毎年9月1日は「防災の日」です。1923年(大正12年)9月1日に発生した関東大震災にちなんで1960年(昭和35年)に定められましたが、この関東大震災は、大都市が広範囲に壊滅的な被害を被った点において、阪神・淡路大震災や東日本大震災をしのぐ規模でした。
ちなみに防災の日が定められた前年の9月には、昭和の三大台風のひとつ伊勢湾台風が発生し、日本列島は壊滅的な被害を被りました。この時期は台風の発生が非常に多く、日本の国土は台風や地震、津波、火山噴火などさまざまな自然災害が発生しやすい条件のうえに成り立っているといえるでしょう。
内閣府の防災情報のページによれば、防災の日は「広く国民が、台風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波等の災害についての認識を深めるとともに、これに対する備えを充実強化することにより、災害の未然防止と被害の軽減に資する」日とのこと。今回の特集をぜひ参考にしてください。
災害発生時の行動基準を左右する震災知識の書
防災の日の由来となった関東大震災とは、どのような規模の地震災害だったのでしょうか。
当時の東京は、東京都の前身である東京府が置かれ、その下に東京、八王子のふたつの市と8つの郡が置かれていました。地震発生後30分以内に倒壊した家屋から出火した火は、鎮火するまでまる2日にわたって燃え続け、市全体の実に43パーセントを焼き尽くしました。横浜も壊滅的な被害を受け、宅地面積の8割が焼失しています。
地震発生当時には昼食時のため火を使っていた家庭や飲食店が多く、風に煽られて延焼が広がったこともあって、最終的に死者は10万人を超えました。その大半は焼死者。焼失面積は東京大空襲でさえはるかにしのぐほどであり、現在に至るまで東京がこれほどの火災を経験したことはなかったというわけです。
この章では関東大震災を中心に、地震と災害に関する本を見ていきましょう。
災害対策では初動が重要と言われています。災害発生直後の対応の高速化や二次災害の被害を最小限に食い止めるのに必要なのは、過去の災害を教訓としたさまざまな事例の研究でしょう。
本書は、関東大震災までの防災体制はどうであったのか、地震発生直後、各機関はどのような動きをみせ、どのように動けなかったのか、消防や医療の面ではどうだったのかなどをさまざまな資料を用い、さまざまな角度から検証しています。当時の東京、横浜といった都市部の生活を知ることのできる、非常に資料性の高い1冊でもあります。
大正時代と現在とでは人口も建築様式も、ライフスタイルさえもまったく異なりますが、震災発生当時に被害の拡大を阻止すべく奮闘した消防、医療、ボランティアの人々のさまざまな活動を見ることで、都市型災害対策のあるべき姿が見えてくるでしょう。3.11の東日本大震災の記録と合わせて読んでおきたいものです。
「天災は忘れた頃にやってくる」という名言を残したのは、地球物理学者であり随筆家であり、本書の著者でもある寺田寅彦氏です。寺田氏は関東大震災で被災し、その経験を「震災日記より」という日記形式の随筆に綴っています。本書はその体験記をはじめ、災害に関する作品ばかり12編を集めたユニークな1冊です。
地震や火事、津波などの災害に関する論考はもちろんですが、それらに関わるデマについて言及した「流言蜚語」というエッセイにも注目いただきたいです。東日本大震災当時もあったように、大規模災害時には根拠のない流言が飛び交います。さらにSNSで加速・拡散していき、正しい情報の妨げとなってしまうのです。
寺田氏がこれらの作品を執筆した時代から国の体制も変わり、災害に対する研究も進んでいるため、その点を注意して読まなければならない箇所も見受けられますが、災害に対する考え方に向き合うという意味では、本書の意義はとても大きいものだといえるでしょう。
東日本大震災でもよく聞かれた「プレート」というキーワード。巨大地震発生の原因とその仕組みに大きく関わっており、メディアなどでも大きく取り上げられ、解説されました。
日本列島は複数のプレートの境界に位置しており、その下には海洋プレートが沈み込んでいます。海洋プレートに引きずられて歪んだ日本列島のプレートが、元に戻ろうとして跳ね上がったときに巨大地震が発生するのです。津波の発生にも大きく関与しています。
