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2017.07.22

レビュー

【雨が好きになるミステリ】雨嫌いの女子高生と、雨の日しか登校しない先輩の秘密

『やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女』は、皆藤黒助(かいとう・くろすけ)さんの青春ミステリ。3つの中編で構成され、そのすべてに雨が関係しています。

本書の主人公で高校1年生の女子高生、空木五雨(うつぎ・いさめ)は雨が大嫌い。五つの雨と書いて、イサメと読む──いかにも雨と縁が深そうな名前で、6月28日の誕生日には「ほぼ毎年雨が降る」。運動会や遠足、文化祭など、イベントのたびに雨が降る「筋金入りの雨女」です。これでは雨が大嫌いで当然かもしれません。

その筋金入りの雨女に「五雨」と名付けたのは、彼女の母方の祖父でした。「お前が生まれたときにな、五色(ごしき)の雨が降っていたから」五雨だそうです。

ある日、その五雨の祖父が病院に搬送される。生死の境をさまよう祖父の手帳には、1枚のポラロイド写真が挟まっていた。「写っているのは、強いて言うのならば何処かの景色」で、「全体的に白い靄のようなものが」かかっている。「薄らと確認できる光の中心に黒い何かが見える。歪むようにぼやけているが、これはおそらく──人影」であり、まるで心霊写真です。

写真の裏側には、6月28日の日付と午前4時28分の時刻、そして「五色の雨の降る朝に」という言葉が記されていた。日付は五雨の誕生日のことで、時刻表記も彼女が生まれた時間とほぼ同じです。

五雨は祖父が旅立つ前に、自分の名前の由来であり祖父が見たという「五色の雨」の真相を知りたいと考えた。写真の謎がわかれば、「五色の雨」の真相もわかるかもしれない、とも。

五雨が相談を持ちかけたのは、ひとつ年上の男子生徒、雨月(あまつき)先輩でした。

雨が大嫌いな五雨とは対照的に、雨月先輩は雨が大好き。「どのくらい雨好きなのかというと、雨の日にしか登校してこないほど」。「それでは単位が貰えないのではと何度か忠告したことがある」そうですが、「彼はその偏屈なポリシーを決して曲げようとしない」そうです。要するに、だいぶ変わっているのですが、雨が大好きなだけあって、雨に関する知識は豊富です。

たとえば雨月先輩曰く「白撞雨(はくどうう)」とは、「天気雨」のことであり、「紅雨(こうう)」は、「春に咲く桜などの花を濡らす雨に用いられる言葉」だそうです。そうしたことをさらりと答えてくれる雨月先輩と五雨のコンビが、謎の心霊写真(?)と「五色の雨」の真相に迫るのが、1話目の「五色の雨の降る朝に」。

このレビューの冒頭にも書きましたが、本書は3つの中編で構成されています。各話共通して雨に関係した謎解きが行われ、もちろん謎解き役は雨月先輩と五雨のふたりなのですが、話が進むにしたがい、そのふたりの過去へと徐々に物語の焦点は定まってゆく。

雨の日にしか登校しない変わり者の雨月先輩は、問答無用で謎だらけですが、実は五雨にも、彼女自身よく思い出せない秘密の過去がある。その過去について詳しく書くと未読の方の興をそぐのであえて伏せますが、むしろそれこそが、この物語を支えている主題なのだろう、というのが僕の考えです。五雨と雨月先輩の噛み合わない会話は、読んでいてとても楽しい。雨に絡んだ謎解きも、個人的には新鮮でした。でもそれだけではなく、五雨と雨月先輩ふたりの過去が、密かにストーリー上の“核”として機能することで、本書をひとつ上の次元へと押し上げた印象があります。

『やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女』は、雨が大嫌いな五雨が、雨を好きになるまでの経緯を、ときにおかしく、ときに切なく、個々人の様々な感情を多角的に、痛切に描いた青春ミステリです。僕はどちらかというと雨が好きなほうですが、本書を読了してもっと好きになった気がします。人にもっと優しくしようという気持ちにもさせてくれました。ハートフルな雨が心に降り注ぐような温かい小説でした。

レビュアー

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赤星秀一

1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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