分があって、急に深くなっている。
地層が教える地球の足跡
ここで登場した「大陸地殻」「海洋地殻」。はじめて目にした人も多いのではないだろうか。両者の違いについては本書にて詳細の解説があるので本書の解説をぜひ読んで見て欲しいのだが、大雑把に分類すれば地殻を形成する成分の違いによって切り分けられるのだそうだ。大陸地殻をつくる代表的な岩石は花崗岩で、海洋地殻は玄武岩やはんれい岩で形成されているという。
だから仮にムー大陸やアトランティス大陸がかつて本当に存在していたならば、存在していたとみられるエリアの海底の組成を調べてみて、海の下から花崗岩が見つかれば、「失われた大陸を発見した」と言えるそうなのだ!
地学的な見地から結論づけてしまえば、そのエリアから花崗岩を含む地層は見つかっておらず、ムー大陸は存在しなかったということになる。
とはいえ、海洋地殻はだいたい標高マイナス5000メートルあたりに存在し、そして海底には1000メートルを越える堆積層が存在するので、実際に海洋地殻の組成を調査するには高い技術が必要だ。さらに海は広大だからこれからの調査と技術の発展で新たな事実が発見されることもあるだろう。本書でも遙か昔には大陸だったと見られる場所についても触れられている。
そんな地球の足跡を、地層からよみとっていく研究の姿勢は、先日おなじくブルーバックスから刊行された『古生物たちのふしぎな世界』にも通じるところがあるので、合わせて読むと地球史の理解が一層進むこと請け合いだ。
この『海に沈んだ大陸の謎』 は2017年の現在、27歳から42歳の読者に特にオススメしたい。なぜならその年代は小学五年生の国語の教科書で大竹政和による「大陸は動く」というプレートテクトニクス理論を扱った説明文を目にした可能性があるからだ(光村図書の国語教科書において2003年度版まで掲載されていた。光村図書は小中学校の国語教科書でトップシェアだそうだ)。そこで大陸がプレートの動きによって動いていることを、“国語”の授業で学んでいるので本書の内容がとっつきやすく思えるだろう。
日本列島は、地殻の動きが活発なプレートの境目に存在する。この国は、頻発する地震や火山活動とうまく折り合いをつけて暮らしていかねばならない宿命を背負っている。我々が立つ大地がどのように出来ているのか、そしてその過程においてどんな仕組みで地震が発生しているのかを正しく理解することが、いつか来るかもしれない巨大地震に対して向き合うことにもなりえるだろう。そういった意味でも日本人必読の1冊だ。
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。