本書は、そのプレートの働きを解き明かす「プレートテクニクス」という地球科学を、図版をふんだんに使ってやさしく解説しています。地震を学ぶうえでの堅実な入門書となることでしょう。
島国に住むからこそ知っておきたい津波と海のメカニズム
東日本大震災において、わたしたちは津波の恐ろしさをテレビで目の当たりにしました。東北地方太平洋沖地震発生後、大きなところでは14~15メートル以上もの高さ、最大遡上高では40.1メートルにも及ぶ巨大津波が、東北地方や関東地方の太平洋沿岸部を襲い、壊滅的な被害を発生させました。
歴史を紐解けば、日本列島は巨大地震に晒されるたびにこうした巨大津波に幾度となく襲われ、甚大な被害を被ってきました。1896年の明治三陸津波でも遡上高が約38.2メートルであったと推測されており、死者行方不明者は2万人を超えるとされています。
そもそも波はどうして発生するのでしょうか。津波はどのようなメカニズムであのような恐ろしい被害をもたらすのでしょうか。この章では、海と波を科学的に解明していく1冊をご紹介しましょう。
四方を海で囲まれた日本列島で暮らすわたしたち日本人にとって、海はとても身近な自然のひとつです。豊かな海産物を使った料理に舌鼓を打ち、夏になれば海水浴に興じますが、実はわたしたちは「どうして波が起きるのか」ということを、義務教育で一度も学習したことがないのです。というのも波は、実はとても数学的で扱いにくいのだそうです。
そんななかでも本書は、「そもそもなぜ波が発生するのか」という波の誕生から津波の発生までを、科学的事実に基づきながらも図版を交えて分かりやすく解説しています。波はどこから生まれるのか、なぜ波は海岸に向かってまっすぐに打ち寄せてくるのか、なぜ波は隣に伝わるのか、津波がジェット機なみの早さで到達するというのは本当か──。
こうした身近で意外に知られていない波という現象の謎を、この1冊で紐解いてみませんか? プレートの働きにも大きく関わってきますので、ぜひ前述の『図解・プレートテクトニクス入門』と合わせて読んでおきたいですね。
大型台風の発生と海洋温度の関係は? 台風と渦巻きのすべてが分かる
9月1日は二百十日と呼ばれ、1年でもっとも台風が多く発生する日といわれています。台風は例年、日本列島の周辺海上でいくつも発生していますが、2016年は6月までひとつも発生しておらず、これは1988年以来のことなのだとか。エルニーニョ現象からラニーニャ現象に移り変わる今年のような例では、だいたいにおいて台風の発生件数が少ないといわれているようです。
とはいえ、7月に入ってから大型の台風が相次いで発生したのも2016年の特徴です。前述のように1922年に発生した伊勢湾台風は、5000人を超える犠牲者を出した超大型台風の例としてよく挙げられますが、こうした巨大台風が日本列島に上陸した際の被害は計り知れません。
先日も大型台風の注意喚起がなされましたが、今後の台風情報に耳を傾けながら、謎に包まれた大気現象といわれる台風のメカニズムがよくわかるこの1冊を手にとってみてはいかがでしょう。
北大西洋ではハリケーン、インド洋ではサイクロンと呼ばれ、日本では台風と呼ばれる熱帯低気圧について、「なぜなに?」に丁寧に答えるのが本書です。
毎年上陸して人的被害をもたらすこの台風、本書から引用しますと、「背の高さが16キロメートル、水平方向の広がりは差し渡し2000キロメートル」にも及び、平均的な強さの台風がある瞬間に保有するエネルギーは、「日本全国の年間発電電力量や、2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震のエネルギーにも匹敵」ということですから、いかにすさまじいエネルギーをもってわたしたちに襲いかかるのかが分かります。
いっぽうで、台風のメカニズムにはまだまだ不明な点があるのも事実で、それが近年の観測技術の発達により、少しずつ明るみになってきたそうです。
台風の命名規則や階級づけ、台風が発生し、発達・移動するメカニズムの謎、台風予報の現在や観測技術の最先端など、この不可思議な大気現象の最前線を捉える本書を片手に、ロマンにあふれた気象の世界を覗いてみませんか?